約 1,031,391 件
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/478.html
霊夢8 6スレ目 430 「あ、茶柱だ」 手にした湯呑みのお茶の中のそれに目を留め、思わずそう溢したって前もこんな事あった気がする。 とりあえず妙な既視感はさておき、ちょっと得した気分になった。 どことなく水が流れるように、漫ろに空を行く雲をぼんやりと眺める。 こうやって先の事を何も考えずに中空を見やっているのは嫌いじゃない。というより好きだ そうしてお茶をもう一口。 うん、悪くない。 「隣、いいかしら」 「あ、うん」 何時の間にか僕と同じく湯呑みを手に所持する霊夢が現れ、隣に腰掛けた。 その時発したよいしょ、という声に年齢を絡めて突っ込みを入れようとしたが、その後の報復を考え自粛。 霊夢は僕に話し掛けるでもなく、ただ横でお茶を啜っていた。 「お茶が美味しいわね」 「そうだね」 何だか最近、こうやって霊夢が僕の傍に来る事が多い。 ただ単に考えすぎなのかもしれないが、きっと回数を数えてみれば増えているのだろう。 いや、でもきっと偶然だ。 霊夢がここに来るのは別に僕がいるからではないのだろうと思っていた。 今日は天気も良く冬といえども暖かで、どこか春の訪れを感じさせる。 縁側で茶を啜るには絶好の日和だったからそうなのだろうと思った。 ……ホントだよ? 「もう春も近いねぇ」 「そうね」 どちらかが何か呟いて、もう片方が何となくそれに同意して。 正にまったりという言葉がぴったりの今日の僕らであった。 何時しか独白も賛同の声も途切れる。 だがこの沈黙を気まずいと思う事はなかった。きっと霊夢もそうだろう。 慣れた、というニュアンスよりも、必要がない、と言った方がしっくりくるだろうか。 そんな僕らの間には、しばらくお茶を嚥下する音だけが響いた。 「……あ」 ふと、流れる雲を呆けて眺めていた僕はある事に気が付く。 無意識の内に漏れた声は霊夢には聞こえていないようだった。 それはあまりに平和で忘れていた、しかし忘れてはいけない事。 全く、よくも今まで失念できたいたものだ。 自分の莫迦さ加減に思わず苦笑を浮かべる。 見ると、湯呑みの中のお茶はとっくに底を突いていた 「ねえ、霊夢」 「何かしら?」 少しだけ居直った口調で言葉を紡ぐ。 そんな僕の雰囲気を察したのか、霊夢も先までと比べ幾分か真面目な態度になる。 いずれは尋ねようと思っていた事だ。 それでも躊躇いを感じてしまうのは、きっと僕が此処を好きなのだからなのだろう。 「僕が元の世界に帰る方法って、あるのかな」 一瞬、霊夢の表情が堅いものになる。 その理由を推し量ることは出来たが、それは些か確信し難いものだったので早々に意識から追い出す。 だが一瞬の事だ。 いつも通りに見える表情がもう霊夢の顔にはあった。 「無いことはないけど……。ま、春になったら帰れるわよ」 その霊夢の言葉を聞いた時、僕の胸に訪れたこの感情は欣快か寂寥か。 自分でもよく理解できない気持ちが躰の内で渦巻く。 その後に訪れた不言不語の空気は、何だか居辛いものだった。 程なくしてじゃあ、とだけ言い残して霊夢は立ち上がりこの場を後にする。 縁側から去る霊夢は勿論後姿しか認められず、その表情は分からないままである。 理由は分からないのに、なんとなくその背中に罪悪感を感じた。 「春になったら、かぁ……」 そうして一人になった僕は思案に耽る。 ふと、ここに流れ着いてから今までの事を思い返したみた。 確かに此処での生活はあちら側では出来なかったものばかり、というか出来なかったものしかない位で新鮮で楽しかった。 魔法使いやらメイドやら吸血鬼やら人形遣いやら鬼やら、上げれば切りが無いほど個性的で魅力的で幻想的な連中ばかり。 それに何より、霊夢がいる。 こればっかりはあちらの世界ではどうしても代えようがない。 たった今気付いたが、あの不思議な巫女さんは僕の中で中々に大きな存在になっているらしい。 だけど。 「そんな事ばかりも言ってられないんだよなぁ……」 そう、此方ばかりに目を向けていてはいけない。 同様にあちら側にいる人達――家族、友人、その他大勢もまた、掛け替えの無いものなのだ。 それら全てを見捨ててまで、悲しませてまで僕はこちら側に留まる事など出来そうも無い。 僕は故意ではないといえ、何の前置きも無く彼らの前から消えてしまった。 きっと、いや必ず心配している筈だ。 少なくともそうさせてしまうほどにはあちらの人達を大切にし、大切にされていたという自覚はある。 「……どうしたらいいんだろうな」 中々難しい問題が僕の頭を擡げさせる。 もう余り時間も無いくせに、そう簡単には解決できない厄介な問題だった。 「…はぁ~」 解を導き出す事は出来ないものの、相も変わらず溜息だけはよく出る。 こちらとあちらの間でふらふらと揺れる天秤は、最後にはどちらに傾くのだろう。 懊悩としながら見上げた空は、僕の頭の中とは対照的に憎々しいほど晴れやかであった 日常というのは平穏なものだと考えられがちであるが、ドタバタと慌ただしい事でもそれが毎日毎日連続していれば、それも立派な日常と呼べる。 「よう」 だから彼女がこうして定期的にここに現れる事も日常と呼ぶべきなのだろう。 まあ受け入れ難い日常であるが。 日も沈みかけた逢魔ヶ刻。 空は宵に向けて、緋の色も黒橡に染まりつつあった。 いつも通り参道の掃除をしていた僕は、これまたいつも通りの挨拶をしてきた人物に答える。 「やあ魔理沙。どうしたんだい?」 一応形だけの問い掛けはしてみる。 だが魔理沙も自分がどんな目的でここに来ているか、僕が分かっている事など既にお見通しなのだろう。 彼女はこういうところで無駄に鋭い。 「そんな事言って、本当は分かってるんだろう?」 予想通り、質問を質問で返された。 うん、その通り。分かっているさ。 だけど分かっている事でも口に出したくない事ってあるじゃないか。 例えば、主に僕や霊夢が苦労する宴会の話だとか。 宴会では、盛り上がる連中は騒ぐだけ騒いで終わったらさっさと帰ってしまう。 まあそうでなくとも、皆勝手に帰ってしまうものだが。 だが博麗神社に居候の身の僕としては、文字通り目の前に拡がる光景というか惨状を無視できるほど義理人情が廃れてはいなかった。 というか、看過した場合の霊夢の対応が怖かった。 その為、片付けは主に僕と霊夢の二人で行う。 僕が来る前はこれを霊夢一人でやっていたんだし、と自分に言い聞かせてみるものの、やはり面倒は面倒だった。 避けられるなら回避したいものだ、と願いを口に出してみてもやはり気苦労は耐えない。 強くあれ、自分。 「……またかい?」 不快な表情と本日最大の溜息を隠匿しようともしない僕に対して、魔理沙はおう、と何故か胸を張って答える。 張っても大した事は無いなぁ、とは思っても口に出すほど僕は愚かではない。 そんな過ちは過去に一度で十分だ。あれは傷(と書いてトラウマと読む)になった。 「はあ……」 溜息を吐き出すのも何だか面倒になってきた。 特にアルコールを摂取したわけではないが頭が痛い。 半分の優しさはいらないから十分な効能がある薬が欲しい。 「そんなだと幸せが逃げるぞー」 「そんな簡単に逃げていくような幸福だったら、大した恩恵には与れないと思うんだけど」 「……ふむ、それも一理あるな」 万福は自分で掴み取るものであり、天禄などといった授かるようなものでは有り難味もあまり感じられない。 苦労して獲得したものほど得られるものも大きいのだ、というのが僕の見解である。 閑話休題。 「てなわけでよろしく」 何も理由が述べられていない上にあまりにも唐突なのだが。 まあ、これもいつもの事といえばいつもの事である。 彼女に僕の意見を通すというのは到底無理な事だからさっさと諦めるのが賢明だと判断する。 「……わかったよ。霊夢には言っておく」 きっと魔理沙の連れ合いになる人は苦労するんだろうなあ、とまだ現れないその人物に対して憐情を抱く。 僕のその返事を聞くと、魔理沙は満足そうに頷いた。 「じゃあ、夜になったらまた来る」 その言葉を最後に、魔理沙はつい先ほど来た道を引き返していった。 まさかこの事を伝えるためだけにわざわざここに来たのだろうか。 暇なんだか律儀なんだか、普通だと主張する本人には悪いが変わった人物だなあと思う。 「さて、と」 掃除は早めに切り上げて神社に戻る。 宴会の話は霊夢にも伝えなければいけない。 事の顛末を話し終えた後の霊夢の不機嫌そうな表情が、今からでもありありと想像出来た。 まあ、多少の愚痴は聞いてあげるとしよう。 重くなる気を紛らわすかのように、なるべく軽快な足取りで神社へと戻った僕であった。 ――そして迎えた夜。 或る所では意気揚々、また或る所では死屍累々。 鬼っ子と天狗が飲み比べをしながら得体の知れない笑い声を上げて酔い潰れていたり、 白玉楼の主が他人の料理にまで手を出そうとするのをその従者は敢えて見て見ぬ振りをしていたりといつも通りの宴会の風景が広がっていた。 僕にとっての平常もずいぶんと歪んでしまったものだ。 「……っぷはぁ」 ドンチャン騒ぎをしている連中から離れ、憂さ晴らしに、と一杯呷る。 もうこうなってしまった以上仕方が無いと、毎度の経験から学習している。 ならば先の事は暫し忘れて、今を楽しむのが得策であろう。 未来ばかりを気にしすぎて今を疎かにするのはきっと馬鹿な事だ。 ――それが何に対して向けられた言葉であるかは深く考えないようにした。 「随分と飲んでるのね」 突然、というほど驚いたわけでもないが、それぐらいのタイミングで霊夢が現れた。 「そうでもしないとやってられないというか……」 まごうことなきヤケ酒である。そして僕は未成年。 こんなんでいいのか。 でもまあ周りの環境がそんなんだしいいか、と切り捨てる。 霊夢は昨今と同様、僕の隣に腰掛けた。 だがそれだけでそれ以上は何もしない。 何かを言いそうで、だけど言い出せずにモジモジしている様だった。 霊夢から何か話がある様子はあるので、僕はそのまま待っている事にする。 「○○は……」 しばらくして霊夢が口を開ける。 うん、という相槌は自然と漏れた。 「春に、なったら、その……」 紡ぐ言葉は小さすぎて、最後の方は良く聞こえなかった しかし続く言葉が何であるかは言わずとも分かる。 だから霊夢が言い難いのであろうその言葉は、僕の声で遮った。 「まだ迷ってる、っていうのが正直な気持ちかな」 こちらに在るものとあちらに在るもの。 そのどちらも大切で、どちらも何ものにも代えられない。 それは優柔不断という一言では片付けられないほど難しい。 「……そう」 そう呟いた霊夢は、僕の返答に何を思ったのだろう。 残念ながら僕がそれを知る事は出来ない。 そして再び訪れた沈黙。 だがそれは割と早くに打ち切られた。 「おぉーーーーい、れいむーーーー!!」 この声はきっと魔理沙のそれだろう。 遠くからなのにこの声量。 彼女なら良い歌手になれるとその時僕は確信した。パートはソプラノだ。 「呼んでるみたいだし、行くわ」 霊夢は苦笑して立ち上がる。 その顔についさっきまでのどこか暗い表情はもう見られなかった。 この場から去る霊夢の後姿をぼんやりと眺める。 と、視界が歪み、それと共に来る頭部への痛み。 「ぬぅ……飲みすぎたかな?」 頭を押さえながら体を起こす。 足は中々に安定していない。これは完璧に酔っている。 「ちょっと、冷ましてくるかな……」 きっとその必要があるだろう。 我慢しても良い事は無いし、これ以上悪化したら拙い。 揺らぐ三半規管に力を入れて歩を進める。 俗に言う千鳥足にも近い足並みで、僕は宴会の喧騒から離れていった。 「はぁー……」 吐き出した息は周囲の大気との温度差により凝結し、僕の目に白く映りそして消える。 火照った体にはこのぐらいの温度が心地良い。 酩酊状態にあった頭も、漸く普段通りものが考えられるほどに回復してきた。 「さて」 心機一転、とまではいかないが、再び僕を悩ませる問いに対峙する。 いつまでも逃げているわけにはいかない。 少ない脳を最大限に活用して答えを弾き出さんとする。 うんうんと唸りながら歩いていると、ふと妙な気配を感じた。 「……ん?」 足を止める。 あくまで気配なので確実ではないが、ここは少し神社から離れている。 油断は出来ないだろう。 ――神社から離れている? 「……しまった」 自分で言った事を振り返り、周りを改める。 物を考えながら歩いていた為か結構な距離を進んでいた。 神社は目視できる位置にあるが決して近いともいえない。 相変わらず注意力が足りていない自分を咎め、足早に神社の方向に戻ろうとする。 が。 がさがさがさがさがさがさがさ―――― 「!」 疑心は確信に変わる。 明らかに耳に届いた物音。最早疑いようは無い、近くに何かいる。 上着のポケットから護符を取り出したその瞬間。 ――――それは暗闇から躍り出た。 「ガアアアアアアア!」 「……っく!」 驚いている暇は無い、即座に護符を突き出す。 『――――森羅結界』 「ギャン!?」 広がる障壁、起こる衝撃。 僕に噛み付かんと飛び掛ってきた妖怪が派手に吹き飛ぶ。 護符は与えられた責務を終え、音も無く散ってしまった。 初めて行使するその力に暫し呆けていた僕だが、こんな状況では一瞬の迷いが死に繋がる。 気を引き締め、残り少ない護符を再び構える。 以前、妖怪とは人間の恐怖心が生み出した幻想で、妖怪を見つめ直すことで人間が何を恐れているのか浮かび上がってくる、と講釈を受けたことがある。 なるほど確かにその通りだが、不幸な事に此処では幻想ではなく実体として現れていた。 「くそ……」 思わず悪態をつく。 見れば狼に似た姿をしたその妖怪はもう既に起き上がり、跳躍の為に姿勢を低く落としていた。 じり、と僕が後退りするのに従い、妖怪も一歩前に出る。 一触即発、という言葉が今の状況をそのままに表していた。 息を呑む。 似たような経験は一度した事があったので以前より落ち着いてはいたが、如何せん状況が状況だ。 心臓は目の前の相手に聞こえるのではないかというほどに高鳴っていた。 何とか均衡を保ったまま、一歩一歩亀の様に後ろへと歩を進める。 振り返ることはしない。目を離した隙に飛び掛ってくるかも分からないからだ。 とはいえ妖怪も学習はしているようで、無闇に飛び掛ってくる様子は無い。 このままいけるか?と希望を持ち始めた頃、僕はある事に気付く。 妖怪が、不気味なその口を大きく歪ませた。 そこから連想できたのは、笑み。 何故、と僕が疑念を抱くより早く、それは訪れた。 「っぐぁ!?」 突如として左足に走る鋭い痛み。 そして崩れる体を僕は制御できなかった。 「う……っあぐ」 うつ伏せに地面に倒れ伏す。 咄嗟の出来事であったため、顔面を打ち付けてしまった。 一時痛みに悶えていたが、後方から聞こえる荒い息遣いに自我を取り戻す。 何事か、と後ろに向けた僕の目には、もう一匹の妖怪が映っていた。 「まさか……仲間…が……」 足から流れ出る血が僕に生命の危険を告げるが、それと共に遠のく意識を繋ぎ止めるので精一杯だった。 ただ、じゃり、と妖怪が近づいてくる足音だけが嫌にはっきりと聞こえる。 死が一歩、また一歩と、僕を焦らせる様に確実ににじり寄って来た。 その表情は先ほどと同じく、大きく歪んでいることだろう。 「……っく……うぅう!」 起ち上がって逃げ出したいが、激しい痛みに遮られてとてもじゃないが敵わない。 生を引き伸ばそうと諸手で地を掴み、這いずる様に前へ進むが成果は乏しかった。 結局得られたものは、焦燥の代わりの絶望のみ。 「畜生……」 手の先、脚の先と体の端から順に感覚が薄れていく。 もう顔に張り付く地面の冷たささえ感じられないのに、妖怪がすぐ傍にいるという事は感じられた。 世界がこんなに暗いのは、きっと夜である所為だけではないのだろう。 途切れかける意識の中、何時の間にか愛しいと感じていた彼女を思い浮かべる。 (…………れ…い……………む…) 僕は、こんなところで終わってしまうのか。 強い無念と後悔の念を感じながら、僕の意識は闇に堕ちていった。 「ぅ……」 五感が芽生える。 目が光を捉え、耳が音を吸い込む。 そして肌に感じる程よい圧迫感から推測すると、どうやら僕は布団を被って寝ている体勢にあるようだ。 まず目が覚めた僕が視認したのは、仄かに薄暗い見慣れた天井。 そこからここがいつも僕が寝泊りしている神社の寝室だと理解するのにはそう時間を要さなかった。 不意に視界の端に人影らしい物を見つける。 とりあえずその誰かを何者であるか確認するため、横たわっている体を起こそうと試みた。 が。 「……っつぅ」 左足に走る痛みに顔を顰める。 忘れていた、というには大層すぎるほどの激痛だった。 どうやら僕は自分で思っている以上に鈍感なようだ。 なるべく足に負担を掛けない様、主に手を使って上半身だけ起こす。 そして僕が目に留めた人物は布団に体を預けどうやら眠っているようだった。 「……霊夢」 顔は突っ伏しているので分からないが、この独特な衣装からして十中八九間違い無い。 まあ独特といえば、幻想郷の住人すべてに当て嵌まる事でもあるが。 彼女に看病疲れをさせてしまったのだと思うと心が痛む。 ――――看病? 「あ」 そして自分の身に起こった事を今更ながら理解した。 脚に突き刺さる痛み、近寄る死の恐怖、そして途切れた意識…………。 もう助からないだろうと踏んでいたが、今もこうして生き永らえているという事は霊夢が助けてくれたのだろうか。 暫し思考していると、僕が動いたからか霊夢が眠たそうに面を上げる。 「……んぅ……」 目が合う。 霊夢の目線の先には当然ながら僕がいて、僕の姿を確認すると霊夢は大きく目を見開いた。 寸時見詰め合う二人。 そして訪れる沈黙。 双方ともに何も言わない。というか言えない。 時計の針を刻む音だけがやけに五月蝿く感じられた。 「――えーっと、おはよう、でいいのかな……?」 とりあえず、笑いかけてみる。 何とか言わなくてはという出所の分からない使命感に駆られ僕が発した言葉は、何だかとっても微妙なものになってしまった。 つくづく自分の即興性の無さには呆れ返るばかりである。 そういえば、部屋の明るさから察するに今は夜のようだ。 僕は随分と切羽詰っていたらしい。 だがその的外れな挨拶を受けても尚霊夢は止まったままで、どうしたのだろうと僕が心配した時。 ぼふっ 「……おっ?」 次の瞬間、僕の視界には再び先ほどの見慣れた天井が。 突然の出来事ではあったが、僕の胸に感じる圧力から何が起こったのか理解するのはそう難しい事ではなかった。 というか動けないんですがこの体勢。 と、不意に僕の耳に届けられる僅かな音。 「……霊夢、泣いてる?」 「ふ………ぅっ……ぁ…………」 返事の変わりに漏らされた嗚咽は、何よりも端的にその事実を僕に伝えていた。 しかしこれは困った。 この状態では起き上がろうにも起き上がれない。そうさせてくれない。 とりあえず理由を問わねば始まらないだろうと僕が思っていた丁度その時、それは微かに聞こえた 「ぉぃ………な……で」 それはとてもとても小さな声だった。 注意して聞かなければ聞き落としてしまう、しかし彼女の本心だった。 「おぃ……かなぃ……」 必死に、一途に。 唯その思いを伝えようと、彼女は僕に縋り付く 「おいて、いかないで……!」 そう、彼女の本心。 初めて一人でいる事に孤独を覚えた彼女の、 「私を、独りにしないでよぉっ!」 心からの、叫びだった。 「霊夢……」 真情を吐露し終えると、彼女はまた僕の胸に顔を埋めて肩を震わし始めてしまった。 全く、女の子を泣かせてしまうとは。 つくづく、僕は救いようの無い莫迦である。 「とりあえず、僕を起こさせてくれないかな?」 このままじゃ話も出来ないよ、と苦笑しながら子供をあやす様に背中をぽんぽんと叩く。 数刻そのままでいた霊夢だが、落ち着いたのか漸く面を上げてくれた。 その時に認めた彼女の顔の涙の後が僕の心を締め付けたが、これも僕の所為で流させてしまった涙だ。 目を背ける事は許されない。 「ねえ霊夢」 問い掛けるも返事は無い。 ただ伏せていた顔を少しだけ上げてくれた。 いつもは綺麗なその顔も涙で濡れてしまっている。 霊夢の姿は普段の彼女からは想像出来ないほど弱々しく、雨に打たれて震える子犬、乃至親と逸れた幼子の様だった。 だがそれも仕方が無い。 そうさせてしまったのは僕自信なのだ。 彼女はとても強かった、きっとこんな拙い言葉では言い表せないほど、とても。 でも、僕が現れてしまった。 以前僕が霊夢に助けられた時の彼女の反応から考えて、僕はきっと異常だったのだろう。 そんな僕との出会いが彼女から弱さを引き出してしまったのだ。 博麗として、その身が果てるまで独りで生きていこうと心に決めていた彼女に、人と触れ合う事の温かさを与えてしまった。否、思い出させてしまったというべきか。 僕が彼女の、その尊い決意を蔑ろにしてしまった。 ――――けど。 だけど、僕はこの選択が間違っているとは思いたくなかった。 これからの道のりをたった独りで、誰の温もりも受けずに生きていくのはとても辛い事だ。 そんな冷たい人生は見ているこちらまで悲しくなってしまう。 ならば気が付かなければ良かったのかもしれない。 彼女の悲壮な決意も、知る事が無ければ何事も無くそのまま維持されていたのだろう。 ――だけど、もう遅い。 僕は気付いてしまった。霊夢の悲しい決意に。 確かに僕は莫迦だが、目の前で苦しい思いをしている女の子を放っておけるほど愚かではない自覚はある。 「ねえ、霊夢」 労わりと優しさと、そして愛しさを込めてもう一度。 霊夢はか細い声でだが、うん、と返してくれた。 僕が彼女を弱くしてしまった。 そんな責任からではなく、何よりも自分の意思で僕は霊夢と共に在りたい。 その事を今、再認識した。 幸い霊夢もそう思ってくれている。 ならば―――― 「僕、春になったら元の世界に戻ろうと思うんだ」 僕の決意を余す所無く伝えよう。 霊夢の悲しみに濡れた顔が更に強張った。肩だけでない、全身が小刻みに震えている。 恐らく彼女の予想、というか期待していた言葉とは違ったのだろう。 辛うじてどうして、とだけ彼女の口から零れた。 だけど霊夢の予想とは裏腹に、僕の胸の内は彼女とは正反対だった。 とりあえず彼女の痛々しい姿はいつまでも見ていたくは無いので、僕も速やかに次の言葉を発する。 「――――そりゃ僕の親とかにお別れをしてこないといけないし、ね」 伸びる土筆、囀る鶯、麗らかな日和、舞い散る桜。 ――――――総じて、春。 春を告げる妖精が空を飛び回るのも、もう珍しくはなくなった。 ぽかぽかと暖かな日差しが気持ちいい。 春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので、こうしてまどろんでいると夢の世界へ直行してしまいそうになる。 そうになる、というか…………これは本当に…直行………… ………あー………眠………… 「こら」 何物かの声が聞こえると同時に頭に走る衝撃。 それは眠りの淵に陥っていた僕を覚醒させるのに十分な威力だった。 ぉおおお、頭が揺れるうううぅ。 「あ痛たたたた……。霊夢?」 振り返った僕の目に映っていたのは、微笑ましさ一割、呆れ九割といった表情を浮かべて玉串を携えている霊夢だった。 恐らくはその玉串で僕を夢の世界からサルベージしたのだろう。 もうちょっと愛情の篭もった起こし方が良かったものだが。 「全く……。ほら、そろそろ時間よ?」 「………時間?」 眠気に加えて先ほどの打撃もあったため、記憶をうまく呼び覚ませない。 ――――今日は何かあったっけな? いかん、全く心当たりが……あ。 「……あ」 思ったままを口に出してしまった。 一方で霊夢はやれやれといった感じの呆れ顔。 そうだった。今日は僕があちらの世界に行く日だ。 やっと思い出した僕は、未だ気だるい感じの残る体をよっこいしょ、と起き上がらせる。 その時霊夢に年寄り臭いわよ、突っ込まれた。 くそぅ、この前僕は我慢したってのに。 細かい事はさておき、特に準備するものも無い為そのまま境内に向かう。 果たしてそこには人影が。 この際、人じゃないじゃんという突っ込みは胸の内に留めておく。 「あら、漸く来たわね」 そこに立っていたのはスキマ妖怪の八雲紫さん。 文字通り妖しくて怪しい、そんな雰囲気の漂う女性である。 霊夢曰く、冬の間は冬眠していて最近になってやっと日の当たる世界に戻ってきたらしい。 ……熊? 「すいません、お待たせしました」 「それじゃ早速開くけど……随分と身軽なのね?」 紫さんが僕を眺めて言う。 確かに今の僕が身に付けているのはいつもの服と小さな鞄ぐらいのものだ。 その理由は、ここに来る時に僕が持っていたものが少なかったという事もある。 だが、何より―――― 「ええ。僕の家は此処ですから」 決意に満ちた表情で告げたという自信があった。 「ふふ、そんな事言われるなんて霊夢も幸せ者ね」 紫さんが扇で口元を隠しながら霊夢を横目でちらりと見る。 対する霊夢はジト目で紫さんを見据えていた。 だがそんなにも頬を紅くしているようでは迫力も何も無い。 そこから感じられるのは可愛さだけだった。 「○○、にやけてるわよ」 何時の間にか霊夢がこちらを向いていた。 おっと、知らぬ間に霊夢の顔を魅入ってしまっていたらしい。 しかしこのまま霊夢にイニチアシブを取られては不味いので、即座に僕も切り返す。 「しょうがないよ、可愛いんだから」 う、と小さく漏らし更に顔を朱に染める霊夢。 思わず顔を伏せてしまうその仕草も余計に可愛い。 こうした珍しい表情が見られるのはいいが、からかうのもこれぐらいにしておこう。 見れば紫さんも待ちかねているようだ。 「じゃ、霊夢」 「ん」 霊夢が伏せていた顔を上げ、応える。 それを確認した僕は紫さんの方へ歩いていった。 「お願いします」 「はいはい。じゃあ、いくわよ」 何も無い空間を、紫さんの扇が撫でる。 するとその軌跡から裂け目が生まれてみるみる拡がっていき、ぽっかりと穴が生まれた。 その向こうに見えるのは、懐かしさを感じる元の世界。 これから僕は元々の世界に行って、そこの人たちに別れを告げてくる。 期間は一ヶ月間。 その時間が終わるとまた紫さんがこちら側に戻してくれる事になっている。 一緒に生きていくと決めた。 お互いがお互いを必要としているならこの方法が一番手っ取り早い。 すなわち、ここで霊夢と一緒に年月を経る事。 それが僕にとっても霊夢にとっても最善の策だと思えた。 こちらとあちらの境界へ、一歩踏み出す。 ここを越えれば世界は変わる。 案外あっけないもんだなあ、なんて思ったりした。 ――と、忘れるところだった。 「霊夢」 後ろを振り返り呼びかける。 霊夢はそれに応えて顔を上げた。 もうここが僕の家。 変えるべき場所はこちらの世界にある。 ならばこう言うのが最も相応しいのだろう。 「行ってきます」 ここで僕の帰りを待つ彼女の為に。 何時か帰ってきたその時に言いたい、その言葉は胸に秘めて。 僕は笑顔で一言告げた。 「行ってらっしゃい」 だから彼女も笑顔で告げる。 何時か僕が帰ってきたその時には、きっと言いたい言葉があるのだから。 だけど今はやっぱりその言葉は胸に秘めて。 少しでも会えなくなるのは寂しいけれど。 その分再開は嬉しくなるから。 その日を迎える待ち遠しさを、今は心の糧にして。 ――――僕は世界を飛び越えた。 大丈夫。君にまた会える少し先の未来までは、独りで歩いていけるから。 だからその時は、こう言い合いたい。 平凡だけど、心から望んだそんなやりとりを。 「ただいま、霊夢」 「お帰り、○○」 ────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/106.html
■霊夢2 前回書いた霊夢ものの続きです。つーかエピローグ化しました。 何話かあるものを無理やりまとめたので 無駄に長いです。ごめんなさい。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ようやく迎えた春、花たちが目覚める季節。 おなじみの(といっても俺は始めて見るが)ほんわか妖精が、満面の笑顔で春を伝えるこの良き日に、 「○○~、準備できたの~?」 「ああ、今行く!」 俺は帰り支度を整えていた。 俺がひょんなことからここ幻想郷に足を踏み入れることになったのは、去年のこと。 正しく人災――いや、妖怪が起こしたから妖災か?――に巻き込まれた俺は、そうして俺をここに「招いた」妖怪に仕える、九尾の狐の八雲 藍さんの計らいで、博麗神社という所に厄介になっていた。 「運がよかったよな、正直」 神社での暮らしは新鮮だった。 初めのうちは男女一つ屋根の下という事もあってかなり緊張したが、一月とたたないうちにいつもの調子を取り戻せた。 というか、家主である博麗霊夢が、そういったことをまるで気にせずいつもどおりだったので、何か気にするのが ばかばかしくなった。というのが正しい。 今にして思えば、あのころはなんというか、男として見られてなかったような気がしてちょっと気が滅入る。 「そういえばそのあたりからだよな、霊夢の様子がおかしくなったのは」 「私がどうかした?」 「うわっ!?」 ふと、思い出したことを口にすると、いつの間にかそばに来ていた霊夢が返事をする。 突然のことだったので、ちょっと驚いてしまった。 「何よその驚き方は…。いつまでも出てこないから様子を見に来てあげたのに」 「あ、ははは。悪い、ちょっとな」 あわてて謝る。 いかんいかん、考え事で周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だな。 「まあいいけど…で? 私がどうしたの?」 「ん…、いや、俺がここに来てからの事を思い返してたんだ」 苦笑しつつ聞いてくる霊夢に、俺は最後の荷物をかばんにつめつつ答える。 俺の言葉に、霊夢は人差し指をあごに当て、しばし考えるしぐさをする。 「あれから3ヶ月…か」 「正確にはもうちょっと長いんだがね。まあそのくらいか」 「改めて考えると意外に短かったのね。もっと前から暮らしてた気になってたわ」 「はは。…で、ここに世話になってから一月程した頃、霊夢から相談されたろ」 「あ、…あの頃の事ね…なんか恥ずかしいなぁ」 ここの暮らしに慣れ始めた頃、霊夢の様子がおかしくなった。 普段はいつもどおりなのだが、時折ひどく不機嫌…と言うか、情緒不安定になるのだ。 本人曰く、俺が別の人――例えば、霊夢の友人で魔法使いの少女、霧雨魔理沙とか――と話をしているのを見ると、 だんだん心がもやもやしてきて…そうなるらしい。 今にして思えば「ああ、そういうこと」と思わず「ニヤソ」としてしまうような話だが、 「自分は男として見られていない」と信じていた当時は原因がまったく分からなかった。 いや、可能性のひとつとして考えてはいたが、「ありえない」と切り捨てていたというのが正しいだろう。 霊夢に対して淡い思いを抱いていたその頃の俺は、何とか霊夢の力になりたいとその方法を模索していた。 その一環として、霊夢がよくお世話になっている、俺もいろいろとよくしてもらった古道具屋の主、森近 霖之助さんに相談した。 「あの時妙に遅いと思ったらそんなことを…」 「早いほうがいいと思ったんだよ」 「それで? 霖之助さんはなんて言ってたの?」 「うん…」 結局のところ、処置なしというのが結論だった。 もっと正確に言えば、これは霊夢自身でどうにかすべき問題であり、周りがちょっかいを出すべきでない、と。 「まあ、そうでしょうね」 「ああ」 そして、同時にこうも言われた。 「もしも君が霊夢の力になりたいのなら、そのことこそが大事だ。ならば、今はだめでも、いずれ君が力になれるときも来る」 …と。 「なったかしら? なってないわね」 「ひでえ」 「冗談よ。あなたには助けられたわ、いろんな場面で。…多分」 「多分かよ」 「そうですねぇ、いろいろありましたもんねここ最近。いやはや、記事がたくさんかけて助かりました」 「……」 「……」 「? どうしました? お二方とも黙りこくって…」 突然増えた声に、しかし今度はあわてず騒がず、声の主のそばへ向かう。 「あれ? 何で○○さんは私の後ろに…? 霊夢さんは霊夢さんで何か笑顔がこわ「ど・の・ツ・ラ・さ・げ・て・んな事言うかこのデバガメ天狗はああっ!!」みぎゃあああっ!?」 握り拳に懇親の力をこめて声の主の側頭部を挟み込みグリグリする。 古典的お仕置き法として親しまれているだけあって、妖怪にも効果は高かった。 この声の主、こいつの名前は射命丸 文といい、「文々。新聞」という新聞を書いている新聞記者だ。 鴉天狗という、幻想郷の外でも(日本限定ながら)割と馴染み深い種族の彼女は、しかしその多くの人が抱いているであろう 天狗のイメージを、多分木っ端微塵に砕いてくれる。 何せ彼女ときたら、幻想郷の女の子達の噂を求めて西東、天狗仲間からも情報を集めたりするうち、どんどん話が大きくなっていく。 最終的に彼女が記事にする頃には、事実が1、嘘が3、大嘘が6くらいの割合になっているらしい。だれかJAROに連絡しろJAROに。 しかも、聞くところによればジャンルの違いこそあれ、天狗という種族は大なり小なりそういう傾向にあるらしいという。 …俺の幻想を返せよ。 「うう…ひどいです。私が何したって言うんですかぁ」 「自分の胸に手を当ててよく考えてみろ」 「分かりません」 「即答!?」 「当たり前じゃないですか。私はただ真実を見出し、事実を記事にしただけです。それの何が悪いんですか」 「あんたのその自称「真実の記事」とやらのおかげで、こっちはいらない迷惑をこうむったのよ」 「あの時は大変だった…」 霊夢の件で悩んでいた頃、こいつは一体どこをどう誤解したのか、事もあろうに俺と霊夢と魔理沙の間で 三角関係が出来ているなどと書きやがったのだ。 確かに魔理沙とは親しくしていた。話していて楽しいし、飽きない。それに、いろいろと世話になっていたりもした。 例えば、外から来た何の力も無い俺のために、わざわざコネを使って護身用に特注の呪符を用意してくれた。 後で、それを理由に堂々ととある図書館に入り浸っていたという話を聞いたあたり、本当に好意かと思ったりもしたが。 しかし、俺も魔理沙もあくまで友人としてお互いに好意を持っていたのであって、恋愛対象ではなかった。 なのにこの記事が出たおかげで、人形遣いやら図書館の主やら吸血鬼姉妹の妹の方やらに何度か殺されかける羽目になったのだ。 同様に詰め寄られた霊夢もかなり嫌そうな顔をしていた。あの頃は(俺への感情とかの)自覚もなかったので、別の意味でも かなり不機嫌だった。 「何であなたなんかと…」 と、食事時のたびにぶつくさ言われて胃に穴が開くかと思った。 魔理沙は魔理沙であの頃から何かの研究を始めたらしく、人を寄せ付けずにお篭りしだした。 そのため、新聞に気づいて誤解を解きに動き出すまで結構間があり。それも事態の混迷化に拍車をかけた。 要するに苦労したのだ。マジで。 「それを貴様は…」 「で、でも結局はこうなったんだからあながち間違っては…。そうですよ、私はむしろお二人の恋を支援したんです。 て言うかキューピッド? だからそんな風に言われるのは心外です!」 「反省の色無いよこいつ…」 「…○○」 「ん?」 お騒がせ天狗娘のあまりといえばあまりな開き直りに、むしろ呆れが生まれてくる。 そこに霊夢が声をかけてきて、そちらを向くと、霊夢はこぶしを握り親指を立てていた。 「……」 無言でそのこぶしを反転、親指で地面を指す。その意味するところを理解した俺は 「みぎゃあああああっ!! いたいいたい地味に痛いです、ごめんなさいごめんなさいもうしません、もうしませんから力抜いてあああああーっ!!?」 私刑執行。 しばらく後、涙目で頭を抱えうずくまる文に、霊夢は素敵な笑顔で説教をしていた。 うん、見たくない。夢に出るよあの笑顔は。 ややあって、俺は外に出た。霊夢はまだ文に文句を言っている。 境内には、俺のためにわざわざ見送りに来てくれた人たちがいた。…ありがたい話だ。うん。( T-⊂) その中に、談笑をしている魔理沙を見つける。向こうもこっちに気づいたようで、声をかけてきた。 「よ、おそかったな」 「ああ、ちょっと片付けながら思い出に浸ってた。」 「なんだそりゃ、年寄りじゃあるまいし」 「悪いか。…所で霖之助さんは?」 「香霖は店だ。お前によろしくってさ。」 「そっか」 なんともいつもどおりな調子の会話。とてもこれから自分の世界に帰るなんて思えないほどに。 だがまあ、その気楽さが微妙にうれしかった。 霖之助さんに会えないのは残念だが、まあ仕方ないか。 「今日でお別れね」 「向こうでも元気にやりなさいよ」 「ああ。ありがと」 そう声をかけてくれるのはアリス・マーガトロイドとパチュリー・ノーレッジ。どっちも魔理沙の知り合いで、魔法使い。職業ではなく、種族の。 二人とは魔理沙がらみの件で特に親しくなった。誤解で殺されそうになったあの件だ。 「取り乱してしまってすまない」と、本当に申し訳なさそうに謝る二人に、何だかこっちが悪い気がしてしばし謝罪合戦になったのは ちょっとほほえましい思い出である。その後ろにイイ笑顔の紅白と黒白がいなければ。 「そうだ。パチュリー、これ」 「なに?」 言って取り出したのは3枚の呪符。魔理沙が俺のため(と図書館入りびたりのため)に彼女に特注してくれたスペルカードだ。 「ああ…。そういえば結局お詫びの新しいカードは渡せずじまいだったわね」 「そうだね」 このカードは、外の世界から来た何の力も無い俺のために用意された特別のスペルカード。 ふつうのカードはひとつの「属性」及び「効果」に特化したものが多いのに対し、このカードは「属性」こそ単一だが 「効果」が一定ではない。イメージによって多彩な効果を発揮できる汎用性に優れたカードだ。 どちらかといえばそういう「便利な」カードは上級に分類され、簡単なことならむしろ自前の魔力・霊力でこなしてしまう。 しかし俺の場合、そもそもその「力」が無い。 ということで、動力源となる魔力を蓄える電池の能力と、実際の効果を発動するスペルカードの能力を併せ持つこのカードが生まれたのだ。 まあ、なれないカードの扱いをしかも一度に二つ三つの効果を併用させて…なんてするより、「飛ぶ」とか「飛び『ながら』撃つ」 という感じで、出来るだけひとつのイメージにまとめてしまえたほうがいいのでは? というところから来ているのだが。 初心者向けな分効果は弱いし限定的ではあるが、その辺は仕方が無い。 何でも、適切なレクチャーと訓練、そして相性のよさがあれば、こういう「初心者向け」のアイテムは誰でも使えるものだそうで、 俺もまた自分と相性のいい属性を調べてもらい、その属性のカードを作ってもらったのだ。 ちなみに俺の場合、風、雷、そして土の系統との相性がよかったらしい。 お詫びの…とは、記事の件で殺しそうになってしまったことへのお詫びに、アリスにも協力してもらって、より性能のいい カードを作ってもらう約束をしていた件である。 完成したそれを受け取りに行く途中妖怪に襲われ、死ぬ思いをした。 その後のごたごたもあって結局うやむやになり、新しいカードはお蔵入りとなってしまったのであった。 「返しておこうと思って。向こうでは使わないから」 「何だ、返すのか?もったいない」 「いいの? もしものときのことを考えたら、あったほうがいいと思うけど」 「そうよ、無くて困るよりはいいわよ?」 そういってくれる三人に、俺は首を振った。 「どっちみち充電しなきゃ使えないし、俺には過ぎた力だよ」 「そう…」 差し出されたカードをじっと見つめるパチュリー。ややあって顔を上げると、彼女は笑顔でそれを受け取った。 「そういうことなら受け取っておくわ。でもよかった。あなたが力の使い方を誤るような人種じゃなくて」 「そうね、魔理沙みたいにいろいろ間違いまくってるのも困るし」 「心外だぜ、私のどこが間違ってる」 「吹き飛ばすことしかしないじゃないの」 「この前私の人形コレクションがひどいことになったのは誰のせいかしら?」 「う…。お、おい、お前からも何か言ってくれ。ひどい言いがかりだぜこれは」 「俺は力の使い方とかそういうのの基準はよく分からんが…少なくとも邪魔者を吹き飛ばしながら本とかを強奪しておいて 『借りただけだ』とか嘯くのはいろいろ間違ってると思う。わりと」 「ひどいぜ…」 魔理沙、轟沈。 ひとしきり笑いが起こる。 「でも残念ね、あなたならこのカードのさらに面白い使い方を考え出してくれそうだったもの。…あんな無茶をするあなたなら」 「それを言うなよ…」 新しいカードをもらいに行く途中、妖怪に襲われて死に掛けた件のことだ。 湖で⑨な氷精に思いっきり迷子にされ、さらに追い討ちをかけるように宵闇の妖怪に追い回されたのだ。 「何だ、そんなやつにてこずったのか」なんて考えたやつ前に出ろ。同じ状況に放り込んでやるから。 カードのおかげでそれなりに戦えると言っても、所詮は素人。 ましてや比較的平和な外の人間の俺では、(幻想郷の)一般人レベルにすら勝てるかどうかである。 そんなやつに期待できるものじゃない。 真っ向勝負は自殺行為と即座に判断した俺は、とにかく知恵をめぐらせて姑息に生き残る事を選んだ。 スペルカードの「イメージしだい」という特性のおかげで、そういう小手先の手段は想像力の限り用意できる。 カードにプールされた魔力が尽きなければ…という制約付きではあるが。 あるときは風で匂いや音を操って相手の捜索を逃れたり、またあるときは土くれで人形を作ってそちらを追いかけさせたり… 結論から言えば、それは成功した。 しかし、こうむった被害もまた甚大だった。 何せ、最終局面ではカード3枚中2枚が魔力切れ、相手が気紛れに放った光線(ムーンライトレイというらしい)を受けて 右腕が大やけど、天候は最悪の嵐、さらに相手はここ数週間何も食べていないらしく異様な執着――そうでなければとっくに逃げれただろう――を見せる。 いや、もう終わったよ。と正直思った。 いい加減覚悟を決めるか、そう思ったとき、霊夢の顔が頭をよぎった。 俺は、霊夢のことが好きだった。 でも、そのことを告げることをせず、胸に秘めたまま元の世界に帰るつもりだった。 相手にされていないと思っていたから。玉砕するのが怖かったから。 霖之助さんにかつて相談したとき、そのことを突っ込まれた。 「力になりたいのが、好きだからという理由なら、なぜ、そう言わないのか」と。 俺はその時、 「いずれ別れるからだ」と答えた。「どのみち別れ別れなら、言うだけ無意味じゃないか」と。 霖之助さんは何も言わなかった。俺もそれ以上言わなかった。 霖之助さんは気付いたから、俺もわかっていたから。 「それは、タイムリミットを理由にした逃げだ」と。 単に怖かった。今のまったりした関係が壊れるのが。 単に嫌だった。彼女のそばにいづらくなるのが。 言えば壊れる、すべてが変わる。 いいほうに変わる保証なんて無い。なら…今のままで。 …でも、その日、その瞬間。 「それこそ二度と、あえなくなる」 そう理解した、その瞬間。 何よりも、ただそれだけが、 それだけが、怖かった。 ……その後のことを、詳しくは覚えていない。 治療してくれた永遠亭の薬師さんによれば、かなり強引な「見立てスペル」による緊急離脱を行ったらしい。 生命の危険に際し、カードがイメージのリミッターを外し、多少強引な解釈も受け入れて術を行使したのだという。 その結果、俺は右腕のみならず全身がボロボロの状態で境内で発見されることとなった。 ちょうど、探しに出てくれていた魔理沙たちが一度戻ってきた頃だったため、発見が早く、手遅れは免れた。 ただ、第一発見者の霊夢――心配のあまり暴走寸前で、魔理沙たちに待機を厳命されていた――は、 俺の惨状を見てそのまま気絶してしまった。 俺が横になっている間、霊夢はほとんどそばを離れなかった。 散々怒られた。 甘んじて受けた。はたかれたりもした。 完治がちょっと遅れた。 ある日彼女に、あの時感じたことを言った。 散々泣かれた。 痛くてろくに動かせない体に抱きつかれ、散々泣かれた。 完治がもうちょっと遅れた。 でも、 得たものは大きかった。 さすがは蓬莱の薬師といった所か、かなりのダメージだったはずが割と早く治った。 が、大事をとってもう少し療養することになり、帰るのが少し遅れた。 少しだけ伸びたタイムリミットを、二人で有意義に過ごした。 そして、今日に至る。 「あんなまねは多分二度と出来ないよ。したくも無い」 「そうね。好き好んで死にたがるようなのはそういないわね」 肩をすくめる俺に、苦笑するパチュリー。 まあ、自分が同じ目に遭えなんていわれたら困るわな、そりゃ。 「そういうわけだから、勘弁。まあ、どうせもう帰るんだけどさ」 「ふうん、やっぱり帰るのか」 「ん?」 またも突然の声にそちらを向く。そこに立っていたのは… 「声はすれども姿は見えず…」 「…貴様、どっちを見て言っている?」 「んー? 上のほうかな」 「殺して欲しいのか?」 「いやいや、待てちみっこ。悪かった、わざとだ、誓って悪気があった」 「殺すぞ。それにちみっこって言うな」 「却下だ」 「本気で殺すぞ」 「全力で逃げるぞ」 「貴様な…」 憮然とした表情で俺に文句を言うのはレミリア・スカーレット。パチュリーが住んでいる「紅魔館」の主で、小柄ながら強力な吸血鬼の少女である。 しかしながら、初めて会った宴会の席で、酔っ払った彼女が見せた幼児化「れみりゃ変身」のインパクトのせいか、どうにもいまひとつ怖いと思えない。 結果、「ちみっこ」なる、おそらく本人にとっては甚だ不本意であろうあだ名で呼ぶのが俺脳内で定着してしまったのである。 …ちなみに、本当はもう一人ちみっこがこの神社にいるはずなのだが、最近ふらりとどこかへ行ったきり宴会のとき以外は戻らない。 …どこかに寄生してるのか? あの鬼っ娘は 「まったく…、これから帰るというから見送りに来てやれば何だその態度は」 「人一人殺しかけた妹に向かって、その被害者候補(つーか俺)の前でこともあろうに『まじめに殺れ』などとぬかすやつに 言われたかぁ無い」 「あれはお前が霊夢を取ろうとするかr「はいはい」…頭ポンポンするな。…なでるな! 子ども扱いか貴様!」 「注文の多い吸血鬼だなこのちみっこはまったく。いっそ逆レストランでも開いたらどうよ?」 「何の話だ…」 毎度毎度こんな調子。 どうにか威厳を見せようとするレミリアと、ことごとくスルーする俺。 俗に言う雑魚妖怪とやらにも勝てない癖して、何なんだろねぇ、俺のこの微妙な心の強さは。 まあ単に本気を出されて無いだけなんだろうが。 と、レミリアがあきらめたように深くため息をついた。 「はあ…もういいわ。今回は紅魔館を代表して見送りに来たの。仮にも『あの』霊夢が選んだ男だしね… まあ、ありがたく思いなさいよ?」 それはそれは、と礼を言おうとして、しかしいるはずの人物がいないことに気づく。 「あの人畜有害メイドはどうした? あと、それならさっきひとしきり噛み締めた」 「咲夜が有害なのは敵に対してだけよ。例えばいつまでも礼儀をわきまえない誰かさんとかね。 とりあえず、感謝してるようならいいわ。後、咲夜は今フランの相手してるわ」 十六夜 咲夜。レミリアの従者で、紅魔館のメイド長。何でもそつなくこなし、ナイフ投げが得意。 彼女には何度額を割られかけたことか…。 そして、フランドール・スカーレット。レミリアの妹で、アリスやパチュリーともども俺を「消し」に来た一人だ。 あの時はひどくいやな予感がして、とっさに土の符で地中深くもぐって逃げた。 最もすぐばれたが、あわやと言う所で魔理沙が現れ、矛先がそっちに向いてくれて助かった。 あの破壊力は耐え切れん。て言うか日中に来るなよ、夜でも困るが、愛の力か? 「さすがメイド長、あのじゃじゃ馬の相手とは。しかしお前が代表か? パチュリーが代表だと思ったが」 「私は個人的な知り合いとして見送りに来てるのよ」 素朴な疑問にパチュリーのほうを向くと、即効でそう答えが返ってきた。 「ということ。咲夜のほうも心配ないわよ、優秀な肉の盾もあるしね」 「そういうことなら納得。しかし、門番さんも不憫なこって。メイド長もひどいねー」 即「盾」の意味が分かる俺もあれだが。ちなみに門番さんの名前は紅美鈴(ホンメイリン)、あだ名は中国。不憫。 「それが仕事でしょ? …さて、意外と話し込んじゃったわね。まだ挨拶して無い面子が要るんでしょ? 行ってきたら?」 「ん? …ああ、はいはい」 言われてそのままよそに送り出される。まあ、今日が最後なんだから最低一言は直接礼を言わんとな。 と、鳥居の方を向くと珍しい取り合わせの二人がいた。 片やブレザーにうさみみ、以前俺を治してくれた永遠亭の薬師、八意 永琳(やごころ えいりん)さんの弟子で、月の兎の鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)。 永琳さんの助手としていろいろがんばってくれた。 片やでっかい人魂持ち、冥界の白玉楼という屋敷で、主の亡霊姫、西行寺 幽々子に仕える半人半霊の護衛兼庭師、魂魄 妖夢。 宴会のときに知り合い、短い間ながら戦いの基礎を教えてもらった。俺はかじる程度だが剣道をやっていたので、少しは応用の利くものがあるかも、と思ったのだ。 この二人、生真面目な従者つながりといったところだろうか、話が弾んでいるようだ。 「や、二人とも来てくれたんだ。ありがと」 「ああ、○○。こんにちは」 「こんにちは。その後の経過はどう?」 「至って順調。剣が振れる位には回復したよ。木刀だけど。永琳さんにもお礼を言っといてくれる?」 「了解。がんばった甲斐があったってものね。…まあ、師匠が出張ったんだから当然だけど」 「ええ、本当によかった」 得意げな鈴仙と、わがことのように喜ぶ妖夢。ごめんな、心配かけて。 「でも無理は禁物ですよ、体というものは鍛えただけ強くなるけど、酷使しただけ壊れるのも早いんですから」 「その辺のバランスを見極めろってことね」 「ええ。向こうに帰っても、精進を怠らないように」 「肝に銘じるよ」 でもしっかりと釘は刺される。まあ、無理して体を壊すのは俺もいやだし。 と、なにやら二人がごそごそと自分のポケットをあさりだす。なんだなんだ? 「そうそう。これ、私が作った薬。師匠にもちゃんと見てもらったから、効果は保障するわ」 「こっちはこれを、幽々子様お手製のおいしい食堂のリストです」 「お、サンキュ…って、座薬かよ。言っちゃ何だが、使いどころが難しいな…効能は何なんだ?」 「疲労回復とストレス解消、後すり傷とかの治療かな」 「どー言う座薬だよ! しかも傷って、それじゃ痔にしか使えねえよ!」 「しょうがないでしょ、師匠の課題もかねてるんだもん。材料と製作工程はは師匠のお墨付きだから大丈夫よ…多分」 「俺実験台!?」 「人聞き悪いなあ…。モニターよ、モニター」 「あのなあ…。で、こっちのリストは…って、まっさらのノート!?」 「このお手製ノートに、外のおいしいお店を場所からお勧めから網羅してくるようにと…」 「俺が書くのこれ!? つーか外の世界にまで食いに来る気かよあの食いしん亡霊は!」 「えーと、その…強くあってください」 「いやいや、強くとか言う問題と違うと思うよ、妖夢さん!」 「いいから持ってく!」 「お願いします…」 「マジかよ…」 畜生、意外な落とし穴だ。 よもやこの娘らに胃痛を覚えさせられる羽目になろうとは。 「あはは…まあ、礼は言っとく。ありがと。…とりあえずあとでな?」 何かどっと疲れたのでその場を辞する。うう、癒してマイハニー。 「何やってんの?」 グッド・タイミィィィン!! …って、 「何だ、萃香か」 伊吹 萃香(すいか)。先ほど述べたもう一人の「ちみっこ」にして、幻想郷でさえ姿を見せなくなったという「鬼」の少女。 平たく言えば酔っ払い。 「ご挨拶だなー、せっかく今回はわざわざ気を利かせてみんなを萃(あつ)めてやったっていうのにさ」 「お前の仕業なの? …ならまあそこは礼を言うが…一体今までどこにいたんだ?」 「別に? いたよここに」 「(゚Д゚)ハァ?」 キョトンとする俺に、赤ら顔の萃香はケタケタと笑いながら 「だから、気を利かせたって言ったでしょ? せっかく二人っきりなんだから、邪魔しないように『散って』たんだよ」 「…それデバガメとかいわね?」 「どうだろ? ヘンな事はして無いんだしいいんじゃない? むしろプラトニックすぎていらいらしたけど」 「デバガメじゃねーか…ってちょっと待て、ここにいたってんならもしかしてあの嵐の日も…」 「ああ、あんたが大怪我したあの日? うん、いたし知ってたよ、あんたの居場所も。でもあんたが頑張ってたから手を出すに出せなくてね」 こともなげに言い放つ。おいおい、勘弁してくれよ。 「出してくれてたらあんな怪我は…」 「でもそれ以上のものを手に入れたじゃん」 「…まあ、な」 「結構気に障ってたんだよね、あんたたちの煮え切らなさが。だからまあ、どうにかなるならそのほうがって。結果オーライだね」 「…そういわれると怒れないわね…」 「って、霊夢?」 いつの間にか外に出ていた霊夢が、そういいながら話に加わる。ふと出入り口のほうを見ると、真っ白くなった天狗の姿。 とりあえず黙祷をささげた。「自業自得」と。 「まあ、聞かれてたら答えたんだけどね? でも霊夢ったら気が動転して私のことすっかり忘れてたみたいだし」 「あれは迂闊だったわ。うん」 「でもまあ、いい方に転がったんだからいいじゃない。あんな霊夢の姿はそうそう見れないから、私も得したしね」 「忘れなさい。それは」 ニヤケる萃香。天狗を圧倒した霊夢の凄みも、酔っ払い相手に赤面しながらでは効き目が薄いらしい。 「その後の告白も…いやー砂糖吐くかと思った」 「ってちょっと待て、お前まさか…!」 「ん。聞いてたよ? 一言一句逃さず」 「キャーーーーーーーーーーー!!!!」 うわやべえよ、あんなの聞かれてたよおい、助けてー! 「ほほう、それは面白そうだ」 どっから沸いて出た魔理沙! 「で? どんな感じだったんだ?」 「キメ台詞は確か『ただ霊夢のところに帰りたかったんだ』…っかー! やっぱ極限状態だということが違うねー!」 「あははははは! たしかになー!」 あうあうあー! 勘弁してくれー! 「さらにそのときの霊夢と来たらぶぁっ!?」 おもむろに吹っ飛ぶ萃香。突然のことに驚き、呆然とする魔理沙。 俺は思わず、自分の隣を見た。 神、再臨。 「…お、落ち着け、話せば分かる。な?」 すっかりおびえた魔理沙。見ると萃香もなにやら隅っこでガタガタ震えている。 絶対的な恐怖が支配する中、霊夢が口を開いた。 「○○」 「お、おう」 「ちょっと先に紫のところに行っててくれる? 私はこいつと話があるから」 「いえす、まむ!」 触らぬ神にたたりなし。なにやら酔いが醒めたっぽい青ざめた顔で、助けを求め哀願するような顔でこちらを見る魔理沙と萃香に、さわやかな顔で手を振りつつ全速で後退する。 本日の犠牲者カウント、3。 「なにやら楽しそうね、霊夢は」 「そうっすね」 「というか私はあの二人がかわいそうに思えるのですが…」 「あら、じゃああなたが止めに行く?」 「…謹んで辞退します」 「らんさまー、こわいー」 「落ち着け橙、つーかそこは俺の頭だ。首折れるから、おい」 「こら○○、お前は橙が重いというのか!?」 「人間の身体強度を常識で考えてくれ」 相変わらず親ばかチックな藍さん。 そんな藍さんになつきまくりな猫又の橙(ちぇん)。 そして彼女らを従える、スキマ妖怪、八雲 紫。 マヨヒガに住まう幻想郷最強クラスの妖怪一家、満を持しての到着だ。 「でもよく分かったわね、私がそうだって」 「明らかに藍さんとかを従えてたじゃないか。水戸○門みたいで分かりやすいことこの上ない」 「あらあら、でも最近のあの番組少し微妙じゃない? 昔のキャスティングとかに慣れてるとちょっと違和感が…」 「見てるの!?」 「ドラ○もんもどちらかというと前のキャストのほうが好きだなぁ」 「そっちまで!?」 だめだ、この人はいろいろ桁違いだ。かなわねぇ。 「それはそれとして…今回は悪かったわね」 「ん? …ああ、いや」 すまなそうな顔で言う紫さん。 すっかり忘れてたが、そういえばこの人が原因で俺はここに来たんだった。 紫さんは一転、真剣な目で俺に言う 「今日、あなたを元の世界に帰します。やり残したこととかは無い?」 「ああ」 俺の答えに、紫さんの目がやや険しくなる。 「…本当に?」 「? …ああ、無いが」 「そう…」 言いながら、紫さんは霊夢のほうを見る。 なにやら複雑な感情をたたえた目だ。一体何なんだ? 「…言っとくけど、また来るぞ?」 「え?」 こっちを振り向き、ほうける紫さん。うん、ナイスキョトン。 「だから、また来ると言ったの。向こうでまだやり残した事があるんだよ、挨拶しときたいやつもいるし、片付けなきゃならない事とか色々」 驚いた表情を見せる。ああ、やっぱそこを気にしてたのか。 「……でも、ここを出たら…」 「知ってる。もう入れないんだろ? 少なくとも同じ手では。霊夢に聞いた。その上で決めた。また来るって」 「…どうやって?」 「どうやっても何も…おあつらえ向きに、この神社だけはこっちにも向こうにもあるだろ? だから探すんだよ、ここを」 「簡単じゃないわよ」 「承知の上。長く待たせることになるから、そこだけ霊夢に謝ったけどね」 「霊夢はなんて?」 「なるべく早く帰って来いってさ」 「…そう」 「ああ。なんてったって、ここは俺が一番帰りたい『家』だからな」 「ん。…分かった、どうやら杞憂だったみたいね。でも、約束は果たすのよ?」 「当然。」 笑顔に戻った紫さんに、ぐっと親指を立てて答える。紫さんは満足そうに頷き、背を向けた。 「そろそろお茶の時間でしょ? 送り返すのは一服入れてからにしましょ。藍、○○も、みんなを呼んでくれる?」 「はい」 「りょーかい」 一足先に縁側に向かう紫さんを尻目に、俺は霊夢たちを呼びに行った。 しばしの休息の後、俺たちは鳥居の前に集合した。 「さて…じゃあ、準備はいい?」 「いつでも」 紫さんが俺に声をかける。もうすぐ、一時ながらこの世界に別れを告げることになる。 「短い間だったが、楽しかったぜ」 「カードのほうは、また来たときのためにちゃんと調整しといてあげるわ」 「私も手伝ったんだから、楽しみにしてなさいよ?」 魔法使い三人娘のお言葉。ああ、楽しみにしとく。 「また会うまでに、もう少し目上の者に対する礼儀を学んでおきなさい」 ちみっこ吸血鬼。いや、たぶん無理っしょ。 「使い心地はレポートで提出してね」 「すみません、最後に変なこと頼んで…」 兎と半霊。似てると思ったらこんなところで対照的。て言うか兎よ、実験台にも愛をくれ。 「またいい記事のネタ、期待してますね?」 「お土産は酒とつまみー」 天狗と鬼。て言うか懲りろ、お前ら。 「向こうでも元気で」 「またねー」 式神 s。ああ、そっちも元気で。 「○○…」 そして霊夢。…俺は霊夢のそばに行き、彼女を軽く抱きしめた。 霊夢もまた、俺の背に手を回す。 「じゃあ、行ってくる」 「…あんまり、遅くならないようにね?」 「ああ」 霊夢から離れ、紫さんの待つ鳥居のそばへ。 そこにはすでに、「穴」のようなものが出来ていた。 「じゃあ、しばしのお別れね」 「ええ」 「…まあ、頑張ってみなさいな。…応援くらいは、してあげる」 「ありがとう」 振り向き、今一度みんなの方を見る。 「みんなありがとう! …じゃあ、また!」 そういって手を振る。みんなも思い思いに手を振ってくれている。 俺は、目の前の「穴」に…飛び込んだ。 「…君、君。大丈夫かね?」 「…え?」 気がついてみると、見知らぬ場所。 俺が住んでいた町の…確か、近くの林。 ほんの数ヶ月のことなのに、木々の隙間から見える町並みが、ひどく「合わない」と感じた。 起こしてくれた背広のおじさんに礼を言って別れ、俺は久方ぶりの町を歩き始めた。 さて、「家」に帰るか…。 あれから、どのくらい経っただろう。 今日もいつも通り。境内を掃き、お茶を飲み、たまに来る客の相手をし、休む。 単調な日々のようで、一日一日がまるで違う日常を送る中、私はあいつを待ち続けた。 幻想郷という「隠れ里」 そこに至る者は多くない。 多くは事故でここに迷い込み、あるものは妖怪に食われ、あるものは野垂れ死に、一部の運のいいものは自力なり保護されたりで、ここにたどり着く。 今日はたまたま迷い込んだ子供を、元の世界に帰してあげた。 …あいつは、いなかった。 「まったく…のんびりしてるんだから」 そういいながら、布団を敷く。せっかく干しておいたあいつの分の布団は、今日も無駄になってしまった。 「早く…帰ってきなさいよ」 ぽつりと言って、布団にもぐる。ふと、言いようの無い寂しさがこみ上げて来る。 誰と…魔理沙と一緒でも、ぬぐえないこの感覚。やっぱり、慣れない。 「…っ」 また今日も枕がぬれる。あの馬鹿、帰ってきたら枕の直しはあんたの仕事だからね! そしてまた、一日が始まる。 春が来る。 あいつが行ってしまった季節が。 暖かなはずのこの季節は、しかし最近私をブルーにする。 ほんとに…いつまでかかってるんだか。 何度目かの正月を迎えた、朝。 お雑煮は暖かいけど、どこか寒かった。 だから、食べる気がしなかった。 去年も帰って来なかった。今年は…どうだろう。 寂しい、寂しい、寂しい。 寂しさで気が狂いそうになる。 こんなことなら、あいつを送り出すんじゃなかった。 こんなことなら、あいつを引き取るんじゃなかった。 こんなことなら、あいつを好きになるんじゃなかった。 そうすれば、こんな気持ちにならなかったのに。 そうすれば、私はいつもの私でいられたのに、 そうすれば…。 …でも、きっと寂しいのは変わらなかった。 ただ、気づくか否かの違い。 「馬鹿…」 コタツに突っ伏して、ポツリと呟く。 もう、耐えられないよ…。 「…あれ?」 不意に、ある音が耳に響く。 私の感覚に間違いが無ければ、あれは… 「お賽銭の…音?」 酔狂なやつもいたものだ。 ここ数年、あの賽銭箱にはろくにお金が入っていない。 まあ、幻想郷のものはそういうことはあまりしないから、 よくは分からないが、とりあえずお金を入れる気になったやつがいたのは驚きだった。 鈴の音が響く。 どうやら拝んでいるらしい。 本当に物好き。 ご利益なんて期待しないでよー。 …そう思いながらも、足が向く。 幻想郷のものは、賽銭なんて入れないから。 賽銭なんて入れるのは、本当に気が向いた暇人か、あるいは… はたして、そこにいたのは。 「…何してんのよ?」 「ん? …初詣。今日元旦だし」 「あんたね…一体今日がいつの元旦だと思ってるのよ?」 「元旦は元旦だろ? お参り位してもいいじゃないか」 「そりゃあね。でも…」 「?」 「その前に…挨拶くらい…しな…さいよ…」 「…ああ、そうだった」 ああ、もう。 こいつはほんとに相変わらずなんだから。 いつでも、馬鹿ばっかり言って。 いつでも、痛い目にあって。 そのくせ、約束だけはちゃんと…、 「まあとりあえず、明けましておめでと。…なんか食うもの無い? 体冷えちゃって」 「はいはい、冷えたお雑煮でよければね」 「えー、あっためなおしてくれないの?」 「火の無駄よ」 「ひでぇ」 お雑煮は冷めてたけど、どこか暖かかった。 だから、本当においしかった。 もう、どっかに行っちゃわないでね…。 あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴm(ダマレ orz 上手くかけない…。 こんにちは、退避所の37です。 前回あげた分の続き…と言うか、まとめてエピローグにしちゃいました。 いろんな人に励まされ、調子に乗ってキーボードを叩いてみました。 やってみるとホント大変ですね、こういうのって。 改めて職人の皆さんのすごさを痛感します。 これからもがんばってください。 この下のチルノの裏は愚痴です。スルー推奨。(マテ ~チルノの裏~ ていうか何だこれ…。 いろいろと書きたいことがあったはずなのに、上手く文章に出来ない。 もっと上手い表現などいくらでもあろうに…。 今回の主人公君には賛否両論…と言うか文句? 出ると思ってます。いろいろ変なものつけすぎました。 すべてわが不徳のいたすところです。orz プロットの内容を考えると楽に5話近く行く計算に…。オネガイ、ナカッタコトニ>orz エピソード解説がキャラ解説っぽいものと一緒に行われている感じで、霊夢ものなのに中盤までは出番少ないし。 何気にこのあとがき部分も途中まで書いてた第2話のあとがきの流用だったりもするし。 もうちょっと短くまとめる力がほしいです。 ごめんね、おいらじんせいけいけんあんまりないから、ごめんね。 ~ここまで~ 198 ─────────────────────────────────────────────────────────── 初冬の朝。 突然障子が開かれ、部屋に光が差し込む。 「起きなさい!何時だと思ってるの?」 霊夢だ。心なしか怒っている様にも見える。 「ああ…おはよう、霊夢。」 「おはようじゃないでしょ?今日は朝から境内の落ち葉を掃くって言ってたじゃない。」 そう言えばそんな事言っていたな…。 だが、この布団の心地よさは捨てるのは実に惜しい。 「ああ、そうだった。」 俺は手を差し出す。 「何?」 疑問に満ちた目で俺を見る 「起こして。」 「はぁ…。まったく…。」 霊夢はため息を吐き、俺の手を掴んだ。手の感触が伝わってくる。 俺はそれを…力を込めて引く! 「きゃっ…!」 バランスを崩した霊夢が倒れてくる。 丁度霊夢が俺に覆いかぶさっている形になる。 「な、な、何するのよ!」 霊夢の頬は赤く染まっている。多分、俺の頬も赤い。 「ん、春度補給。」 「もう…そんな事言って…。あっ…。」 俺は霊夢を抱きしめてキスをした。 「ぷはっ…。」 流石に苦しくなり、唇を離す。 「このまま時間が止まればいいのに…。」 「メイドにでも頼んでみるか?」 「バカ…。」 結局、二人で布団から出たのは昼になってしまった。 霊夢とイチャつきたかった。後悔はしていない。 …しかし描写下手だな俺。 テンコー! 218 ─────────────────────────────────────────────────────────── 前回書いた霊夢ものの続きです。 あらすじはこの前の「まとめてエピローグ」にて紹介してしまったので目新しい部分は無いのが申し訳ないですが、 とりあえずお送りします。 ちょっとシリアス気味です。 途中で一回だけ視点変更があります。ご注意を。 後、ごらんになる方はそれなりの覚悟を ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なるほど、そんなことがねぇ…。 どおりで、いつもと少し感じが違うと思ったよ」 「ええ…って、やっぱり分かるものなんですね」 「はは、伊達に何年も霊夢と付き合ってはいないからね」 ここは幻想郷の古道具屋、香霖堂…の、蔵。 ひょんなことからここ幻想郷に滞在することとなった俺は、博麗 霊夢という少女が巫女をつとめる、博麗神社にお世話になっていた。 今日この店を訪れたのは、俺という突然の居候の影響でお茶やらなにやらのたくわえが心もとなくなってきたので、 その辺の補充に来たのである。 ここで俺は、補充に来たいくつかの品の蔵出しを手伝いながら、店主である霖之助さんにちょっとした相談をしていた。 それは割と唐突だった。 最近ほぼ毎日のように神社に来る、魔法の森在住の普通の黒魔術師、霧雨魔理沙。 霊夢と並び、幻想郷に来て特にお世話になった一人だが、彼女と雑談をしていたとき、ふと霊夢の様子がおかしくなったことに気づいた。 何と言おうか、彼女にしては珍しく、とてもイライラしているようだったのだ。 そのくせそれを指摘すると、「何でもないわよ」の一点張りで、にべも無い。つーか怒ってんじゃん。 しかし、後になって落ち着いた彼女から話を聞くと、自分でもなぜあんな態度をとってしまったのかまったく分からないそうで、 非常に戸惑っていた。 分かったことといえば、どうも原因が魔理沙との雑談にあるらしいということくらい。 あの時話していた内容は取り留めの無い、それこそいつも話しているような内容で、特に何かの問題なり何なりがあるとも思えなかった。 …内容が犯罪じみていた(また魔理沙が図書館を襲撃した件)のは確かだが。 結局、二人で考えたが理由やその他の結論などは浮かばず、そのまま寝ることになった。 お世話になっていることや、その他もろもろの理由を含め、霊夢の力になりたかった俺だが、一人でどうにかするには いろいろと足りないと思い、幸いにも翌日――つまり今日の事だが――こうして霖之助さんをたずねることになっていたので、 人生の先輩に相談しようと思ったのだ。 「結論から言ってしまえば、たぶんそれは僕の出る幕じゃないと思うよ。霊夢が自分で気づくか何かしないことには…ね」 いきなり役に立たねえなこの道楽店主 「何かひどいことをいわれた気がしたけど?」 …はっ!? なんだったんだ今の(心の)声は… いえ別に思ってませんよ? へんなこと考えてませんよ? 「…まあ、気のせいだろうけど」 「はあ…。でも、それじゃ俺はどうしたらいいんでしょう?」 「と、いうと?」 「その…なんていったら言いか、俺、どうにか霊夢の力になりたいんですよ。 お世話になったからってのもあるけど、その…」 顔周りの温度が上がるのを感じる。きっと今俺の顔は誰が見ても真っ赤になっているのだろう。 「俺は、たぶん、霊夢の、事が…「ああ、ストップ」?」 「大体分かった。とりあえず、その言葉はいずれ本人に言うべきだ」 言われた言葉に、思考が、止まる。 それは一瞬のことだったろう。しかし、それが俺に突きつけたものは… 「…はあ」 「少なくとも、その気持ちがあれば大丈夫だろう。君は霊夢のことを大切に思っている。そのことこそが大事だと思う。 ならば、今はだめでも、いずれ君が力になれるときも来るさ」 「…はい」 霖之助さんの言葉に、うつむいたままの自分。 シンプルで、たぶん正解であるはずの言葉。でも、心は晴れない。 「…何か、あるのかな?」 霖之助さんが、俺に聞いてくる。 俺は、その問いかけに… 「おそかったのね、○○も霖之助さんも、そんなにへんなものを頼んだ覚えはなかったんだけど」 「ああ、ちょっと奥まったところに入り込んでいたのがあってね。いささか難儀したよ」 「魔理沙じゃあるまいし、ふだんから整理しておけばいいのに」 「いやここ店だから、整理整頓基本だから。つかそこで彼女を引き合いに出すのもどうだろな…」 思いっきり嘆息する霊夢の物言いに、思わず突っ込みを入れる。しかし本人はどこ吹く風。まあ、霊夢らしいというか何と言うか。 「まあいいわ。ちょっと待ってて、お茶入れてきてあげるから」 「ああ、ありがとう」 「サンキュー。って、それ香霖堂(ここ)のお茶であって神社のお茶じゃ…」 「はは、まあいつものことだしね」 「そこであきらめるんですか霖之助さん…」 そして始まるまったりタイム。俺たち以外の客がいない店内で、しばし静かな時間が流れる。 霊夢のほうもこの時間を楽しんでいるらしく、ニコニコしている。うん、よかった。そこへ… 「…お、いたいた、やっぱここだったか。おーい香霖、邪魔するぜー」 台風上陸。 「…で、そのときに幽々子のやつがな?」 「はいはい、その夜雀も災難なこって。…霊夢?」 結局また魔理沙のペースになる。昨日の今日で少しは気にしてるかと思ったが、全然そんなことは無いらしい。 それはそれで、また霊夢が昨日のようになっちゃいないかと心配になってくる。今は霖之助さんと話をしているようだが、 ちょっと声をかけてみる。 「え、なに?」 「えっとその…大丈夫か?」 「何が?」 「いやほら、昨日の…」 最後まで口には出さない。分かるだろうし。 「…ああ、大丈夫よ。そう何度も来るものでもないみたいだし」 「そうか、ならいいんだけど…」 お茶を飲みながら、湯飲みを持ってないほうの手をひらひらさせる霊夢。 一応大丈夫そうではある。が、油断は出来ない。 「何だ? 霊夢どうかしたのか? そういえば昨日もなんか様子が変だったけど…」 「うん、ちょっとね。…大丈夫よ、何かあるってわけでも無いから。体調もいいしね」 「そうか? なら、いいんだけど…」 「うん、ありがと」 魔理沙も霊夢を心配するが、霊夢の答えにやや釈然としないものを感じつつも引く。 こういうときの彼女は時に驚くほど強情だからだ。 「はは、さて、そろそろ時間も時間だし、戻ったほうがいいんじゃないか? 特に霊夢たちは荷物もあるだろう」 「え?」 言われて外を見ると、日暮れまであと一時間半ほどというところだった。 「ありゃ、結構話し込んじゃったな…」 「そうね、そろそろ帰りましょうか。じゃあ霖之助さん、今日はありがとね」 「今日の分はつけにしておくよ」 「魔理沙の?」 「待てこら霊夢、そこでなんで私になる」 「なんとなくよ。○○、荷物はよろしくね」 「へーいへい」 そして飛び立つ霊夢と俺。なぜ一般人の俺が飛べるかについては気にするな。 魔理沙の知り合いの魔法使いにその手のマジックアイテムを都合してもらっただけだ。 しかし今回は荷物が多い。普段からそんなに早く飛べるわけが無いが、さすがに今回はちょっともたつくしふらつく。 難儀していると前を行っていた霊夢が、 「ほら、早くしないと日が暮れちゃうわ。少し持ってあげるから、早く」 そういって俺から荷物を半分ほどひったくり、再び前へでる。彼女のこういうところが結構かわいく思えるのは俺だけだろうか。 荷物が軽くなってもそんなにスピードが増えるわけでも無いので、しばしのんびり空の旅。 しばらくするとまた霊夢が俺に並ぶ。やや神妙な顔をして。 「…さっきはごめんね」 「何が?」 首を傾げる俺。 「お店で、心配してくれたでしょ、私のこと」 「ああ、まあね」 「実を言うと…また、だったの」 「え、そうなの?」 「うん」 やっぱりそうか、と思う。霖之助さんがいるとはいえ、シチュエーション的には昨日とほぼ変わっていなかったから。 俺と魔理沙が話しているのを見て、“もやもや”したのだろう。 「本当に…どうしちゃったんだろう、私。いつもはこんなこと無いのに、最近になって…」 「うん…」 霊夢の表情が暗くなる。自分の中で何が起こっているのかわからないのだ。 しかしそれは、霖之助さんの言葉を借りるなら、霊夢自身でどうにかしないといけないもの。何とかして力になりたい俺だが、 それでもおそらく、こうして聞き役に回るとか、ほんの少し支える程度のことしか、出来ることは無いだろう。 …いや。 実のところ、本当にうぬぼれていいのなら、心当たりが浮かばないでは無い。 だが、それはあまりにも自意識過剰な想像で、ある意味「こうであったら」という俺の願望そのものともいえる。 あるいはそれが正解かもしれない。というか、それ以外にすぐ浮かんでこない。 しかし…、それを俺が口に出すことは彼女を振り回すことになるのではないか? それに違ったら違ったで失礼極まりない話だ。 よしんば正解だとしても…それならなおさら、俺にはどうすることも出来ない。 どうすることも… 「理由を、教えてもらえるかな?」 「結果はどうあれ、いずれ、別れることが分かっているからです」 『霊夢には気持ちを告げられない』…。そういった青年は、僕の問いかけにそう答えた。 「俺は異邦人です。事故によって紛れ込んだイレギュラー、本来あるべきでない要素。 次の春が来ればここを離れ、おそらく二度とここに来ることは無い。…たとえ可能性があるとしても、結果の決まった勝負に、 出るつもりはありません」 そういう彼の顔は、しかし、自分で自分の言葉に納得してはいないようだった。 彼は、平たく言えば逃げていた。現実に立ち向かうこと、結果を出すことから。 なるほど、拒絶されれば確かに気まずくなる。多少はつくろえても、いい思い出とするにはやや時間がかかることだろう。 万が一にも結ばれたなら、それはそれで究極の遠距離恋愛だ。二度と会えない遠くなど、いくらなんでも。 とりあえずのタイムリミットを言い訳に、先延ばし…いや、うやむやに済ませてしまえればと考えているのだ。 そして、そんな考えを自覚し、嫌悪してもいる。 …挑むことにおびえ、そのことに憤り、でも一歩を踏み出せない、悪循環。そんな感じの顔だった。 言葉で、諭すのは簡単だろう。でもそれでは届かない。何か、きっかけが要る。彼にも、霊夢にも。 「けど、それを僕が与えてやることは不可能…か」 「? 何の話だ香霖?」 「いや、ちょっとね」 二人が去ってから、僕は外を眺めつつ先ほどの会話を思い返していた。 己の変化に戸惑いを隠せない霊夢と、それを支えようとしていながら、自らもまた薄氷の上にいる彼。 どちらかに転機が訪れない限り、この先にいいことはあまり無いだろう。 といって自分に出来ることは僅かだし、その少ないレパートリーの中には、すぐ役に立つような何かは無い。 つまるところ、適当なときにアドバイスをあげるのが関の山で、余計な手出しをせず静観するのが精一杯なのだ。 彼が霊夢を傷つけることは無い。少なくとも自発的には。 だが結果的にそうなってしまうことはある。そして往々においてそういうときのダメージは馬鹿に出来ないのだ。 そう考えると、早いうちに何とかしないといけないのだが…その割にどこか落ち着いている自分を自覚する。 どこか、言うほどに心配していない自分を。 …まああれだ、「あの」霊夢だ。 そしてその霊夢が、無自覚ながらも見初めた男だ。 そう簡単にはへこたれやしないだろうし、何より周りがそうさせまい。 これまでがそうだったように、これからも一筋縄の日常ではいかないことはわかりきっている以上、そうあわてずとも、 きっかけはおのずからやってくることだろう。 冬以外限定の常連の、あの少女の言葉ではないが、幻想郷はどこまでも残酷だ。 だが同時に、どこまでもやさしい世界でもあるのだ。 後は、彼らの想いの強さ次第、といったところなのだろう。 「僕に出来るのは応援だけか。まあ、それはそれでいいんだけどね」 「だから何の話だよ」 「ああ、また口に出てたか。何、ちょっと考え事をね」 「そうか? まあいいけど。…さて、あいつらも帰っちゃったし、そろそろ私も行こうかな」 「はは…」 実に淡白な魔理沙の言葉に苦笑する。と、ふとあることを思い出す。 「そういえば魔理沙、聞きたいことがあるんだけど…」 「ん?」 「彼のこと、どう思う? 今日もよく話していたみたいだったけど」 「ああ、あいつか? そうだな、好きだぜ」 「そ、そうなのか?」 「ああ。いろいろ外の面白いことを教えてくれるし、反応も面白いし、話していて楽しい。」 「そうか…」 一瞬びっくりした。 まさか魔理沙も…と思ったが、彼女の「好き」はどうやら友達としての「好き」のようだ。 もしこの娘が加わったなら、かき回し役としてそれはそれはいろいろやってくれそうだと思ったが、とりあえず言わない。 しかしこの言い方だと、聞きようによってはちょっと誤解を招きそうな気がするのは気のせいだろうか? 「最近はさ、どんなことを教えてやろうかとか聞かせてくれるかとか結構楽しみなんだよなー。 特に外の世界で人気の物語の話なんか笑えたぜ? ぜんぜん違う話の振りして何気にワンパターンだったりとかさ」 「へえ、それは興味深いな」 「今度聞かせてもらうといい。さて、じゃそろそろ…」 「ああ、引き止めて悪かったね」 「いいさ、後これもらってくな。じゃーなー!」 「ああ、って魔理沙! それは最近流れ着いたばかりの、こらー!」 そのまま飛び去っていく魔理沙に、思わずため息をつく。 まあいつものことだし、どうせ明日にも使い方の説明でも聞きに来るだろうからと、すぐに気持ちを切り替える。 また、あの二人のことが浮かんだ。 彼女のように、彼らもまた、このまったりと騒がしい幻想郷の日常の中で、立ちはだかるものを笑って突破できる力を得られることを 祈りつつ、僕は店じまいの準備を始めるのだった。 ~チルノの裏~ (近くの茂みにて) ―ガサガサ、ゴソゴソ。 「…面白いことを聞きました。これは調べなければですね」 ―うん、やっぱり騒がしい。 ~ここまで~ あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― こんにちは、退避所の37です。 こんなんでも待っててくださる方がいるなんて…( Tд⊂)アリガトウ というわけで一応の「2話目」です。 相変わらずヘタレでスマソ。 こーりんです。 真面目こーりんです。 褌は多分出ません。 最近ごたごたしてるので次がどのくらいかかるか分かりませんが、次あたり文とかアリスとか出るかと。 では。 234 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霊夢ものクリスマス特別変(←誤字にあらず) まったく持って最近は寒い。 火鉢にコタツ、どてらも動員してようやっとノーマルレベル。 さすがは大自然の冬。あの頃のエネルギーに満ちた俺ならともかく、今の俺では…。 「年はとりたくないねぇ~(-ヮ-)」 「藪から棒に何言い出すのかしらこのコタツムリときたら…(-ヮ-)」 「れーむにいわれたかにぇ~~ぃよ~~~ぅ(-ヮ-)(たれ)」 「語尾延びてるわよ~~~ぅ(-ヮ-)(たれ)」 俺の向かい側でコタツに入ってたれてる霊夢。 まったく、久しぶりに会ってすっかり女らしくなったと思えば相変わらずだなぁ。 …と、再開直後には思ってた俺だったが、さすがに2シーズン目ともなると俺にまで伝染してくる。 うん、俺のこのたれっぷりは霊夢のせいだ。間違いない。 多分どっちもどっちだ。ってけーねが言ってた。 「寒いぜ寒いぜ~…っと、何だ、久しぶりに見るなぁ霊夢のコタツムリ」 毎度おなじみの声が響く。 これまた驚くほどきれいになったが、成長しても男言葉と、いたずらっ子チックの笑みは変わらない魔理沙だ。 彼女は勝手知ったるなんとやらとばかりにあがりこみ、そのままコタツに入り込む…って、 「こら~、まりしゃ~。なに○○のとなりにはいってりゅのよ~ぅ」 「しょうがないだろ、外は寒いんだ。少しでもあったかくするにはあったかい物に近づくのは基本だぜ」 「だからって俺に密着するなよ…」 おかげでまどろんでた頭がかなりはっきりした。冷たくて。 「む~…ならわたしもとなりいくぅ」 「おいおい待て霊夢、狭いから、狭くなるから!」 「まりしゃはよくてわたしはだめなの~ぉ?」 「そういうわけじゃなくてさぁ…」 しばし言い合い。 結果。 「えへへ~」 「あ~…(赤面)」 「いやいや、ここまで来ると暑いぜ」 なぜか霊夢をひざの上に乗っけることに…。 つか、霊夢の奴コタツムリ化したついでに幼児化して無いか? 今のお前はかなりスタイルが良いから俺の理性が危険度数倍なんですが? 魔理沙は魔理沙でとっとと向かい側に退避しやがるし…。 「しかし珍しいな、お籠りは順調じゃないのか?」 「そういうわけでもないぜ。ただ今日はあれだからな」 「~~♪(もぐもぐ)」 とりあえず落ち着いてお茶を飲む3人。 霊夢だけはみかんを食っているが。 「あれって言うと…クリスマスか?」 「正解だぜ。で、プレゼントでも…と思ったんだけどな、この寒さで持ってくるのを忘れてしまったんだ」 「それはそれは」 お前の場合貰う方専門じゃないのか? 「○○~、みかん~」 「はいはい」 あーん、と口をあける霊夢の口に、むいていたみかんを一房入れてやる。 幸せそうに口をむぐむぐと動かす霊夢の姿は、何と言うか… 「まるで鳥の雛だな、親鳥は大変だねぇ」 ち、先に言われた。 「なによぅ、いいじゃない、別に」 「はははは…」 「まあ良いや、とにかくそういう訳で、何かくれ」 ゴン 頭打った… 「お前な…」 何がそういうわけだ? 何が。 大体今までクリスマスのことを忘れてた俺らに何を期待する? 「冗談だ。実は香霖のところで面白い本を見つけてな? ちょっと作ってみたものがあるんだ」 「ほう」 「なに?」 「これだ!」 そういって持ってきた風呂敷包みをあける。その中には紙の箱。そしてさらにその中には… 「…ケーキ?」 「クリスマスケーキだぜ」 「なるほど、ってことは本ってのはお菓子作りの本か…ってええっ!!? 魔理沙がお菓子ぃっ!?」 「私だってこのくらいやるさ。じゃあ、ケーキは持ってきたから…」 「はいはい、飯は頼むってんだろ」 「そういうこと」 「あー、じゃあ作りにいくか。そういうわけだから霊m」 「むー(ぎゅ)」 だきつくなー 「…ここに飯たかりに来たのは間違いだったか?」 「そっちもその「やれやれ」なジェスチャーはやめれ。霊夢、とにかく飯作らんことには始まらんから、な?」 「うー…(離れ)」 「なぁ、何か最近霊夢が幼児化してないか?」 「あー…ノーコメントだぜ」 「しかし…クリスマスに鍋ってのもなんだかな」 「文句があるなら食うなよ、いいじゃねぇか、あったまるんだからさ」 「ま、確かに」 「そうそう、おいしいからいいのよ(はふはふ)」 というわけで晩御飯。 とりあえず渋る霊夢(またひざに乗ろうとした)を説得し、コタツの3辺それぞれに座る。 渋っていたわりに鍋をつついてご満悦の霊夢。この様子なら問題ないか。 魔理沙は魔理沙で文句を言いつつもパクパクと食べている。 そんなわけで、クリスマスの鍋パーティーはつつがなく進行したのだった。 「あ、魔理沙それ私のお肉!」 「早い者勝ちだぜ。霊夢だってそんなに確保してるじゃないか」 「いや待てこら、俺なんかいまだに肉一切れも食べて無いぞおい! ってもうねぇーっ!?」 …進行したのだった。(T-T) 「おじやのあとのケーキってのも…」 「作ってきたのは魔理沙だろ?」 「そうそう、それによくできてるじゃない? おいしければいいわよ」 ケーキタイム中。 魔理沙が作ったのはチョコレートケーキだった。 まあイチゴとかはさすがにこの時期は手に入りにくいもんな 「しかしまさかこの前の注文がこれのためだったとは…」 「外の行き来は基本的にお前だけだしな。しかしホント、食べ物の季節感が無いんだな、外って」 実は以前、魔理沙に頼まれ、霊夢と紫さんに許可を得て外に買出しに行って来た。 お賽銭が無くて食べ物の調達とか(主に持ってかれる霖之助さんあたりが)大変だと思い、お土産の意味で向こうの食材を 持っていったら、そのあまりに季節感の無い取り合わせにかなり驚かれた。 で、たまたま遊びに着た魔理沙が大騒ぎしたのだが、今回はそれを利用されたわけだ。 ちなみに紫さん達にはお礼ということで向こうの隠れた名酒の類を大量に買っていった。 「本当はいけないことだけど…また頼もうかしら?」 などといわれた。 それでいいのか、幻想郷の裏鎮守。 「まあ、いろいろあってな。そういえばそれで思い出したが、今日は萃香はどうしたんだっけ? 見ないけど」 「紫のところ。あんたの持ってきたお酒で宴会するって」 「あー、そっち行くって手もあったか」 「ははは…って、最近そういう誘いが来ないなー。何でだ?」 「そりゃぁ…」 魔理沙がある一点をあきれた目で見る。そこには… 「なによ(ぬくぬく)」 ケーキをきるときに再びひざの上に乗っかった霊夢がいた。 「当てられるってもんだぜ」 「あー…」 「最近あのメイド長も顔には出さないけど焦ってるみたいだったからなー」 「へー、あのお嬢様至上主義者がねぇ…」 「いや、むしろお前らに当てられた一般メイド達が、『お姉様っ! 私達も負けてられません、さあ!』って、迫りまくってるから らしいぜ」 「…あー…」 そりゃ処置なしだ。 「まったくあいつには門番がいるのにな」 「マジっすか!?」 「知らなかったの? 結構有名よ」 「うわー…」 「そんなわけあるかぁーーーーーーっ!!!!(ダッシュ)」←メイド長 「「「「「お姉様ーーーーーーーっ!!!!!(追いかけ)」」」」」←メイド軍団 「時間止めて逃げればいいのに…なんでしないの? お姉様(首かしげ)」←悪魔の妹 「私が禁じたから(にやにや)」←紅い悪魔 「うわレミィひどっ(にやにや)」←図書館長 「咲夜さん…(同情)」←門番 「あはははは!(爆笑)」←いたずら小悪魔 「えーっと…(汗)」←司書小悪魔 まさに外道。 以上、クリスマスパーティーの宴もたけなわな某紅い館からお送りしました。 「何か電波が…」 「大丈夫?」 「風邪はひくなよ、霊夢が泣くから」 「泣くか!」 「じゃ泣かないか? 絶対に?」 「ごめんなさい」 「謝るの早っ!?」 もう驚き通しですよ今日は!? つか霊夢…それは喜んでいいのかどうか…(赤面) 「…じゃあ、今日はそろそろ帰るぜ」 「え? もう?」 「いつもなら『まだ夜はこれからだ』ってうるさいくらいなのに」 「あー、私がどう思われてるかについては今度じっくり聞かせてもらうことにして、今日は帰る。いい加減邪魔したくは無いからな」 「邪魔っt「あ、分かった。じゃあね」って霊夢!?」 「今夜はせっかくのクリスマスだし、二人きりの時間ぐらいあってもいいだろ?」 「あっ…う…(赤面)」 「もっとも…」 と、もう一度俺達二人を(くどいようだが霊夢は俺のひざの上だ)眺め回して、一言 「私がいてもいなくても気にしてなさそうだったが」 「うん」 「マテ」 「ははっ、じゃあなお二人さん。そうそう、あとで外に出てみるといいものが見れるかもしれないぜ」 「え?」 「またなー」 そういって魔理沙はとっとと外へ行ってしまった。 あとには俺と、ひざの上の霊夢が残るのみ… 「…結局ご飯食べに来ただけだったみたいね」 「ああ…あ、『ケーキご馳走様』って言うの忘れてた」 「それは今度でいいでしょ」 「まあな…で、霊夢、そろそr「や」いや、そういわれても…」 「…寒かったから」 「え?」 「ずっと寒かったから、○○がいない冬は」 「…」 「凍え死ぬかと思った。体でなく、心が。だから…」 「…ああ」 「今までの分…もう少しだけ、暖めてほしい」 「…了解、それくらいなら、いくらでも暖めてやるさ…」 「ん…」 静かな時間が流れる。 暖かな時間が流れる。 あれから結構たち、すっかり大人になった霊夢。 でも、その体は男の俺からすればやはり小さく、すっぽりと包み込むように抱きしめることも簡単だった。 ずっと、その小さな体で、待ち続けていてくれたんだな。…俺のことを。 「○○…?」 抱きしめる力を強くする。霊夢も俺に身を任せ、前に回した俺の腕を抱きしめる。 暫しの時。 腕の力をゆっくりと抜く。そして俺は、霊夢を伴って立ち上がった。 「外、行こうか」 「うん」 魔理沙に言われたとおり外に出てみる。そこはまさしく銀世界だった。 「うわぁ…」 思わず声を上げ、境内に出る霊夢。 俺もそのあとを追う 「ホワイトクリスマスか…なんかできすぎだな」 「これじゃ明日の雪かきが大変ね」 「目をつけるのはそこかよ…」 苦笑する俺。霊夢はにっこりと笑って俺と腕を組んだ。 「これから、末永く、…よろしくね、あなた」 「…ああ、よろしく」 深々と降り積もる雪。 その中で俺達は、静かに、唇を… 「「「「「「「「メリー、クリスマーーーーース!!!」」」」」」」」 パン!パパパン! 「「………」」 硬直する俺達。そこにいたのは… 「いやー、いいもの見せてもらったぜ」 白黒の魔法使い 「やっとゴールインか、おめでと、霊夢」 七色の人形遣い 「よっしゃー! 祝い酒だー!」 酔いどれ鬼娘 「ふふ、だから言ったろ? 最高のタイミングは逃さない。そういう運命だって」「おめでとう」 紅い悪魔にメイド長 「えーと、こういうときのお祝いに最適なのは…」「「おめでとうございまーす!!」」 七曜の魔女に小悪魔 s 「か、感動しました…」 門番 「おめでとうございます!」「うんうん、いい家庭を築きなさいよー」 庭師に月兎 「あー、クラッカーの音でシャッターチャンスを逃しちゃいました…あの、もう一回いいですか?」 デバガメ天狗 「ご馳走様ね、うふふふふ」「おめでとう」「おめでとー!」 スキマ妖怪に式神 s そのほかetcetc、いるわいるわ。 俺はこのあまりの状況の変化に固まってしまった。 「あ…あの…」 「ん、おい、どうやら肝心のは未遂らしいぞ」 「え、ひょっとして邪魔しちゃった!?」 「気にしない気にしない、何ならもう一回やりゃいいじゃん」 「あ、それ名案!」 「「「「「「「「「アンコール! アンコール!」」」」」」」」」 「って、できるかぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!」 絶叫する俺、しかしこいつらが止まるはずも無く…って 「霊夢?」 突然霊夢に引っ張られ、そちらを向かされる。そして 「「「「「「「「「おおぉーーーーーー(カシャカシャカシャ)」」」」」」」」」 確かな感触。つか誰だ、撮ってるの 「あ、あの、霊夢?」 困惑する俺を見上げる霊夢の顔は、すっかり真っ赤だったが、天使のような顔だった。 思わず見とれてしまう俺。そんな俺を、霊夢は引っ張り、位置を変える。 ちょうど、みんなから見て俺が霊夢の影に入るような形で、霊夢はみんなの方を向いた。 「…これで満足?」 さっきまでの『やんや、やんや』という皆の歓声が、ぴたっ…と、止まる。 俺のほうからは見えない。が、霊夢がどんな表情をしているかは、皆の顔で想像がつく。 だってほら、あの吸血鬼やスキマ妖怪、さらには亡霊姫や蓬莱の面々にいたるまで、みんながみんな顔を青くし、汗を滝のように 流しているから。 「そう、なら…」 ああ、今の彼女は、きっと女神のような微笑を浮かべていることだろう。 ただし… 「死ね(ダーイ)」 司る物は、多分『滅び』だ。 「『夢想天生』×100」 こうして俺の、幻想郷に定住して初めてのクリスマスは、幕を下ろす。 壊れた境内の修理と掃除は、紅魔館と白玉楼とマヨヒガと永遠亭その他が全面負担することになったとだけ言っておこう。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 37です。 第3話の前にエピローグ後のエピソード、クリスマス変(←誤字にあらず)をお送りしました。 つかクリスマスに間に合わなかったorz 浮かんだの夜の10時ごろだしなぁ… 326
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/416.html
■霊夢20 「おーい、邪魔するぜー」 呼びかけても返事はなく、勝手にあがらせてもらうことに 家の中を歩き回る 境内にはいなかったし、出掛けてる感じでもなし 廊下を歩いていると、ガラス戸が曇っているのが見えた 確かここは 戸をあける そこにはヤドカリのように、炬燵を背負って寝ている霊夢がいた 「おーい、風邪引くぞー」 頬をつついてみるが反応はない・・・やらかいな 「起きろコラ」 耳に息を吹きかけてみる 少しぴくっと動いたようだが、起きない 「霊夢さーん、起きてくださーい、悪戯しちゃいますよー」 ・・・ 唇を触ってみた 指には柔らかい感触、込めた力に比例して歪む唇の形が何とも 「・・・ほんとに起きねーな」 耳たぶを噛んでみた 「んっ」 霊夢の声に驚いて飛び退く 起きる気配はない 「・・・この状況は・・・すごく興奮するっ」 調子に乗ってみることにする 服の下に手を差し込む 「さらし巻いてんのか、そんなに胸ないだろ」 さらしを緩め、直接肌に触れる 炬燵に入ってるせいか、彼女の体は火照っていた 外から来たばかりの俺の手は、冷たい 「あったけー」 しばらく彼女の胸部をいじくり、手をあっためた 「んっ・・・んっ」 「おいおい、変な声出さんでくれよ、変な気分になっちまうぜ」 と言いつつ今度は彼女の下腹部に手を這わせる 霊夢の体がびくりと動いた、恐る恐る彼女の顔を見てみれば 「あれ・・・○○?」 「れれれ霊夢さんオハヨウゴザイマス」 まだ寝ぼけているのか!今なら逃げきれる!! 「・・・!?」 ちっもう状況を飲み込んだか、さすが弾幕ごっこの達人!しかし俺もこんなところで 手首と足首にぺたりと札が貼りついた 「あ?」 なんだこれと思う暇もなく、磁力にひかれるように、壁に貼り付けにされた 「ぐっ・・・霊夢さん、これにはいろいろな理由がありまして」 彼女はゆらり、と立ち上がると、俺に向かい、札を構えた 「さらしもいらない胸には興味なかったんじゃないの?」 「いやぁ、あの場は照れ隠しと言いますか、実際は」 「・・・私が寝ている間、どこまでやった?」 殺気というのをはじめて肌で感じた 「ははは、股に違和感なければそこまでいってないってk」 すこん 横目で見ると壁に札が刺さっている そして少し遅れて、頬でも切れたのか、畳に血が一滴、落ちた 「札ってそういう物理攻撃もできるんだな、一つ詳しくなったよ」 「遺言は、それでいいのね?」 遺言、つまり言いたいことすべていってしまえと 「良い訳有るかボケー!て言うかお前が無防備に寝てるのも悪いだろ!そんなかわいい顔で寝てたら悪戯しない男はいませんよ?それに巫女服エロいんだよ!さらしもチラチラエロいんだよ!!」 「う、うるさい!私はエロくないわよっ!?」 「それはないわ、お前がエロくて可愛くなかったら俺はこんな状況になってないしねっ!」 霊夢は動揺している! このまま何とかなるかもしれん 「というか!好きでもない相手にこんなことしませんからっっ!!」 霊夢は目を見開いている、固まって動かない よし、逃げよう 札にかかった術を解いて、一目散に神社の外へ と、3歩ほど踏み出した瞬間。天地が逆転した 「??」 霊夢に投げられたらしい、息苦しい 俺はマウントポジションをとられた パウンド!?殺られる ガードもむなしく、俺の顔面には岩より硬い霊夢のこぶし ではなく、何か柔らかい何かが唇に おおこれは予想外だ、まさか 「・・・順番って、あるでしょう」 「・・・つまりさいしょは口付けからでないとダメと?」 彼女はそっぽ向くと、小さくうなずいた 後ろから見ても、耳が赤く染まっているのがうかがえた あー、あの耳なめたい 「!?今変なこと考えなかった?」 「い、いや、なにもない」 彼女はため息つくと炬燵を切って、戸をあけた 「うおっ、寒い!」 霊夢はマフラー?を巻いてまるで出かけるよな格好だ 「出掛けんのか?」 「ん、行くわよ」 「え?俺も?」 言われるがまま、彼女にひきずられて 博麗神社階段下 「どこ行くんだよ」 「あんたが決めなさい」 当然、といったように彼女は言った 「なんで俺がだよ」 「男なんだから、エスコートしなさい」 ぼそっと、デートなんだから、と聞こえた 正直に言おう、彼女が何を考えてるか、さっぱりわからない もうほんと、思考回路がわからない ただ、今の彼女が非常に上機嫌であることは、理解できた 「じゃあそうだな―」 俺は霊夢の手を握り、日も暮れようかという町に歩みだした 終ワル 新ろだ353 ─────────────────────────────────────────────────────────── もう春だってのにこの寒さ。 ついつぶやいてしまう。 「寒いな。」 「あたいは寒いの好きだけどね。」 俺の腕の中で丸くなっている氷精はそんなことを言った。 「俺は寒いの嫌だけどな。」 「じゃあ、あたいのこと嫌いなの?」 涙目になりながら上目遣いでたずねてきた。 ・・・これには弱いな。 「いや、チルノのことは好きさ。大好きだ。」 「じゃあ、それを証明して見せてよ。」 まっすぐに俺の目を見てくる。 頬はわずかに赤い。 「いや、ここは人が多いし、みんな見てるし、なにより恥ずかしい・・」 「あたいは別にいいよ。」 今は神社での宴会の真っ最中。 恋人と来てる奴もいるけど抱き合ってるのは俺達くらいだ。 これだけでも恥ずかしいってのに。 「や、正直恥ずかしい。」 「やっぱり・・・・・」 ん? 「やっぱり○○はあたいのことなんて嫌いなんだ・・・」 ちょ、ちょっと待て何を言ってるんだ。 俺がお前を嫌ってるはずないだろう! 考える前に口が動いていた。 「ちょ、ちょっと待て何を言ってるんだ。 俺がお前を嫌ってるはずないだろう!」 「じゃあそれを証明してよ!!」 「う。そ、それはちょっと。時と場合をだn「○○のバカ!!!!」 凍符「パーフェクトフリーズ」 スペルカードで宴会を滅茶苦茶にした後、チルノは飛んでいった 俺は 1 チルノを追う 2 このまま宴会を楽しむ → 3 せっかくだから紅白ルートにすすむぜ ----------------------------------------------------------- っは!なんだ今のノイズは! チルノは行ってしまった。しかし、追うに追えない。追う手段が無いから。 夜道は危険だし、宴会も終わりだし、家は遠いし、眠いし、春だし、 今晩は神社に泊めてもらおう。 「お~い霊夢~今夜は泊めてくれ~」 「へ?ああ、別にいいわよ。」 「マジか!?ありg「その代わり、宴会の片付け手伝ってね♪」 「ですよね~」 この世においてタダとうのはありえないのである。 その頃、どっか。 「うん。そうね。やっぱり謝らなきゃ駄目よね。」 そう、悪いのはあたいだ。 ○○は何も悪くない。あたいの我侭がこんな状況を作ってしまったのだ。 「よし! ○○に謝ろう!」 やっぱあたいが謝らなきゃ駄目だ。 そして、○○に物分りのいい大人のレディな側面をみせてやるのよ! 「この時間だと、○○は家ね」 宴会は滅茶苦茶になっている。あの状態で続けられるはずが無い。 「よ~し、待ってなさいよ、○○!」 一人の氷精が夜の空に飛んでいった。 「ふ~、これで終わりか。よっと!」 「そうね、ご苦労さま。」 宴会の片付けを終わらした。後は寝るだけだ。 「よし、もう遅いしもう寝るか!」 「そ、そうね。それで、そのことなんだけど・・・ あの・・・その・・・まだ寒いし・・布団はひとつしかないし・・・」 「ん?ああ、野宿じゃなければ別にいいよ」 「ち、違うの!そうじゃなくて・・・・ 布団が一つしかないから・・・一緒に寝よ・・・・?」 今なんと仰いましたかこの娘さんは!? ・・・・・でも赤面する霊夢が少しだけ可愛いと思ったのは内緒である。 時速30kmの安全飛行で、あたいは○○の家に突っ込んだ。 「痛たた、お~い、○○~?」 返事が無い。どうやら留守のようだ。 「おかしいわね、この時間なら家にいるはずなのに」 今は相当遅い時間。妖怪が活発に活動する時間でもある。 その「妖怪」という単語が最悪の方向に想像を駆り立てる。 「そんな、筈は無い、絶対に。」 ありえない。そんなことを考えるなんて○○に失礼だ。 「は、わかった○○は神社にいるんだ!」 なんという閃き! 体は子供でも頭脳はさいきょうね! 「そうと決まれば、待ってなさいよ○○!」 穴の開いた天井から外に飛び出す。 一人の氷精が分速5000mの速さで神社に向かって行った。 ---------------------------------------------------------------- ・・・ふぅ。まずは状況を確認しよう。なぁ?兄弟よ。 俺は今、霊夢と同じ布団で寝ている。 向かい合うようにして霊夢に抱き枕にされている。 ・・・幸せな状況なんだろうけどさ。素直に喜べないよ・・・ 「すやすや」 ベタな寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。 寝顔は・・・・・・可愛い。 「はぁ~」 霊夢を起こさないように小声でため息をついた。 「・・・んぅ?」 「は!」 不覚。どうやら起こしてしまったようだ。 「あ・・・○、○。」 「よ、よぉ・・・ははは。」 「ん~えへへ~。嬉しいな~。」 「は?」 「だって、こんなにも近くに○○がいるんだもん。そりゃ嬉しいよ。」 「ははは、そ、そうか。」 まずい、落ち着け俺!そうだKOOLになれ!KOOLになるんだ○○! ・・・よーし、冷却完了。俺は○○。フリーの幻想人さ! そんな無駄な思考をしてる間に霊夢は更に顔を近づけていた。 近い近い近い近い近い。マジで近い。 「すぐそこに○○がいる。すぐ近くに○○を感じられる。 私、今が一番幸せ。」 「そ、そうか」 「ねぇ○○。」 「はイ」 声が裏返った。結構大きな声だった。近所迷惑にはならないだろうか。 「落ち着いて聞いて。」 「あ、ああ」 落ち着け俺。 「私は、」 気がつけば霊夢が俺を押し倒してる状況になっていた。 「あなたが、」 顔が近い。吐息がかかる距離だ。 「好き」 不意に口を柔らかな感触が襲った。 キスと気づくのに2分の時間を要した。 そこへ、 「○○はここね!」 襖を開けて、チルノが飛び込んできた。 さぁ、俺はいつ死亡フラグを立てたのだろうか。 そして俺はこの状況をどう切り抜けようか。 夜はまだ長い。 ------------------------------------------------------------- さあ、まずは状況の確認だ。なあブラザー? 俺は今、霊夢に押し倒された状態でキスをされている。 そして、それを恋人のチルノに見られた。 賢明な兄弟達ならこれから俺がどうなるかわかるだろう? 「あ、や・・・これは・・・」 霊夢から顔をはなして声をしぼり出す。 我ながら情けない声がでた。 「・・・・・・」 対してチルノは無言。今にも泣きそうな表情で終始無言。 いつだったか、チルノが俺に言った 「あたいはさいきょうだから、絶対に泣かないの!」 という台詞を思い出した。 「チルノ・・・」 霊夢の手を振り解き、チルノの方を向く。 「・・・」 泣きそうな顔でやはり無言。 いっそ「バカ!」とか「嫌い!」とか罵倒してくれた方がスッキリするだろう。 だから、無言というのが逆に辛い。 「・・・っつ!」 顔を歪め、部屋から走り去って行った。 「チルノ!」 立ち上がり追いかけようとするが、それは叶わなかった。 「行かないで!」 霊夢の手ががっしりと俺をホールドしていた。 動こうにも動けない。女の子なのに信じられない力だ。 「行かないで、お願いだから私を独りにしないで! 一度目はどうにかなった・・・。 でも、二度目はわからないの。だから、置いて行かないで・・・。」 博麗の巫女とかなんとか言われてるが、目の前にいるのは紛れも無く、 博麗霊夢という、一人の少女だった。 「あなたが行ってしまうのが恐い・・・」 肩も声も震えている。 「霊夢・・・」 チルノは大事な恋人だ。だから放ってはおけない。 大事な存在だからこそ今すぐ追いかけて謝らなきゃだめだ。 いや、謝るだけじゃ駄目かもしれない・・・。 対して霊夢も大事なのは変わらない。放っておけない点では一緒だ。 幻想郷に初めて来た時に右も左もわからない俺を救ってくれたのは霊夢だ。 そんな人が泣いているのを置いて、俺はここを離れられるのか・・・。 さあ、選択の時だ。 俺は・・・ ------------------------------------------------------------------ 「霊夢」 泣きじゃっくている霊夢に精一杯の優しさで声をかける。 「ふぇ?」 上げた顔は困惑の表情を浮かべていた。 「俺はチルノを追う。」 「っ・・・!」 だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。 「そんな顔するな。後勘違いしてるんじゃないか? 俺はお前を独りになんかしない。 俺とあいつの間で決着をつけたら、また帰ってくる。 だから、そんな顔はするな。」 「・・・約束する・・・?」 「ああ。約束する。」 指きりなんて何年ぶりだろう。 とにかく、決着をつけなきゃ駄目だ。 俺自身のためにも二人のためにも。 決意を新たに夜の神社を後にした。 チルノを見つけるのにたいして時間はかからなかった。 神社からそう遠くない、森の中の小さな広場に彼女はいた。 「チルノ!」 「っ!」 振り向いた顔はグシャグシャに濡れていた。 「なんでっ、なんで来たのよぅ。ぐすっ、えぐっ、」 「決着をつけに来た。俺のためにも、お前のためにも、あいつのためにも。」 そう。俺は決着をつけるためにここに来た。 こうなってしまった原因は俺にあるのだから。 「チルノ。俺はお前が好きだ。 それは今までもこれからも変わらない。絶対だ。命をかけてもいい。 けど、こうなっちまった以上は責任をとらなきゃ駄目だ。」 これ以上は口に出すのが辛い。 「だから、」 逃げるな。その先を言え・・! 「もう、別れよう。」 月明かりのおかげで僅かだがチルノの表情を見て取れる。 どんな表情だったかは・・・ここでは言うまい。 「・・・そう。やっぱ、あたいは独りになっちゃうんだ。」 カチンときた。なんで幻想郷の住人はこうなんだ。 なんでこんなにも勘違い野郎が多いんだ。・・・二人だけど。 とにかく、この勘違いさんに腹が立って大きな声を出していた。 「あーもー、なんでお前も霊夢もそうなんだ! この勘違い娘! だ・れ・が、お前を独りにするなんて言ったんだ!? 確かに、恋人同士って言う関係は終りだけど、終わった後も俺達は親友だろ! 友達が友達を独りにするなんて思ってんのか! このバカ!」 大きな声どころか派手に怒鳴ってた。 「○、○」 「いいか!絶対に俺は俺の周りの奴らを独りにしない! それは、お前だって例外じゃないんだ。」 そう、絶対に独りにしない。絶対に。 「じゃあ、じゃあ、あたいの事は嫌いなんかじゃなくて、」 「お前の壮大な勘違いだ。」 ま~た泣きそうな顔しやがって。だから泣くなって。 「っう、ぐすっ、よかっだ、よかっだよ、よがっだよー。 うあああああああああああああ」 「こら、抱きつくな!」 泣いている。盛大に涙を流しながら、抱きついてきた。 それを優しく受け止めてやる。 ・・・みんな意地張ってるんだけどこんなに弱いんだな。 「ねぇ、○○。お願いがあるんだけど・・。」 「うん? なんだ?」 いつの間に泣き止んだのか、上目遣いでこちらを見上げている。 「・・・その・・・キス・・・して・・。」 「・・・」 「○○と私の恋人としての最後のキス。 あの時できなかった分を今、して。」 「・・・わかった」 あの時というのは紛れも無く宴会の時のだ。 「ん」 チルノは目を瞑り、顔を上げている。 ここでキスをすれば、チルノとの恋人の関係は終わりを迎えるだろう。 「んっ」 躊躇い無くその口に自分の口を重ね合わせた。 恋愛関係の終わりを告げるキス。 友達関係の始まりを告げるキス。 月の下、永く優しく、二つの影は重なっていた。 月は既に沈んでいる。夜明けは近い。 ---------------------------------------------------------------- チルノと別れた後、神社に着いたらもう夜は明けていた。 「ふぁーあ、ん~」 大きな欠伸がでてしまった。 昨日は一睡もしていないからな。 「あら、お帰り」 「ん?あぁ、ただいま」 出迎えたのは霊夢だ。 てか、神社には霊夢しかいないし当たり前か。 「朝まで帰って来ないんだもん。 心配しちゃったじゃない。」 「悪い」 朝まで帰ってこないか。 考えてみれば、もうそんなに時間がたってるのか。 「ご飯食べてないでしょ? 用意するから待ってて」 「あ、いや、いいよ。 昨日は世話になったし、もう帰るよ」 「む」 何が癪に障ったのか、霊夢は眉間に皺なんて寄せている。 「・・・ったじゃない」 「は?」 「独りにしないって言ったじゃない! もう忘れちゃったの、バカ!」 「あ」 そういえば、そんなこと言ったな。 勢いで言ったからすっかり忘れてた。 「私を独りにしないんでしょ!? 約束を破る気!?」 「あ、や、それは、」 何も言い返せない。 「このバカ! バカ! バカ! バカァ!」 「落ち着け霊夢! 後、陰陽玉投げんな!」 御符やら、陰陽玉やらを避けながら霊夢をなだめてみる。 が、効果は無し。 「わかった、落ち着け! 約束は守る! 独りにしない! だから、一緒に神社に住もう、な?」 「!」 苦し紛れの一言。通じるか!? 当たる直前に陰陽玉や御符が消えた。 ・・・どうやら落ち着いてくれたみたいだな。やれやれ。 それにしても、今見えたのはスペルカードか? 危ない危ない。もう少し説得が遅れたら死ぬところだった。 「それは、本当?」 「約束は守るぞ」 「やった!」 そう言って、ガバッと俺に首に抱きついてきた。 どうでもいいが、霊夢の腕がいい感じに絞まってるため、生命が危うい。 「本当? 本当よね! やった! やった!」 「うぎぎ、が、と・・りあえ・・ず、退いてく・・・れ。死・・ぬ」 「そうと決まれば、速く客間を掃除しなくっちゃ。 ふふふ、今日は忙しいわね!」 「はや・・く、はな・・・して、ごふっ」 霊夢は俺の話なんて聞かずに子供の様にはしゃぎ続ける。 こうして見ると、年頃の他の女の子と全然変わらないのにな。 やっぱり、博麗の巫女である前に一人の少女なんだな。 「それで、式の日取りはいつにしようか?」 「ぐほっ」 腕をはなし、そんな事を聞いてきた。 気がはやい、以前に俺と霊夢は全然そんな関係じゃないだろ! 気がはやすぎる。 「おま、そりゃ気がはやすぎだ」 「なんでよぅ、私を独りにしないんでしょ? 結婚すればずっと一緒よ?」 「だから、そういう問題じゃな・・・ん」 いきなりキスされた。 「ずっと、一緒でしょ?」 「ん・・・」 花のような笑顔ってのが一番しっくりくる笑顔だ。 ったく、そんな顔されちゃ、何も言えないだろうが。 「そ・・・だな。わかったよ、もう独りにしないよ、霊夢」 本心からでた答え。 この少女を独りにはしたくない。 「ありがとう。これからよろしくね、○○」 「こちらこそ」 ギュッと、お互いの手を握る。 今この瞬間から、俺の新しい生活が始まった。 日は昇り、幻想郷の新しい一日を迎えた。 end ~あとがき~ なっがい。長いよ。そしてやっと終わったよ。 これは現行スレにあった物を加筆修正して繋げた物なんだけど、 こんなに長くなるなら最初からロダにあげるべきだった。反省。 スレのみなさん、本当スイマセン。 最後は、こんな長文妄想に付き合ってくれたあなたに感謝。 新ろだ361 ─────────────────────────────────────────────────────────── 博麗霊夢の夫、○○。 もはや夫と題している以上、いちいち恋愛の道程など必要もないだろう。 博麗霊夢と普通に恋仲になり、季節の移り変わりと共に恋人から夫婦に昇格。 そして結婚後から2年の月日が流れ周りから冷やかしを喰らうことも無くなった。 「ん~…」 夕食時に霊夢が手に箸と茶碗を持ちながら少し首を傾け唸る。 「ほい」 ○○は間を置かずに近くにあった醤油を霊夢に手渡した。 「ありがと」 ご相伴に預かっている魔理沙は、それを黙って見て呟いた。 「…なんつーか、もう完全にツーカーの仲って奴か?」 「まぁなんだかんだで長いこと一緒にいるしな。夫として妻の考えてる事くらい分かるもんだよ」 さもありなん、○○は事実を述べるように、ただ淡々と答えた。 食後に○○はちらりと自分の湯のみを覗き、ややあって立ち上がろうとしたが霊夢が「はい」と急須の口を向けていた。 それを○○は「ふむ」と一言いい自分の湯のみを差し出した。 「…お前らほんと、いつも思うけどさとりの能力でも手に入れたのか?夫婦専用の」 これまたやっぱり食後の食休みをしていた魔理沙がツッコミを入れる。 「○○がお茶を飲む間隔から推測しただけよ?」 まるで当たり前の事かの様に、霊夢が頷きつつ自分の湯のみにお茶を入れていた。 「あー、ダメだ。これ以上ここにいたら当てつけられるだけだ……私はもう帰るぜ!」 やれやれだぜ、と言いたげな表情で魔理沙は立ち上がり、返事を待たずにさっさと出ていってしまった。 「普段どおりにしてるだけなんだけどなぁ…どうしたんだか?」 ○○は出ていった魔理沙の後を見つめぽつりと零す。 そうすると霊夢は少し可笑しかったのかクスリと笑みを浮かべ○○の事を見つめる。 「なるほど…」 それを見て納得がいったのか○○は感慨深く頷いた。 つまりは二人の仲は以心伝心。 相手の思いが伝わるから言葉は必要ない訳で、そこに魔理沙という他人が加わると会話が成り立たない。 魔理沙からすれば静かな食卓で居心地が少々宜しくない、かといって別にご相伴先の夫婦の仲が悪い訳ではないからタチが悪い。 会話を振れば答えが帰ってくる、しかし何が悪いかと言えば理解できない所。 会話もなしに○○が霊夢の求める事を自然にやってのける。 台所で洗い物をしてたはずなのに○○の求める事を霊夢が、これでしょうとばかりに当然のごとくやってのける。 魔理沙からすれば訳が分からない。 とは言っても魔理沙にとって、これが初でないのだが、それでも毎回繰り広げる二人の行動が脅威でしかないのだ。 「…別に霊夢と普段から会話してないわけじゃないんだけどな」 魔理沙の考えが漸く理解した○○は、ここにはいない魔理沙に向かって言った。 「そりゃそうよ、○○の声くらい、ちゃんと聞きたいからね?」 逃げるように帰宅した、どっかの誰かの閉め忘れた障子を閉めると、霊夢は○○の膝にするりと座り込んだ。 「勿論だとも、どんなに以心伝心だろうとも、言葉にしたい思いもある」 目と鼻の距離にある霊夢の顔を見つめながら○○は、そっと囁くように言葉を発した。 「愛してるよ霊夢」 「私もよ、○○。愛してる」 こうして二つの影は折り重なる様に一つになった。 さてさて、これ以上はいかなる存在とて覗き見ることは叶わぬ事、残念ながら本日の業務は終了とさせて頂く旨。 夜空の浮かぶ空間に開いた小さな隙間からぽつりと声がこぼれ、そうすると隙間は無かったかの様に消え去っていた。 残ったのは零れ落ちた一言だけだった。 「おあついことで」 新ろだ413 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霊夢とは最近いい関係になってきた。付き合ってはいない。 なかなか好きと言えないのだ。 向こうはどう思っているのかは分からない。 そこで来たのがエイプリルフール。それが今日だ。 このタイミングで、外の世界に帰るって言うとどうなるのだろう。 ちょっとその反応を見てみたいという軽い好奇心が走った。 本当に、それだけのつもりだったんだ。 俺だけじゃ信憑性が薄いから、紫にも協力してもらう事にした。 とはいえ、元々胡散臭いと評判で人選ミスのような気がしてならないが どちらにしろ紫が口裏合わせてくれないとうまくいかない。 「というわけで、頼んだよ紫」 「本当にそういうのが好きねえ。ま、霊夢が慌てふためく姿を見るのも一興だわ。」 快く承諾してくれた。たぶん。 そしてその後、霊夢に言ってやった。 「へ??どうしていきなり・・?」 箒で掃いている手が止まって、キョトンとした目で言う霊夢 「色々考えたけど・・俺にはやっぱり帰るべき場所なんだと思うんだ・・ だから紫に頼んだんだよ。今日、出るってお願いしに」 我ながら嘘くせー。すぐバレるなこりゃ。 「ふ、どうせエイプリルフールでしょ?もっとマシな嘘にしなさいよ」 そういって霊夢はまた箒で掃くのを再開した ほらね。 「本当に紫に頼んだんなら聞けば分かることだわ、紫ー 出てらっしゃいー」 ズズズズズ・・ 「は~いはい。呼ばれて飛び出て何とやらっと」 スキマからヌッと現れるこの絵はいつみても不気味だ。 「あら、○○居たのね、支度はもう済んだの?って今、挨拶中のようね」 「え・・?どういう事・・紫?」 よし、頼んでおいて正解だった。 「あら、聞いてたんじゃないの? ○○が今日外の世界に帰るって」 「え・・嘘・・冗談よね?○○・・?エイプリルなんでしょ?」 結構マジに聞いてきた。正直もうここで嘘ですって言いたくなっていたが・・ 「だから本当だって・・月の頭に行くつもりだったんだから・・」 ちょっと本当に苦しく思いながら言ったせいで顔に出てしまったのが芝居に見えなくなったのか 霊夢の顔色がどんどん沈んでいくのが見えた。 「本当だったの・・」 「ああ・・だから、その別れを言いに・・」 うつむいたまま霊夢は言う 「・・ねえ○○・・紫・・」 そして余裕の表情の紫 「何かしら?」 「・・私も行く・・・。」 「(霊夢・・)」 「ふーん、それがどういう事か分かって言ってるのかしら。 それはここでの役割を放棄するって事になるわよね?」 「そう・・だけど・・」 霊夢は今にも泣きそうだった。 空気が重くなってきた。もういいか、俺も見てて辛くなってきた。 それに、霊夢の気持ちも分かった。もう十分だろう。 打ち明かそうとした時、 「ねえ、○○、向こうに着いたら色々教えてね。おいしい店とか~あと楽しい場所とか~」 「な、紫!?」 紫はわざと霊夢に聞こえるように言った。 「・・それってどういう事・・?○○」 「(おい紫、そこまでしなくていいよ・・!)」 「ね?約束してくれたじゃない○○、食べ物以外にももっと色んなコト教えてくれるって」 まずい、さすがにやり過ぎだ。 「本当なの?○○・・・・。」 「い、いや・・」 「(紫、もういいだろ?霊夢はもう限界だぞ・・もう俺は嘘って言うぞ)」 「霊夢、実はな・・」 しかし紫に扇子で口を抑えられる 「(・・紫・・?)」 「ねえ、紫、アンタもここに居なきゃいけないんじゃないの・・?」 「私は両立くらいできるわよ。あなたは無理でしょ?出来る?」 「・・・紫・・アンタ・・。」 「・・ヤル気?いいわ。受けて立つわよ」 「おい、紫、霊夢・・」 「黙ってて○○、いいわ、勝負よ。」 「私に勝てたら、好きにしなさい。私もそれ以上干渉しない でも負けたら今回のことは諦めること。いいわね?」 「望むところよ」 何で・・・こんな事に・・・ ―――― ―― ― もうどれくらい経ったのだろう・・ 二人とも息を切らせている。 すぐに嘘だと言えば良かったが、真剣勝負中にそう言えるわけもなかった。。 もういい・・もういいよ、何でこんな事で二人が争うんだ・・ 全て嘘なのに。ただのエイプリルフールの嘘なのに。 どうしてこんな事になるんだ・・。 「・・まだよ、霊夢」 「紫、お前の負けだ、もうスペルカード切らしただろ」 それでもまだ続けようとする 「紫!お前自分でルールを無視する気か!?」 「・・・!」 ようやく紫は膝を付いて負けを認めた。 俺は霊夢に向かって走った。 「霊夢、すごく言いづらいんだが聞いてくれ・・・」 「分かってる、紫と一緒になって嘘ついてたんでしょ」 「!それを気づいててどうして・・」 「でも紫は本当に○○を連れて行く気だった。そうでしょ?紫。」 「え・・?」 「・・霊夢には敵わないわね。そうよ。」 「紫、どういう事だ?俺を騙したのか?」 「エイプリルフールよ。」 という事はあれか?俺は俺で騙されていたのか? 「それは本当に実行しちゃったら嘘にならないじゃないか・・」 「あら、エイプリルフールは嘘は良くても真実は駄目ってわけじゃないわ。」 「モ、モウイイデス・・頭痛くなってきちまった」 「紫に口裏合わすように頼んだけど逆にそれを紫に利用されてしまったわけね。 まったく、人選を誤りすぎよ。騙そうとした人が騙されるなんて、あなたらしいわね・・○○」 「お前それいつから気づいたんだ」 「戦ってる最中にね。それまでは本当に私も騙されてたわよ。本当に厄介な行事ねえ・・」 「でも紫が俺を本当に連れて行く理由が分からないんだが・・」 「それは私があなたを霊夢に取られたく無かったからよ。」 「紫・・。」 「それだけじゃないでしょ紫。アンタ、私を試したかったんでしょ。だから私を挑発した。違う?」 紫はふっとため息をしながら言った 「霊夢が自分の役割を捨ててまで○○についていくと言った時、もうその時点で 想いでは既に負けていたと悟ったわ。だけど私は諦めなかった。 勝負をしてでも勝ち取りたかった・・。たとえ○○がその気じゃなくても、ね。」 俺は一人で混乱していた。 つまり、えーと・・ああもう訳ワカランッ 「まったく、相変わらずやり方が強引ね・・。らしいといえばらしいけど。」 「はぁ~、結局霊夢には負けたけど、おかげでスッキリしたわ。 その、ごめんね。○○、霊夢。」 「・・アンタらしくて怒る気にもなれないわ。」 「紫、俺もごめん。その、知らなかったんだ・・」 「なーんで貴方が謝るの。悪いのは全部私よ。強引に誘拐しようとしたんだから。 じゃあ、私はもう行くから、二人ともお幸せに~」 「あ、ちょっと待てよ」 そういう間もなく ズズズズズズ・・・ と、紫は消えていった。 「・・・・。」 「・・・・。」 「霊夢、怒ってる?」 「怒っちゃいけないんでしょ?エイプリルフールは」 「まあ・・そうなんだけど。」 「分かったでしょ・・私の、あなたへの気持ちが・・」 「あ、ああ・・。しっかり受け止めたよ・・」 「でも、負けていたらどうなっていたんだろう・・。」 「戦いの時、紫はいつも以上に本気だったけど、 もし私が負けていたとしても、紫は本気であなたを奪ったりしなかったと思うわ。」 「どうしてそう思うんだ?」 「しん・・紫だからよ。」 翌日 「霊夢、今日は料理対決よ。どっちが○○を満足させれるか、フフフフ。」 「ほんっとに懲りない妖怪ねあんたは・・」 「・・・・まったくだ。」 「いいわ、受けて立つわ」 「立つのかよ。」 「伊達に長生きしてないって所を見せてあげるわ!」 「(こっそり帰ろうかな・・。)」 終わり。 エイプリルって思い出して帰りの電車の途中に思いついたのをそのまま書いたからgdgdだけど許してくだしあ 新ろだ430 ─────────────────────────────────────────────────────────── 今日はエイプリルフール!そこで何か恥ずかしがらせる嘘を霊夢につきたい。 たったそれだけだった。 「なぁ、霊夢」 「んー?」 「霊夢とエッチな事したい」 「……へ?」 「だから、霊夢とエッチな事がしたいんだって」 「え、えええ、ええええ!?あうああうぅ…」 (えっちなこと…?えっちなことって…そ、そんな、○○と!? わわわわたしは別に○○が相手ならいいけど…な、なんで急にそんな事言い出したのかしら) 耳まで真っ赤に染める霊夢。 見ていて面白い。 (そ、そうだわ!今日はエイプルフール…ね…だ、だから…) 霊夢は、少し俯きながら、○○に答えた。 「ま、まだ…だめ…」 「うがー!どっちだー!!!」 新ろだ431 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/221.html
「あ、雪だ」 ひらひらと空から舞い降りてくる氷の結晶を目に留め、思わずそう溢した。 そして今日はそれほどに気温が低いのだという事を今更ながら気付き、少し身震いをした。 寒い。 「う~、早く終わらせるかな」 雪を見るのは好きだが長時間こんな冷え切った屋外にいるなどという風変わりな趣味は無い。 今の自分に与えられた責務をさっさと終えるべく、僕は暫し止めていた手を再び動かし始めた。 参道に積もった雪を雪掻きで退かす。 また雪が降ってきたからもう一度雪掻きしなきゃいけないよなぁ、と多少欝な気分になるが仕方ない。 粗方雪を除けた事を確認し、足早に神社に戻る。 「うぬぅ、手が、足がぁ……」 すっかり冷え切った体を暖めるべく炬燵のある居間へと向かう。 と、そこには先客がいた。 「あら、もう終わったのかしら」 炬燵の住人は天板に頭を乗せたまま首だけをこちらに向けて話しかけてくる。 傍から見たらだらしないと思われる事だろうが、今ではもう慣れてしまった。 慣れって怖いなぁ、と何となく感慨に耽ってみようとしてやめる。年寄り臭いし。 「大体はね。あぁ、寒い寒い」 返事だけ返しそそくさと炬燵の中に滑り込む。 悴んだ手に熱がじわりと染み込んできた。 「そういえば、また雪が降ってきたよ。早く春にならないかなぁ」 少しでも熱を得ようと手を摩りながら、向かいに座る人物に話しかける。 視線をこちらに向け、あら、そうとだけ返しまた元の位置に戻す。 この一見冷たそうに見える反応も幾度と無く経験してきたものだ。 きっと彼女は誰に対してもこういう風なのだろう。 何度か霊夢が他人と交流するのを見ていてとなんとなく思った。 特に成すべき事も無く、いい歳した二人が炬燵でだれる。 僕たちは基本的にこうして過ごす事が多かった。 無駄に動いて貴重なエネルギーを消費するのももったいない、というのが霊夢の言い分だ。 まぁ、最もではあるが。 「っと、もうこんな時間か」 思い出したように立ち上がる。 そろそろ昼食の時間だから準備をしなくては。 ここの神社は食料が少ないから遣り繰りして献立を考えなければいけない。 「そういえばまだ卵と鶏肉が余ってたから親子丼にしてもいいかなぁ……」 などと主夫じみたことを考えながら台所に向かう、そんないつも通りのお昼前だった。 「あ、そういえば」 僕の作ったホウレン草のお浸しを摘みながら霊夢が思い出したかのように言った。 「何だい?」 「これから霖之助さんの所に荷物を取りに行きたいんだけどね」 「うん」 「昼から"お仕事"があって行けないの」 その聞きなれたようでどこか特別な響きを持つ言葉を、僕は今までに何度か聞いた事がある。 とりあえず霊夢が言わんとすることは分かった。 「ん、じゃあ霖之助さんの所には僕が行っておくよ」 「察しがいいわね」 まあね、とだけ軽く返す。 さて、そうと決まったらなるべく早く昼食を終えなければ。 こういう時は早く行って早く帰ってくる事が望ましい。 夜になってしまったらたまったもんじゃない。 「ごちそうさま」 「はい、お粗末様」 食事を終え食器を洗い終わり、早速外出の準備をする。 今日は寒い。 しっかり厚着をしていかなければ。 「はい、これ」 準備を終えた僕は、霊夢に数枚の護符を渡された。 僕独りで出掛けるのだ。用心するに越したことは無い。 今までこれのお世話になった事は無いが、お世話になる事は無いままであって欲しいものだ。 「ん、ありがと」 「夜になる前には帰ってきなさいよ」 「善処するよ。霊夢も気を付けて」 そして寒そうな格好のまま飛び立つ霊夢を見送る。 気になったので指摘した事はあるが、何故か頑なしてあの服を着ている。 呪いの装備の一種だろうか、などとくだらない事を考えながら僕も歩き始めた。 「こんにちはー」 「いらっしゃい。――あぁ、君か」 そこの店主はカウンター越しの椅子に座りながら本を読んでいた。 僕の方へ挨拶だけするとまた本へ目を落とす。 僕はというと、霊夢から受け取ったメモを見ながら目的の品を探し始めた。 「えーっと、茶葉とお椀と……」 広いとは言いにくい、どちらかといえば狭い店内を物色して回る。 時折僕が興味のあるような品も見つかるが、大抵は電気や動力を必要とするもので此処では活用し難かった。 「ま、不便だと感じたことは無いしいいんだけど」 誰に言うわけでもなく一人零す。 さて探していた物も大方見つかり、それらを鞄にしまい込んだら今度は霖之助さんの元に行く。 「はい、これどうぞ」 「ん、いつもすまないね」 「いえいえ、こちらのほうが気が引けちゃうぐらいですから」 そういって僕が手渡したのは南瓜の煮物や大根の漬物といった料理だった。 霊夢や魔理沙はここの品物を有無を言わさず頂いていくが、僕にはどうも堪え難い。 等価交換とまでは行かないけど少しでも埋め合わせをしようという、まあ僕の良心の表れだ。 「君の作るものはとても僕の口に合う。感謝しているよ」 「光栄ですね」 お金を払ってもいいのだが、此処では商業が発達しているワケでもないっぽいので貨幣の価値はあまり無いのだろうと思ったのだ。 この行動はあくまで自分を納得させるためであり、偽善と言っても差し支えない。 しかしその行いに相手の喜びも伴ってくるなら話は別だ。 幸い霖之助さんも嫌がっている様子は無いのでこうして続けているわけである。 「じゃ、暗くなる前に帰ります」 「そうした方がいい。今後とも御贔屓に」 そうした彼の言葉に少し違和感も感じるが、彼はあくまでやりたいからやっているだけであってそこは僕が口出しするところではない。 会釈だけして香霖堂を出る。 ふと見上げた空にはもう既に猩々緋の色が掛かっていた。 「のんびりはしていられないな」 僕は一言呟くと神社への道を歩き始めた。 「んぅ?」 しまった、誰もいないからといって変な声を上げてしまった。 まあ誰もいないんだからいいかと自己完結し、再び先ほど目に留めたものを見上げる。 見上げるという言葉から分かるようにそれは僕の遥か上空を飛んでいた。 「あれ……霊夢、だよなぁ」 遠目だから自信無さげな言葉になるが、あの紅と白を基調にした服をそう間違えることも無いだろう。 その空飛ぶ不思議な巫女さん(らしき人物)はゆっくりと降下して行き、割と僕から離れていない所に着陸したようだった。 「ふむ……」 どうしようか、と考えてみる。 何をしているのか知りたいという探究心はある。いや、好奇心と言った方が適切か。 だがここは少し道を外れると森と呼んだ方が相応しい程の木が生い茂っていて、確かに危険ではある。 少しの間思索に耽る――振りをする。 一人なのにそんな事しても空しいだけだという事は敢えて考えない。 僕の心は初めから決まっていたようなものだ。 僕は平生から何か気になった事には飛びつかずにいられないタチだった。 こういった時に疑念や警戒が生まれる前に何かしら期待を抱いてしまうのは不注意だと思うが仕方が無いと諦める。 さて思い立ったが吉日、善は急げという言葉もあることだし、さっさと霊夢らしき人物のところへ向かうとする。 そうして僕は何の不安も抱かないまま意気揚々と鬱蒼とした森の中へ進んでいった。 後悔というのは呼んで字の如く、後から悔やむという事だ。 確かに後悔は事後しか出来ないことであり、また後悔先に立たずという教訓の様に役に立たないものである。 だったら後悔なんてしなければいいじゃないかと昔考えた事もあったなあと何となくこの現実からいい感じに逃避したい気分になっていた僕だが やっぱり現実は現実として受け止めなければ。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだって結局のところ何が言いたいかというと。 僕様大ピンチ。 霊夢を探していたつもりが何時の間にか妖怪らしき生物と鉢合わせ。 ていうか、妖怪と遭遇するのは初体験だ。 あちら側はまだ僕に気付いた様子は無い様で、だけど何かには感づいた様で辺りをキョロキョロ見回している。美味くない状況だ。 咄嗟に木の陰に隠れた僕だが、さあこれからが問題だ。 どうしよう。 迂闊に動いても状況が悪化するだけだろう。 ていうか先刻から鼻につくこの血の臭いのようなものは何ですか。 あの生物からのものだろうか。 何だか泣きたくなってきた。 このままアレが立ち去ってくれれば万事オッケィなのだが現実はそうも易しくない。 こんな形で世智辛い世の中を痛感したくなかった。 とまあ、こんな事ばかり考えていても埒が明かない。 よくよく辺りを見回してみると、森はそう遠くないところで途切れているようだった。 距離は目測で100メートルほど。 走れば物音で確実に気付かれるだろうが、あの見た目妖怪と僕は割と距離が開いている。 足に自信があるわけではないが行けない事も無い。 どうしよう。 暑い訳でもないのに頬を汗が伝う。 これが俗に言う冷や汗というやつかー、などと楽観的なことを考える余裕は最早無い。 ここで功を焦って失敗したら笑い話にもならない。 「何もやらないよりはマシか……」 近くにあった手頃な棒切れを拾う。 これを別の投げて音を立てればそれでいくらか錯乱できるだろう、と素人見積もりではあるが考えた。 「……ぃよし」 覚悟を決める。 こうなってしまった以上僕が考えられる策は他に無い、これが最善だ。 二、三度深呼吸を繰り返して、歯を食い縛り押し寄せる恐怖を捻じ伏せる。 ポケットの中の護符を握り締め心を落ち着け…… 「――ふっ!」 決して大きな音は立てない様、最小限の動きで出来るだけ遠くに棒切れを投げる。 そして隙が出来た直後に、森と平地の境界まで全力で駆け抜ける。 駆け抜ける……はずだった。 「――――な、ぁっ?」 今自分はどんなに絶望に満ちた表情をしているのだろう。 それは全てが予想外、いや計算不足。 棒切れを投げるべく妖怪の方向を向いた僕が見たのは、 ――目前で豪腕を正に振り上げんとする、その異形の姿。 気付かれていた、その事に気付かなかった。気付けなかった。 もう遅い。 全てを諦める暇さえ与えられないまま、目の前の絶望は腕を振り下ろしてきた。 だがここでおかしな事が起こる。 吹き飛んだのは僕ではなく、眼前の妖怪だった。 「……」 今度は声すら出ない。 二度も連続する予想外の事態に、僕はただ呆然とするしかなかった。 と、そこで第三者の声が掛かる。 「無事かしら」 はっ、と我に帰った僕が目に留めたのは―― ――正に僕が探していた、博麗霊夢その人だった。 「霊夢……」 探していた人がやっと見つかっても素直に喜べない僕だった。 述懐させてもらうと、先ず彼女の見た目が酷く平素の彼女とかけ離れていたという事だ。 「何?」 そう事も無げに話す彼女の巫女装束には、至る所――とまではいかないが、概ねの場所に唐紅の色が染み付いていた。 霊夢のその風体は僕に充分すぎるほどの畏怖の念を抱かせた。 ――と、またここで事態は急変する。 「が、があああああああッ!」 此の世のものとは思えない様な声――いや声と呼ぶのかどうかすら怪しい―が耳を劈く。 その音の発生源が、狂瀾怒濤の気合と共に霊夢に飛び掛った。 対する霊夢は妖怪を一瞥し、何やら針を構える。 「おおおおおおおおおっ!」 僕が危ない、という声を上げる間も無く、妖怪はその腕を霊夢に叩きつける。 轟音が発生し、巻き込まれた木は粉々に吹き飛んだ。 だが、妖怪が腕を上げても其処に霊夢はいない。 「あれ……?」 傍観者の僕でさえ分からなかった。 次の瞬間、霊夢は妖怪の後ろに現れ―― 「――パスウェイジョンニードル」 言葉と共に無数の針を妖怪の背に縫いつけた。 「ーーーーーーーーッ!」 上がる血潮。 早や意味も持たない奇声を発しながら、妖怪は闇雲に腕を振り回す。 だがそんな攻撃が相手に届くわけも無く、霊夢は再び構え、宣言する。 「――収束、エクスターミネーション」 再度僕が妖怪の方に目を向けた時、そこには既に蛋白質の塊しかなかった。 「大丈夫?」 事の後、霊夢は僕に話しかけてくる。 「あ、うん……」 何とかそう返す僕は、恐怖からだろうか、自然と目を背ける。 あの瞳は……ダメだ、見ていられない。 何でも良いから感情があるのなら、まだその方が百倍マシだった。 それは、何も感情の色を灯していない眼。 目の前の光景に対して、先の妖怪に対して、そして……僕に対して。 瞬時、悪寒が背中へ齧りついた様な錯覚を覚える。 それと共に震え出す体躯に、霊夢は気付いていたのだろうか。 「それでいいの」 突如場が凍り付く様な、絶対零度の響きを持った声が発せられる。 「今回の一件であなたなら理解した筈」 何を、なんて野暮なことは聞かない。 「何があってこんな所に来たのかは知らないけど、二度目は無いと思いなさい」 軽い好奇心からこんな事態になってしまった自分の愚行を悔やむ。 命を落とす危険性は十二分にあったというのに…… 「――帰るわよ。神社はすぐ其処だから」 対面して初めて分かった恐怖から、未だ僕は体を動かす事は出来なかった。 せめて何か言おうと霊夢の方に顔だけ向けた時。 「――――あれ」 この場に全く似つかわしくない、そんな声を上げてしまう様なものを、僕は見た。 それは何と形容したら良いのか分からない。 哀思、苦悶、果てには憂惧といった様な雑多な負の感情が入り混じった表情が、振り返り際の霊夢の顔に浮かんでいた そして直後、僕の頭に一つの仮説が浮かぶ。 あくまで仮説だ。きっと間違っている可能性の方が高い。 だけど。だけど僕はそれを切り捨てられなかった。 信じていたかったというのもあるかもしれない。 でも、彼女は。霊夢はひょっとして―――― 思考は一瞬。僕は即座に体に喝を入れる。 動け、動くんだ! そして表情だ、作り笑いでもいい。 ――なんとかして、彼女を安心させなくては。 「いやーぁ、驚いたなあ」 頭を掻きながら霊夢のほうに向き直る。 声はいつも通りに出す事が出来た。 ちゃんと笑えているかどうかが心配だ。 そしてゆっくり歩み寄る。 幸い、霊夢はまだ動き出していなかった。 「えっ……」 一瞬。ほんの一瞬だけ霊夢は酷く驚いたような表情を浮かべ、また元に戻す。 「や、それにしても助かったよ。ありがと」 危ないところだったからね、と付け加える。 霊夢はどこか落ち着かない様子で「どう、いたし、まして……」とだけ返した。 「それじゃあ帰ろうか」 何時の間にか僕の方が先導を握っていた。 霊夢は返事はせずに頷いて、腕で自分の体を抱きながら寒そうについて来た。 あれで大丈夫なのかと危惧していたが、やはり寒いものは寒いらしい。 と、そこで僕は思いついた。 「霊夢、これ」 はい、と自分の着ていたコートを差し出す。 「それじゃ見てるほうまで寒くなるからね」 僕の対応にちょっとだけ困惑した表情を浮かべた霊夢であった。 が、やがてコートを受け取り、少しだけ紅潮した顔をそそくさとコートに埋める。 「……ありがと」 「どういたしまして」 その後の感謝の言葉は聞き逃してしまいそうなほど小さいものであった。 しかし、それでも僕を喜ばせるには充分過ぎた。 二人で並んで神社までの道のりを歩く。 こうして肩を並べることは初めてではなかったが、その距離がいつもより近く感じられたのは僕の錯覚だろうか。 兎も角、これで推測は確証に一歩だけ近づいた。 霊夢は――本当は自分のことを怖がってほしくないんじゃないだろうか。 僕はそんな彼女に大いに興味を持った。 それは少なくとも趣味や仕事に対して向けるようなものではない。 折角なら、ありのままの霊夢でいて欲しいなぁ。 そんな事を考えながら、いつもとは少し違って感じる帰り道を二人して歩いていったのであった。 その後部屋に戻った僕が先の事を思い出し、震えていたなどという情けない話はここだけの秘密だ。 うpろだ82 ──────────────────────────────────────────────── 冬ですね。なんか外ではざっくりと雪が降ってます。寒いです。 俺が元居た場所も豪雪地帯だけど、この降り方は豪雪っていうレベルじゃねぇぞ! 幻想郷に来て、神社に居候させてもらって大分経つ。と言っても人間的に大分なだけかな。やっと一年くらい。 そんなこんなで霊夢にお世話になり、ここで暮らしている訳なのだが・・・。 こんな寒い時期だと言うのに、彼女はどうやら妖怪退治。寒さに強い妖怪が、冬に乗じて里に襲撃をかけたとか。 妖怪退治と防寒対策、両方しなくちゃならないのが博麗の巫女の辛い所だな。 と言ってもいつも露出気味の肩には防寒対策の欠片も施されていないようだが。アイデンティティだとか言ってたよ。 コタツに入ってぬくぬくしていると、唐突に縁側の襖が開き、ビュウと吹き込む風と共に霊夢が現われた。 うぅわあからさまに寒そう。顔なんか蒼白になっちゃってるよ。どっかで見たCMの犬みたいにプルプルしてるよ。 「・・・さ、寒い」 蚊の鳴くような声ってこう言う声なんだろうな、と思った。 「・・・結界張ってなかったのか?」 「けけけ結界あっても、寒、しゃ、寒いもんは寒いのよ・・・・・・」 大分呂律が回ってないんだぜ? ふと思うといつの間にか霊夢は炬燵に潜り込んでいた。炬燵の天板に顎を乗っけて、水にふやけたスポンジみたいな顔している・・・。 「・・・あったきゃ~い・・・」 「あー・・・お疲れ様」 「うー」 何と言うか、膝の上で寝てる猫を連想させるような表情だ。ああ何て言うか撫でたい愛でたい。 「よし」 「?」 顔だけ傾けて疑問の表情を浮かべる霊夢の背後に座ると、俺は霊夢を後ろから抱きしめる。 「ちょっ、なにすっ・・・」 「うひゃー冷や冷や。どっかの氷精に負けず劣らずだな」 「・・・ぇぅあー。あたかい」 初めは驚いていたものの、霊夢はすぐさっきのふやけた顔に戻った。頭撫で撫で。 「・・・頭撫でんなぁ」 「いいじゃん、可愛いから撫でてるの」 「・・・うー」 小さく恥ずかしそうに唸る彼女の肩は声と一緒で小さくて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうで、愛おしかった。 「・・・もうちょっと強く」 「え?」 「な、なんでもないっ」 きっと赤面しているのであろう霊夢に、俺はかすかに微笑んだ。 聴こえないふりをして、俺はほんの少しだけ、抱きしめる腕にかける力を強くしたのだった。 6スレ目 363 ──────────────────────────────────────────────── 「あ、茶柱だ」 手にした湯呑みのお茶の中のそれに目を留め、思わずそう溢したって前もこんな事あった気がする。 とりあえず妙な既視感はさておき、ちょっと得した気分になった。 どことなく水が流れるように、漫ろに空を行く雲をぼんやりと眺める。 こうやって先の事を何も考えずに中空を見やっているのは嫌いじゃない。というより好きだ そうしてお茶をもう一口。 うん、悪くない。 「隣、いいかしら」 「あ、うん」 何時の間にか僕と同じく湯呑みを手に所持する霊夢が現れ、隣に腰掛けた。 その時発したよいしょ、という声に年齢を絡めて突っ込みを入れようとしたが、その後の報復を考え自粛。 霊夢は僕に話し掛けるでもなく、ただ横でお茶を啜っていた。 「お茶が美味しいわね」 「そうだね」 何だか最近、こうやって霊夢が僕の傍に来る事が多い。 ただ単に考えすぎなのかもしれないが、きっと回数を数えてみれば増えているのだろう。 いや、でもきっと偶然だ。 霊夢がここに来るのは別に僕がいるからではないのだろうと思っていた。 今日は天気も良く冬といえども暖かで、どこか春の訪れを感じさせる。 縁側で茶を啜るには絶好の日和だったからそうなのだろうと思った。 ……ホントだよ? 「もう春も近いねぇ」 「そうね」 どちらかが何か呟いて、もう片方が何となくそれに同意して。 正にまったりという言葉がぴったりの今日の僕らであった。 何時しか独白も賛同の声も途切れる。 だがこの沈黙を気まずいと思う事はなかった。きっと霊夢もそうだろう。 慣れた、というニュアンスよりも、必要がない、と言った方がしっくりくるだろうか。 そんな僕らの間には、しばらくお茶を嚥下する音だけが響いた。 「……あ」 ふと、流れる雲を呆けて眺めていた僕はある事に気が付く。 無意識の内に漏れた声は霊夢には聞こえていないようだった。 それはあまりに平和で忘れていた、しかし忘れてはいけない事。 全く、よくも今まで失念できたいたものだ。 自分の莫迦さ加減に思わず苦笑を浮かべる。 見ると、湯呑みの中のお茶はとっくに底を突いていた 「ねえ、霊夢」 「何かしら?」 少しだけ居直った口調で言葉を紡ぐ。 そんな僕の雰囲気を察したのか、霊夢も先までと比べ幾分か真面目な態度になる。 いずれは尋ねようと思っていた事だ。 それでも躊躇いを感じてしまうのは、きっと僕が此処を好きなのだからなのだろう。 「僕が元の世界に帰る方法って、あるのかな」 一瞬、霊夢の表情が堅いものになる。 その理由を推し量ることは出来たが、それは些か確信し難いものだったので早々に意識から追い出す。 だが一瞬の事だ。 いつも通りに見える表情がもう霊夢の顔にはあった。 「無いことはないけど……。ま、春になったら帰れるわよ」 その霊夢の言葉を聞いた時、僕の胸に訪れたこの感情は欣快か寂寥か。 自分でもよく理解できない気持ちが躰の内で渦巻く。 その後に訪れた不言不語の空気は、何だか居辛いものだった。 程なくしてじゃあ、とだけ言い残して霊夢は立ち上がりこの場を後にする。 縁側から去る霊夢は勿論後姿しか認められず、その表情は分からないままである。 理由は分からないのに、なんとなくその背中に罪悪感を感じた。 「春になったら、かぁ……」 そうして一人になった僕は思案に耽る。 ふと、ここに流れ着いてから今までの事を思い返したみた。 確かに此処での生活はあちら側では出来なかったものばかり、というか出来なかったものしかない位で新鮮で楽しかった。 魔法使いやらメイドやら吸血鬼やら人形遣いやら鬼やら、上げれば切りが無いほど個性的で魅力的で幻想的な連中ばかり。 それに何より、霊夢がいる。 こればっかりはあちらの世界ではどうしても代えようがない。 たった今気付いたが、あの不思議な巫女さんは僕の中で中々に大きな存在になっているらしい。 だけど。 「そんな事ばかりも言ってられないんだよなぁ……」 そう、此方ばかりに目を向けていてはいけない。 同様にあちら側にいる人達――家族、友人、その他大勢もまた、掛け替えの無いものなのだ。 それら全てを見捨ててまで、悲しませてまで僕はこちら側に留まる事など出来そうも無い。 僕は故意ではないといえ、何の前置きも無く彼らの前から消えてしまった。 きっと、いや必ず心配している筈だ。 少なくともそうさせてしまうほどにはあちらの人達を大切にし、大切にされていたという自覚はある。 「……どうしたらいいんだろうな」 中々難しい問題が僕の頭を擡げさせる。 もう余り時間も無いくせに、そう簡単には解決できない厄介な問題だった。 「…はぁ~」 解を導き出す事は出来ないものの、相も変わらず溜息だけはよく出る。 こちらとあちらの間でふらふらと揺れる天秤は、最後にはどちらに傾くのだろう。 懊悩としながら見上げた空は、僕の頭の中とは対照的に憎々しいほど晴れやかであった 日常というのは平穏なものだと考えられがちであるが、ドタバタと慌ただしい事でもそれが毎日毎日連続していれば、それも立派な日常と呼べる。 「よう」 だから彼女がこうして定期的にここに現れる事も日常と呼ぶべきなのだろう。 まあ受け入れ難い日常であるが。 日も沈みかけた逢魔ヶ刻。 空は宵に向けて、緋の色も黒橡に染まりつつあった。 いつも通り参道の掃除をしていた僕は、これまたいつも通りの挨拶をしてきた人物に答える。 「やあ魔理沙。どうしたんだい?」 一応形だけの問い掛けはしてみる。 だが魔理沙も自分がどんな目的でここに来ているか、僕が分かっている事など既にお見通しなのだろう。 彼女はこういうところで無駄に鋭い。 「そんな事言って、本当は分かってるんだろう?」 予想通り、質問を質問で返された。 うん、その通り。分かっているさ。 だけど分かっている事でも口に出したくない事ってあるじゃないか。 例えば、主に僕や霊夢が苦労する宴会の話だとか。 宴会では、盛り上がる連中は騒ぐだけ騒いで終わったらさっさと帰ってしまう。 まあそうでなくとも、皆勝手に帰ってしまうものだが。 だが博麗神社に居候の身の僕としては、文字通り目の前に拡がる光景というか惨状を無視できるほど義理人情が廃れてはいなかった。 というか、看過した場合の霊夢の対応が怖かった。 その為、片付けは主に僕と霊夢の二人で行う。 僕が来る前はこれを霊夢一人でやっていたんだし、と自分に言い聞かせてみるものの、やはり面倒は面倒だった。 避けられるなら回避したいものだ、と願いを口に出してみてもやはり気苦労は耐えない。 強くあれ、自分。 「……またかい?」 不快な表情と本日最大の溜息を隠匿しようともしない僕に対して、魔理沙はおう、と何故か胸を張って答える。 張っても大した事は無いなぁ、とは思っても口に出すほど僕は愚かではない。 そんな過ちは過去に一度で十分だ。あれは傷(と書いてトラウマと読む)になった。 「はあ……」 溜息を吐き出すのも何だか面倒になってきた。 特にアルコールを摂取したわけではないが頭が痛い。 半分の優しさはいらないから十分な効能がある薬が欲しい。 「そんなだと幸せが逃げるぞー」 「そんな簡単に逃げていくような幸福だったら、大した恩恵には与れないと思うんだけど」 「……ふむ、それも一理あるな」 万福は自分で掴み取るものであり、天禄などといった授かるようなものでは有り難味もあまり感じられない。 苦労して獲得したものほど得られるものも大きいのだ、というのが僕の見解である。 閑話休題。 「てなわけでよろしく」 何も理由が述べられていない上にあまりにも唐突なのだが。 まあ、これもいつもの事といえばいつもの事である。 彼女に僕の意見を通すというのは到底無理な事だからさっさと諦めるのが賢明だと判断する。 「……わかったよ。霊夢には言っておく」 きっと魔理沙の連れ合いになる人は苦労するんだろうなあ、とまだ現れないその人物に対して憐情を抱く。 僕のその返事を聞くと、魔理沙は満足そうに頷いた。 「じゃあ、夜になったらまた来る」 その言葉を最後に、魔理沙はつい先ほど来た道を引き返していった。 まさかこの事を伝えるためだけにわざわざここに来たのだろうか。 暇なんだか律儀なんだか、普通だと主張する本人には悪いが変わった人物だなあと思う。 「さて、と」 掃除は早めに切り上げて神社に戻る。 宴会の話は霊夢にも伝えなければいけない。 事の顛末を話し終えた後の霊夢の不機嫌そうな表情が、今からでもありありと想像出来た。 まあ、多少の愚痴は聞いてあげるとしよう。 重くなる気を紛らわすかのように、なるべく軽快な足取りで神社へと戻った僕であった。 ――そして迎えた夜。 或る所では意気揚々、また或る所では死屍累々。 鬼っ子と天狗が飲み比べをしながら得体の知れない笑い声を上げて酔い潰れていたり、 白玉楼の主が他人の料理にまで手を出そうとするのをその従者は敢えて見て見ぬ振りをしていたりといつも通りの宴会の風景が広がっていた。 僕にとっての平常もずいぶんと歪んでしまったものだ。 「……っぷはぁ」 ドンチャン騒ぎをしている連中から離れ、憂さ晴らしに、と一杯呷る。 もうこうなってしまった以上仕方が無いと、毎度の経験から学習している。 ならば先の事は暫し忘れて、今を楽しむのが得策であろう。 未来ばかりを気にしすぎて今を疎かにするのはきっと馬鹿な事だ。 ――それが何に対して向けられた言葉であるかは深く考えないようにした。 「随分と飲んでるのね」 突然、というほど驚いたわけでもないが、それぐらいのタイミングで霊夢が現れた。 「そうでもしないとやってられないというか……」 まごうことなきヤケ酒である。そして僕は未成年。 こんなんでいいのか。 でもまあ周りの環境がそんなんだしいいか、と切り捨てる。 霊夢は昨今と同様、僕の隣に腰掛けた。 だがそれだけでそれ以上は何もしない。 何かを言いそうで、だけど言い出せずにモジモジしている様だった。 霊夢から何か話がある様子はあるので、僕はそのまま待っている事にする。 「○○は……」 しばらくして霊夢が口を開ける。 うん、という相槌は自然と漏れた。 「春に、なったら、その……」 紡ぐ言葉は小さすぎて、最後の方は良く聞こえなかった しかし続く言葉が何であるかは言わずとも分かる。 だから霊夢が言い難いのであろうその言葉は、僕の声で遮った。 「まだ迷ってる、っていうのが正直な気持ちかな」 こちらに在るものとあちらに在るもの。 そのどちらも大切で、どちらも何ものにも代えられない。 それは優柔不断という一言では片付けられないほど難しい。 「……そう」 そう呟いた霊夢は、僕の返答に何を思ったのだろう。 残念ながら僕がそれを知る事は出来ない。 そして再び訪れた沈黙。 だがそれは割と早くに打ち切られた。 「おぉーーーーい、れいむーーーー!!」 この声はきっと魔理沙のそれだろう。 遠くからなのにこの声量。 彼女なら良い歌手になれるとその時僕は確信した。パートはソプラノだ。 「呼んでるみたいだし、行くわ」 霊夢は苦笑して立ち上がる。 その顔についさっきまでのどこか暗い表情はもう見られなかった。 この場から去る霊夢の後姿をぼんやりと眺める。 と、視界が歪み、それと共に来る頭部への痛み。 「ぬぅ……飲みすぎたかな?」 頭を押さえながら体を起こす。 足は中々に安定していない。これは完璧に酔っている。 「ちょっと、冷ましてくるかな……」 きっとその必要があるだろう。 我慢しても良い事は無いし、これ以上悪化したら拙い。 揺らぐ三半規管に力を入れて歩を進める。 俗に言う千鳥足にも近い足並みで、僕は宴会の喧騒から離れていった。 「はぁー……」 吐き出した息は周囲の大気との温度差により凝結し、僕の目に白く映りそして消える。 火照った体にはこのぐらいの温度が心地良い。 酩酊状態にあった頭も、漸く普段通りものが考えられるほどに回復してきた。 「さて」 心機一転、とまではいかないが、再び僕を悩ませる問いに対峙する。 いつまでも逃げているわけにはいかない。 少ない脳を最大限に活用して答えを弾き出さんとする。 うんうんと唸りながら歩いていると、ふと妙な気配を感じた。 「……ん?」 足を止める。 あくまで気配なので確実ではないが、ここは少し神社から離れている。 油断は出来ないだろう。 ――神社から離れている? 「……しまった」 自分で言った事を振り返り、周りを改める。 物を考えながら歩いていた為か結構な距離を進んでいた。 神社は目視できる位置にあるが決して近いともいえない。 相変わらず注意力が足りていない自分を咎め、足早に神社の方向に戻ろうとする。 が。 がさがさがさがさがさがさがさ―――― 「!」 疑心は確信に変わる。 明らかに耳に届いた物音。最早疑いようは無い、近くに何かいる。 上着のポケットから護符を取り出したその瞬間。 ――――それは暗闇から躍り出た。 「ガアアアアアアア!」 「……っく!」 驚いている暇は無い、即座に護符を突き出す。 『――――森羅結界』 「ギャン!?」 広がる障壁、起こる衝撃。 僕に噛み付かんと飛び掛ってきた妖怪が派手に吹き飛ぶ。 護符は与えられた責務を終え、音も無く散ってしまった。 初めて行使するその力に暫し呆けていた僕だが、こんな状況では一瞬の迷いが死に繋がる。 気を引き締め、残り少ない護符を再び構える。 以前、妖怪とは人間の恐怖心が生み出した幻想で、妖怪を見つめ直すことで人間が何を恐れているのか浮かび上がってくる、と講釈を受けたことがある。 なるほど確かにその通りだが、不幸な事に此処では幻想ではなく実体として現れていた。 「くそ……」 思わず悪態をつく。 見れば狼に似た姿をしたその妖怪はもう既に起き上がり、跳躍の為に姿勢を低く落としていた。 じり、と僕が後退りするのに従い、妖怪も一歩前に出る。 一触即発、という言葉が今の状況をそのままに表していた。 息を呑む。 似たような経験は一度した事があったので以前より落ち着いてはいたが、如何せん状況が状況だ。 心臓は目の前の相手に聞こえるのではないかというほどに高鳴っていた。 何とか均衡を保ったまま、一歩一歩亀の様に後ろへと歩を進める。 振り返ることはしない。目を離した隙に飛び掛ってくるかも分からないからだ。 とはいえ妖怪も学習はしているようで、無闇に飛び掛ってくる様子は無い。 このままいけるか?と希望を持ち始めた頃、僕はある事に気付く。 妖怪が、不気味なその口を大きく歪ませた。 そこから連想できたのは、笑み。 何故、と僕が疑念を抱くより早く、それは訪れた。 「っぐぁ!?」 突如として左足に走る鋭い痛み。 そして崩れる体を僕は制御できなかった。 「う……っあぐ」 うつ伏せに地面に倒れ伏す。 咄嗟の出来事であったため、顔面を打ち付けてしまった。 一時痛みに悶えていたが、後方から聞こえる荒い息遣いに自我を取り戻す。 何事か、と後ろに向けた僕の目には、もう一匹の妖怪が映っていた。 「まさか……仲間…が……」 足から流れ出る血が僕に生命の危険を告げるが、それと共に遠のく意識を繋ぎ止めるので精一杯だった。 ただ、じゃり、と妖怪が近づいてくる足音だけが嫌にはっきりと聞こえる。 死が一歩、また一歩と、僕を焦らせる様に確実ににじり寄って来た。 その表情は先ほどと同じく、大きく歪んでいることだろう。 「……っく……うぅう!」 起ち上がって逃げ出したいが、激しい痛みに遮られてとてもじゃないが敵わない。 生を引き伸ばそうと諸手で地を掴み、這いずる様に前へ進むが成果は乏しかった。 結局得られたものは、焦燥の代わりの絶望のみ。 「畜生……」 手の先、脚の先と体の端から順に感覚が薄れていく。 もう顔に張り付く地面の冷たささえ感じられないのに、妖怪がすぐ傍にいるという事は感じられた。 世界がこんなに暗いのは、きっと夜である所為だけではないのだろう。 途切れかける意識の中、何時の間にか愛しいと感じていた彼女を思い浮かべる。 (…………れ…い……………む…) 僕は、こんなところで終わってしまうのか。 強い無念と後悔の念を感じながら、僕の意識は闇に堕ちていった。 「ぅ……」 五感が芽生える。 目が光を捉え、耳が音を吸い込む。 そして肌に感じる程よい圧迫感から推測すると、どうやら僕は布団を被って寝ている体勢にあるようだ。 まず目が覚めた僕が視認したのは、仄かに薄暗い見慣れた天井。 そこからここがいつも僕が寝泊りしている神社の寝室だと理解するのにはそう時間を要さなかった。 不意に視界の端に人影らしい物を見つける。 とりあえずその誰かを何者であるか確認するため、横たわっている体を起こそうと試みた。 が。 「……っつぅ」 左足に走る痛みに顔を顰める。 忘れていた、というには大層すぎるほどの激痛だった。 どうやら僕は自分で思っている以上に鈍感なようだ。 なるべく足に負担を掛けない様、主に手を使って上半身だけ起こす。 そして僕が目に留めた人物は布団に体を預けどうやら眠っているようだった。 「……霊夢」 顔は突っ伏しているので分からないが、この独特な衣装からして十中八九間違い無い。 まあ独特といえば、幻想郷の住人すべてに当て嵌まる事でもあるが。 彼女に看病疲れをさせてしまったのだと思うと心が痛む。 ――――看病? 「あ」 そして自分の身に起こった事を今更ながら理解した。 脚に突き刺さる痛み、近寄る死の恐怖、そして途切れた意識…………。 もう助からないだろうと踏んでいたが、今もこうして生き永らえているという事は霊夢が助けてくれたのだろうか。 暫し思考していると、僕が動いたからか霊夢が眠たそうに面を上げる。 「……んぅ……」 目が合う。 霊夢の目線の先には当然ながら僕がいて、僕の姿を確認すると霊夢は大きく目を見開いた。 寸時見詰め合う二人。 そして訪れる沈黙。 双方ともに何も言わない。というか言えない。 時計の針を刻む音だけがやけに五月蝿く感じられた。 「――えーっと、おはよう、でいいのかな……?」 とりあえず、笑いかけてみる。 何とか言わなくてはという出所の分からない使命感に駆られ僕が発した言葉は、何だかとっても微妙なものになってしまった。 つくづく自分の即興性の無さには呆れ返るばかりである。 そういえば、部屋の明るさから察するに今は夜のようだ。 僕は随分と切羽詰っていたらしい。 だがその的外れな挨拶を受けても尚霊夢は止まったままで、どうしたのだろうと僕が心配した時。 ぼふっ 「……おっ?」 次の瞬間、僕の視界には再び先ほどの見慣れた天井が。 突然の出来事ではあったが、僕の胸に感じる圧力から何が起こったのか理解するのはそう難しい事ではなかった。 というか動けないんですがこの体勢。 と、不意に僕の耳に届けられる僅かな音。 「……霊夢、泣いてる?」 「ふ………ぅっ……ぁ…………」 返事の変わりに漏らされた嗚咽は、何よりも端的にその事実を僕に伝えていた。 しかしこれは困った。 この状態では起き上がろうにも起き上がれない。そうさせてくれない。 とりあえず理由を問わねば始まらないだろうと僕が思っていた丁度その時、それは微かに聞こえた 「ぉぃ………な……で」 それはとてもとても小さな声だった。 注意して聞かなければ聞き落としてしまう、しかし彼女の本心だった。 「おぃ……かなぃ……」 必死に、一途に。 唯その思いを伝えようと、彼女は僕に縋り付く 「おいて、いかないで……!」 そう、彼女の本心。 初めて一人でいる事に孤独を覚えた彼女の、 「私を、独りにしないでよぉっ!」 心からの、叫びだった。 「霊夢……」 真情を吐露し終えると、彼女はまた僕の胸に顔を埋めて肩を震わし始めてしまった。 全く、女の子を泣かせてしまうとは。 つくづく、僕は救いようの無い莫迦である。 「とりあえず、僕を起こさせてくれないかな?」 このままじゃ話も出来ないよ、と苦笑しながら子供をあやす様に背中をぽんぽんと叩く。 数刻そのままでいた霊夢だが、落ち着いたのか漸く面を上げてくれた。 その時に認めた彼女の顔の涙の後が僕の心を締め付けたが、これも僕の所為で流させてしまった涙だ。 目を背ける事は許されない。 「ねえ霊夢」 問い掛けるも返事は無い。 ただ伏せていた顔を少しだけ上げてくれた。 いつもは綺麗なその顔も涙で濡れてしまっている。 霊夢の姿は普段の彼女からは想像出来ないほど弱々しく、雨に打たれて震える子犬、乃至親と逸れた幼子の様だった。 だがそれも仕方が無い。 そうさせてしまったのは僕自信なのだ。 彼女はとても強かった、きっとこんな拙い言葉では言い表せないほど、とても。 でも、僕が現れてしまった。 以前僕が霊夢に助けられた時の彼女の反応から考えて、僕はきっと異常だったのだろう。 そんな僕との出会いが彼女から弱さを引き出してしまったのだ。 博麗として、その身が果てるまで独りで生きていこうと心に決めていた彼女に、人と触れ合う事の温かさを与えてしまった。否、思い出させてしまったというべきか。 僕が彼女の、その尊い決意を蔑ろにしてしまった。 ――――けど。 だけど、僕はこの選択が間違っているとは思いたくなかった。 これからの道のりをたった独りで、誰の温もりも受けずに生きていくのはとても辛い事だ。 そんな冷たい人生は見ているこちらまで悲しくなってしまう。 ならば気が付かなければ良かったのかもしれない。 彼女の悲壮な決意も、知る事が無ければ何事も無くそのまま維持されていたのだろう。 ――だけど、もう遅い。 僕は気付いてしまった。霊夢の悲しい決意に。 確かに僕は莫迦だが、目の前で苦しい思いをしている女の子を放っておけるほど愚かではない自覚はある。 「ねえ、霊夢」 労わりと優しさと、そして愛しさを込めてもう一度。 霊夢はか細い声でだが、うん、と返してくれた。 僕が彼女を弱くしてしまった。 そんな責任からではなく、何よりも自分の意思で僕は霊夢と共に在りたい。 その事を今、再認識した。 幸い霊夢もそう思ってくれている。 ならば―――― 「僕、春になったら元の世界に戻ろうと思うんだ」 僕の決意を余す所無く伝えよう。 霊夢の悲しみに濡れた顔が更に強張った。肩だけでない、全身が小刻みに震えている。 恐らく彼女の予想、というか期待していた言葉とは違ったのだろう。 辛うじてどうして、とだけ彼女の口から零れた。 だけど霊夢の予想とは裏腹に、僕の胸の内は彼女とは正反対だった。 とりあえず彼女の痛々しい姿はいつまでも見ていたくは無いので、僕も速やかに次の言葉を発する。 「――――そりゃ僕の親とかにお別れをしてこないといけないし、ね」 伸びる土筆、囀る鶯、麗らかな日和、舞い散る桜。 ――――――総じて、春。 春を告げる妖精が空を飛び回るのも、もう珍しくはなくなった。 ぽかぽかと暖かな日差しが気持ちいい。 春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので、こうしてまどろんでいると夢の世界へ直行してしまいそうになる。 そうになる、というか…………これは本当に…直行………… ………あー………眠………… 「こら」 何物かの声が聞こえると同時に頭に走る衝撃。 それは眠りの淵に陥っていた僕を覚醒させるのに十分な威力だった。 ぉおおお、頭が揺れるうううぅ。 「あ痛たたたた……。霊夢?」 振り返った僕の目に映っていたのは、微笑ましさ一割、呆れ九割といった表情を浮かべて玉串を携えている霊夢だった。 恐らくはその玉串で僕を夢の世界からサルベージしたのだろう。 もうちょっと愛情の篭もった起こし方が良かったものだが。 「全く……。ほら、そろそろ時間よ?」 「………時間?」 眠気に加えて先ほどの打撃もあったため、記憶をうまく呼び覚ませない。 ――――今日は何かあったっけな? いかん、全く心当たりが……あ。 「……あ」 思ったままを口に出してしまった。 一方で霊夢はやれやれといった感じの呆れ顔。 そうだった。今日は僕があちらの世界に行く日だ。 やっと思い出した僕は、未だ気だるい感じの残る体をよっこいしょ、と起き上がらせる。 その時霊夢に年寄り臭いわよ、突っ込まれた。 くそぅ、この前僕は我慢したってのに。 細かい事はさておき、特に準備するものも無い為そのまま境内に向かう。 果たしてそこには人影が。 この際、人じゃないじゃんという突っ込みは胸の内に留めておく。 「あら、漸く来たわね」 そこに立っていたのはスキマ妖怪の八雲紫さん。 文字通り妖しくて怪しい、そんな雰囲気の漂う女性である。 霊夢曰く、冬の間は冬眠していて最近になってやっと日の当たる世界に戻ってきたらしい。 ……熊? 「すいません、お待たせしました」 「それじゃ早速開くけど……随分と身軽なのね?」 紫さんが僕を眺めて言う。 確かに今の僕が身に付けているのはいつもの服と小さな鞄ぐらいのものだ。 その理由は、ここに来る時に僕が持っていたものが少なかったという事もある。 だが、何より―――― 「ええ。僕の家は此処ですから」 決意に満ちた表情で告げたという自信があった。 「ふふ、そんな事言われるなんて霊夢も幸せ者ね」 紫さんが扇で口元を隠しながら霊夢を横目でちらりと見る。 対する霊夢はジト目で紫さんを見据えていた。 だがそんなにも頬を紅くしているようでは迫力も何も無い。 そこから感じられるのは可愛さだけだった。 「○○、にやけてるわよ」 何時の間にか霊夢がこちらを向いていた。 おっと、知らぬ間に霊夢の顔を魅入ってしまっていたらしい。 しかしこのまま霊夢にイニチアシブを取られては不味いので、即座に僕も切り返す。 「しょうがないよ、可愛いんだから」 う、と小さく漏らし更に顔を朱に染める霊夢。 思わず顔を伏せてしまうその仕草も余計に可愛い。 こうした珍しい表情が見られるのはいいが、からかうのもこれぐらいにしておこう。 見れば紫さんも待ちかねているようだ。 「じゃ、霊夢」 「ん」 霊夢が伏せていた顔を上げ、応える。 それを確認した僕は紫さんの方へ歩いていった。 「お願いします」 「はいはい。じゃあ、いくわよ」 何も無い空間を、紫さんの扇が撫でる。 するとその軌跡から裂け目が生まれてみるみる拡がっていき、ぽっかりと穴が生まれた。 その向こうに見えるのは、懐かしさを感じる元の世界。 これから僕は元々の世界に行って、そこの人たちに別れを告げてくる。 期間は一ヶ月間。 その時間が終わるとまた紫さんがこちら側に戻してくれる事になっている。 一緒に生きていくと決めた。 お互いがお互いを必要としているならこの方法が一番手っ取り早い。 すなわち、ここで霊夢と一緒に年月を経る事。 それが僕にとっても霊夢にとっても最善の策だと思えた。 こちらとあちらの境界へ、一歩踏み出す。 ここを越えれば世界は変わる。 案外あっけないもんだなあ、なんて思ったりした。 ――と、忘れるところだった。 「霊夢」 後ろを振り返り呼びかける。 霊夢はそれに応えて顔を上げた。 もうここが僕の家。 変えるべき場所はこちらの世界にある。 ならばこう言うのが最も相応しいのだろう。 「行ってきます」 ここで僕の帰りを待つ彼女の為に。 何時か帰ってきたその時に言いたい、その言葉は胸に秘めて。 僕は笑顔で一言告げた。 「行ってらっしゃい」 だから彼女も笑顔で告げる。 何時か僕が帰ってきたその時には、きっと言いたい言葉があるのだから。 だけど今はやっぱりその言葉は胸に秘めて。 少しでも会えなくなるのは寂しいけれど。 その分再開は嬉しくなるから。 その日を迎える待ち遠しさを、今は心の糧にして。 ――――僕は世界を飛び越えた。 大丈夫。君にまた会える少し先の未来までは、独りで歩いていけるから。 だからその時は、こう言い合いたい。 平凡だけど、心から望んだそんなやりとりを。 「ただいま、霊夢」 「お帰り、○○」 6スレ目 430 ────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/th_izime/pages/1392.html
723 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/12(金) 22 20 14 ID nmrm9AmA0 「霊夢にビンタ」を題材にいぢめとリョナと排水溝でそれぞれ書いてみた。 ちょっと不快かも知れない。 いぢめ 私は霊夢の頬を張った。 物を叩いた時独特の感触が手に伝わると同時に、パァンという小気味よい音が耳に届く。 彼女は訳が分からないという顔をしながら、私と自分の頬に貼られた物を交互に睨む。 「な、なにこれ…?」 私が貼った物。それは冷湿布であった。 恐らく初めての感触であろう、ひやひやした不可思議な感覚に、彼女は戸惑っている。 きっと何らかの術が施された符だとでも思ったのだろう。慌てて剥がしにかかるその手を、 私はがっちりと掴んだ。霊夢はあっという声を上げる。かわいい。 「どうだ。冷たいだろう」 私はニッコリと微笑んで、空いていた手でもう一つの冷湿布を霊夢のオデコに貼り付けた。 パァン。いい音がした。 リョナ 私は霊夢の頬を張った。 物を叩いた時独特の感触が手に伝わると同時に、バチィンという耳障りな高音が耳に届く。 彼女は訳が分からないという顔をしながら、反抗的な目で私を睨んでくる。 「な、なにをするの!」 反抗的な態度だ。気に入らない。 男に頬を張られるのは、恐らく初めてのことであっただろう。 自分の身に起こった事を理解しがたそうな、奇妙に歪んだ表情を浮かべている。 「どうだ。痛いだろう」 私は残虐な笑みを浮かべて、先ほど叩いた頬を叩いた。彼女が手で頬を押さえていたが構わなかった。 バチィン。耳障りな音がした。 排水溝直通 私は霊夢の頬を張った。 バチィッブチッ。下品な音とともに、霊夢の顔が飛んだ。 彼女は訳が分からないという顔を固まらせ、茫洋とした目で宙を睨んでいる。 「ゆっくり(笑)」 私はクスッと来てしまい、霊夢の身体から噴出す鮮血から逃げそこなった。 血をを浴びて真っ赤に染まる自分を見つめながら、私はただ立ち尽くしていた。 (汚いな…風呂に入って身体を清めよう) そう考えたのは、首を失った霊夢の身体が石畳の上に倒れる音を聴いてからだった。 724 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/12(金) 22 33 10 ID Pgn897Ag0 実にわかりやすい 725 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/12(金) 22 53 41 ID nmrm9AmA0 口直し+一つ忘れていたので急遽作成 ギャグ 私は霊夢=サンの頬をヒットした。 ドガァン。博麗神社が爆発四散した。 「アイエエエエ!ジンジャ!?ジンジャナンデ!?」 何でもくそもない。マッポーを生きる幻想郷では爆発はコモンイベントだ。 「ジンジャは抹殺する!ゴウランガ!」 私は勝ち誇った。 だがしかし、ただちに危険なアトモスフィアを纏った霊夢=サンは私に 手裏剣めいたショットを放ちだした。 「Wasshoi!オタッシャデー!」 これは大変非常に恐ろしい。私は死ぬかもしれない。 私はジンジャをキルした。巫女はカタキを討つつもりだ。これがインガオホーか。 「フヒッヒイ!遺憾の意!」 私はとっておきの術"遺憾の意"をオミマイした。だがなにもおこらない。 シット!古事記にも書かれているユイショ正しいジツのはずなのに! 「ムソーフーイン!」 「グワーッ!サツバツ!」 巫女が叫びながらヤバイ級の銃弾を浴びせた。実際大変非常に恐ろしい。 「おお!ナムアミダブツ!」 私は叫んだ。無意味にも。 「ザッケンナコラー!!」 「アバーッ!」 私はカイシャクされてしまった。 最後ww -- 名無しさん (2014-07-29 22 44 28) グ・・グロイ!!! -- サクラクローバー (2014-10-16 19 18 26) ワロタw -- 名無し (2015-07-25 14 47 57) あらまww -- 名無しちゃん (2015-07-27 10 37 29) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/105.html
■霊夢1 霊夢へ 「博麗流陰陽術を、俺に継がせてくれ!!」 1スレ目 7 ─────────────────────────────────────────────────────────── そうだ霊夢。 僕の体は完璧だけど一つだけ出来過ぎている部分がある。 それを君の足りない部分に合わせようじゃないか。 1スレ目 76 ─────────────────────────────────────────────────────────── セミの声がだいぶ少なくなった夏の終わり。 僕は博麗神社の境内に足を運んでいた。 今年の夏は本当に忙しかった。 紅魔館経営の海の家でチャーハンや焼きそばを美鈴さんと作るかたわらで、海水浴の監視員も兼業していた。 体が二つあっても足りないくらいのてんやわんや。 となりの角の生えた女の子は酒ばっかり飲んでいてちっとも仕事をしない視姦員と化していて、おぼれたり流されたりした人を助けるのは全部僕の役目だった。 夜雀の子を助けたこともあったし、迷子の式の主を一緒に探してあげたこともあった。 本当に忙しかった。でも、ばっちり働いたかいはあった。 ポケットをなでると、ぎっしりと詰まった財布の感触。 レミリアお嬢様の機嫌もよくて、咲夜さんからボーナスまでもらったからだ。予想以上の報酬に心なしか足取りも軽くなる。 風鈴の鳴る鳥居をくぐると、懐かしい紅白が目に飛び込んできた。 「あら、帰ってきてたの」 竹箒片手に出迎えてくれたのは、この神社の巫女、博麗霊夢だった。 「ついさっきね。霊夢は? この夏はどうしてた?」 「私はずっとここにいたわ。巫女が神社を留守にしていられないもの。よほどの異変がない限りはね」 「そうなんだ。海はきれいだったよ。人もすごく多かったし」 「そうかもね。あなた、日に焼けて真っ黒よ。見違えるくらい」 何がおかしいのか、霊夢はくすくす笑いながら竹箒を使って境内を掃いていく。ゆっくりゆっくり、丁寧に丁寧に。 僕の前を通って、神社の向こうへと歩きながら掃いていく。 夏の終わりという季節がそうさせたのか、そんな彼女を見て一抹の寂しさを感じた。 「つまらなくない? ずっと神社にいて」 春夏秋冬変わらずにずっと博麗の巫女であり続ける霊夢。何をするわけでもなく、ただ変わらずにそこにあり続ける少女。僕のように幻想郷の外から来た人間からすれば、気の遠くなりそうな生き方だ。 「別に。そういうこと、あまり考えたこともないし」 霊夢は竹箒を動かす手を休めることなく、そう答える。声からは、霊夢が何を考えているのか分からない。達観しているのか、どうでもいいのか。 「夏だけでも休みを取ったら。魔理沙やアリスと一緒にどこかに出かけてもいいのに」 「魔理沙は魔法の研究。アリスは人形作り。二人ともやることがいっぱいよ。そういうの、あまり誘うものじゃないわ」 そんなものだろうか。 ふと、霊夢がこちらを見た。 「それにね。秋になればお月見よ。また宴会で忙しくなるわ。主に片付けでね」 ああ、そうだ。この神社ほど、月が綺麗に見える場所はないものだ。 「そのときはまた手伝うよ。洗い物なら、実家が食堂だったから慣れてるし」 「はぁ、ほんと、あなたみたいな心がけの人が少しくらい妖怪の中にもいればいいのに。みんな騒いだら騒ぎっぱなし。散らかしたら散らかしっぱなしだもの」 「仕方ないさ。妖怪ってのは戯れるものだからね」 「ええ、だから私たち人間が苦労するのよ」 「まったくだね」 そんな他愛もない会話に興じているうちに、やがてミンミンゼミは鳴くのをやめ、ひぐらしのなく頃になっていた。 「それで、今日はどういう用事だったの?」 竹箒を片付け、神社の脇にある手水鉢で手を洗いながら霊夢が尋ねる。 「ん~? 参拝、かな」 わざと、気のない返事をしてみせる。案の定、 「そう、なら、素敵な――――」 「お賽銭箱はここよってことだろ。分かってるって」 僕は余裕たっぷりにポケットから財布を取り出し左右に振ってみせる。 心地よい重みが手に伝わってくる。 「今年はがんばって働いたかいがあってね。かなり懐が潤っているんだ」 財布のお札を入れるとこに手を入れると、霊夢がぐぐっと身を乗り出してきた。 なんだ、まさかそんなに困窮していたのかな? 「だからね、今回は大盤振る舞いってやつさ。ほら」 中から取り出したのは一万円札。これを賽銭箱に入れるような奇特な人はめったにおるまい。 驚け巫女よ! 僕の信心に驚くのだ。 「えっ…………!」 とたん、霊夢の顔色が変わった。あれ、思っていたのと違う驚き方だ。 「そ、そんなにたくさん…………なの?」 「そうだけど。あっ、賽銭の上限って決まっていたっけ?」 「そんなことないけど……」 おかしいな。当初の予定だと、それだけあれば一ヶ月は食べていけるわよ、という喜びで満ちた驚きで迎えられるはずだった。 でも、目の前の霊夢の反応は違う。 なんだろう。困っているような、どぎまぎしているような、よく分からない。 「とにかく。はい、奉納」 「あっ…………」 僕が指を離すと、一万円札はひらひらと賽銭箱の隙間に吸い込まれていった。 一部始終を食い入るように見つめている霊夢。 顔はなぜか、お酒を飲んだときのように赤くなっていた。 それなぜなのか、今の僕には分からなかった。 「おーい霊夢。スイカが手に入ったからおすそわけー」 次の日の夜。僕はもう一度博麗神社を訪れていた。 今回は参拝じゃなくておすそわけだ。神社の裏手に回って玄関で霊夢を呼ぶ。 「こんばんはー。おすそわけだぞー」 返事はない。出かけてしまったんだろうか。 「おーい。いるかー」 「…………いるわよ」 何回目かでようやく返事があった。消え入るように小さな声でかすかに。 「スイカだよスイカ。妖夢がくれたんだ~」 「……あがって…………」 また、かすかに聞こえる霊夢の声。どうしたんだろう。出てこられないのかな。 風邪を引いたとか。 「じゃ、失礼して」 言われたとおりに靴を脱いで家の中へ。台所とかをのぞいたけれども、霊夢の姿はない。 「霊夢―、どこにいるんだよー」 「…………こっち」 声のするほうにとりあえず進んでみる。縁側を通って和室の前で足を止めた。 どうやら、ここにいるらしい。ああ、こりゃ本当に風邪を引いたんだな。 大丈夫だろうか。 「ほら霊夢、夏の終わりでもまだスイカが…………」 何気なくあけたふすまの先に見えた光景。 その意外さに、一瞬僕の体は凍った。持っていたスイカを床に落としそうになる。 和室の中央に敷かれたのは、誰も横になっていない布団。 なぜに、枕が二つ並んでいるんでしょうね? そして、なぜに枕元にティッシュの箱があるんでしょうね? 掛け軸に書かれた「御無体」って何? そして何よりも………… 「遅かったじゃ……ないのよ」 布団のすぐ横に、寝巻き姿で正座しているのは、 「霊夢……これは、いったい何事…………?」 どこから見ても、正真正銘博麗の巫女である博麗霊夢だった。 なぜ? どうして? そんな疑問が、顔を真っ赤にしてもじもじしている霊夢を前にして浮かんでは消えていく。 「おさいせん…………」 「は?」 「だから、あなたが納めたお賽銭…………」 「ああ、一万円。それが何?」 「だから、神社の変な決まりなの。その……一万円だと…………これ」 もじもじしたまま、視線だけを横に向ける霊夢。 そこにあるのは、紛れもない二人用に敷かれた布団。 これ……といわれても思いつくのは一つしかないけれど、まさか添い寝ってことじゃなくてこれはそのまさかで………… 「ええと…………ふ、ふつつかだけれども、よ、よろしく…………お願い」 その、恥ずかしげに発せられた言葉。 普段一度も見たこととのない霊夢の照れた寝巻き姿。 吸い寄せられるようにして、僕は部屋の中へと一歩を踏み出していた。 1スレ目 107-110 ─────────────────────────────────────────────────────────── ある日の晩、○○は神社の縁側に腰掛け、星を見上げては呆けていた。 霊夢は入浴中、彼女の長風呂は幻想郷でも有名なほどの長さだ。入浴待ちってのもあるが、 この退屈な時間を活用してそろそろやっておかなければならないことがある。 そして子の刻になる頃、西から東からアリス、魔理沙、パチュリーの3人がやって来た。 ○「やあ、本当に時間通りに来てくれたね」 ア「何?今日はあなたが宴会の幹事になるのかしら?」 パ「そういえば霊夢は?」 ○「霊夢は入浴中。宴会も悪くないが今日はもっと大事な用件だからパスだ。 実は…その、これから付き合いたい人を決めようと思ってね」 それを聞き3人の目の色が変わる。 ○「たった今から椅子取りゲームの要領で僕の膝の上を占領できた子と付き合おうと思う」 パ「思ったより簡単なのね」 ○「あぁ手っ取り早くて分かりやすいだろ。さぁもう勝負は始まってる、かかってこい」 ○○がひときわ強く声を上げると合図されたかのように彼の元に突っ込んでいく3人。 ○「おー、こりゃ魔理沙が一番早いか…っておい待てちょっとそれ軌道がおかしくnプギャ!」 魔「…あのなぁ、なんだよこの決め方。私は何となくむかついたぜ」 ○「ムギュ・・・」 魔理沙のヒップアタックをもろに受け仰向けに倒れた○○の顔の上を一人占領し毒づく魔理沙。 魔「…あとお前らももうちょっと怒れよこいつに」 顔を上げると膝の上でおしくらまんじゅうしてるアリパチェ。 霊「あー、襖壊したわね!○○さん後で体で弁償ね」 ○「ムグ…モゴコラどけ魔理沙…あぁ霊夢、実はお前が好きだ付き合ってくれないk」 魔「但し魔砲は尻から出るスパーク!!!」 1スレ目 387 ─────────────────────────────────────────────────────────── 527 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/12(水) 17 40 29 [ ulkobMvM ] 霊夢に殴られたい 528 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/12(水) 18 27 59 [ Njbym132 ] /\/ i 「` ´ ヽ i ノ_,ル,_ 〉 ! l !‘д‘ノリ パーン ⊂彡☆))Д´)← 527 529 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/13(木) 01 46 51 [ 4avbXSBY ] 527 いいなぁ… 1スレ目 527-529 ─────────────────────────────────────────────────────────── 目を覚ますと、倉庫のような場所に居た。 古びれた旧時代の倉庫のようだ。そこは薄暗く、辺りには この倉庫の持ち主の、私物らしきものが置かれている。 風鈴や、団扇、過ぎし夏を思い出させるものばかりだ。 「…ここ、何処だ?」 まず最初に思った事はそれだった。 別に、この倉庫は俺が知っている場所のはずはない。 あの場所から俺は逃げていた。 逃げて逃げ続けて、どこかを通った覚えがある。 まぁ、そんな瑣末な事はどうでもいいだろう…。 とにかく、俺は逃げたのだ。 「出るか…」 いつまでもこんな倉庫に居てもしょうがない。 閉めきった倉庫は埃だらけで、息をするのも億劫だった。 「…っ」 思い切って戸を開けた。 開けた途端、さんさんと出ている日光を身体に浴びる。 天気は晴れ、山や森、川が見える。 「さて、どう言う事なんだろうな」 今あることは疑問しかないが、何となく、すぐに解決できるような予感がした。 周囲を見渡しても、何かあるわけではない。 いや…何も無いからこそ、おかしかった。 俺が今まで居た場所はビルがあり、車があり、無意味に多い人々が辺りを歩き回っている。 そんな場所だったはずだ。 ところが、ここはどうだろう? まるでどこかの片田舎のように、山に囲まれて、川があり、見たことのない自然が 繁栄している。 「…何だ、あれは?」 もう、驚きたくもなかった。 遠くを、見たことのない生物が飛んでいた。 生物というよりは、妖怪といった感じだが。 再び周囲を見回してみると、赤い鳥居に目が行った。 …どうやらここは、一応神社らしい。 「はぁ…」 神社の境内に回ってみると、縁側でお茶を飲む巫女が居た。 その巫女装束は、普通の神社とはまた違うものだった。 「すいません」 「はい?」 思い切って訪ねることにした。 ここが何処なのか、何故俺はここに居るのか。 他にも色々。 まぁ一人の巫女にわかるようなら苦労はないんだけど…。 「ここは、どこですか?」 「あぁ、あなた迷い人ね? ここは幻想郷の博麗神社」 いきなり訳の分からない単語を言われた。幻想郷?博麗神社? 「あんたは…?」 「私は博麗神社の巫女、博麗霊夢」 霊夢、その言葉に奇妙な感じを覚える。 「まぁ、迷い人なら、ここから外に出せばいいのよね。結界の修復は面倒だけど 仕方ないか」 呆れ気味に言う巫女――霊夢は俺の手を取ろうとしたが、俺は無意識の内に 手を引っ込めていた。 「…どうしたの?」 「あ、いや…」 そうだ。 俺は逃げていたんだ。 だから、誰の目の当たらなそうな場所に居るしかない。 ここは、そういう意味でも絶好の逃げ場所だろう。 「…とまぁ、そういう訳なんだけど、分かった?」 俺は一通りこの幻想郷についての説明を受けていた。 ここは隔離した世界とでも言うらしい。 妖怪が居る世界という説明で何となく納得できた。 「一つ質問があるんだけど」 「なに?」 「俺がここから出て行ったら、もうここには来れないのか?」 「結界の修復をするしねぇ、無理とは言わないけど、難しくなると思うわ」 …嫌だな。 せっかく、見つけたんだ。あんな世界には戻りたくない。 虚構に彩られた世界。 何が正しくて、何が正しくないのか、そんな曖昧な世界には…戻りたくない。 それに…彼女――霊夢の事も妙に気になっていた。 何故気になるのかも分からない。しかし、気になるのだ。 「あー、倉庫でよければ貸すけど?」 「あぁ、借りるよ」 ここに知り合いなんて居るはずもない。 塒があるだけでもありがたい。 今の俺には、ここを調べるという事だけが、一番重要なことだった。 人間の手が入っていない、素晴らしくも物足りない世界。 方向感覚にだけは自信があるので、夜まで俺は歩き続ける事にした。 霊夢は変な奴だ。 …変な奴とまで言うと語弊があるが、ともかく俺のであった人間の中では 比較的変わった奴の部類に入る。 だが、どことなく懐かしい気がするのも事実だ。 もしかしたら、何処かで会ったのかもしれない。 「それはないな…」 霊夢はこの幻想郷に居るのだ。 彼女が向こうに行ったなんてことはありえない。 「あら、それはどうかしら?」 夕闇に染まり始めた時、その声は響いた。 目の前に現れたのは、一人の女性。 傘を手に持つ姿は、一見して見惚れるくらい美しかった。 だがその女性が放っている奇妙な空気、とでも呼ぶべきか それだけは人間にあるまじき気配だった。 「もしかしたら会った事があるのかもしれないし、ないのかもしれない」 「いつの間に…それよりも…どういうことだ!?」 「まぁそんな事はどうでもいいわ。あなたは気付いていない」 俺が…一体何に気付いていないと言うんだ? 女性は軽く頭を振ると、俺に向かって微笑する。 「輪廻する想いは別れ、巡り、そして再び出会うの…霊夢とあなたもそんな 切れることのない縁で結ばれている」 「あんたは…一体何なんだ?」 問いに対して、女性は何も答えない。 漆黒に彩られた夜が降りて、森に住まう妖怪達がざわめき立つ。 「…いない?」 ほんの少し目を逸らした隙に、女性は居なくなっていた。 彼女は…一体何者なんだろう? 「あぁ、それ紫よ」 「…紫?」 霊夢の話によると、強力な妖怪らしい。 普段からあんな風に掴み所がなく、言う事が大体、胡散臭いらしい。 「真に受けちゃダメよ」 「…あぁ」 もっとも、あまり意味が分からなかったけど… その日、倉庫で見た夢は暗い夢だった。 一人の男が居る、女性が居る。 感覚的に何故かはっきりと分かる。 あの男は…恐らく『俺』で女性の方はきっと『霊夢』なんだと。 『もうすぐ、お別れね』 『そうなるな。…お前は一緒に来ないのか?』 『私には…幻想郷に居るっていう義務があるから』 そんな義務…捨ててしまえ。 男は人間の住まう世界に帰らなければならなかった。 最愛の博麗の巫女を置いて。 『だが、再び会える日がくる』 『それは何時かしらね?』 『例え、俺が死んだとしても、お前とは…必ず会える…再び…会える事を ――俺は願う』 ブツン まるで、出来の悪い映像が切れたような音が鳴った。 起きてみると、寝汗しかかいていない。 今のは、きっと前世の記憶とかいう感じの夢だろう。 まだ日も出ているわけではない。 頭が痛い。 魂から沸き起こるような奇妙な想い。 前世の俺が叶えることができなかった博麗の巫女への想い。 「…しょうがないな。伝えてやるよ」 まだ寝かけている頭を無理に覚醒させながら、俺は起き上がり 現在の博麗の巫女の元へ向かった。 「…起きているか?博麗の巫女」 境内の方にに向かってみると月下に佇む一人の巫女が居た。 その雰囲気は日の出ていた時の霊夢とは、また違った雰囲気をもっていた。 『待っていたわ』 はっきりと夜に響く声で彼女は言った。 「…伝えなければならないことがある」 俺の言葉じゃない。 『あの男』の言葉だ。何が起きても、もう不思議とは思えない。 今はただ、『この男』に『俺』という器を貸してやるということだけだ。 『私も伝えなければならないことがある』 「それは互いに奇遇だな」 本当はわかっているのだろう。 不敵な笑みが自然とこぼれる。 『会って言わなければならなかった』 「…俺もだ。だが、生きて会うことは出来なかった」 だから、輪廻なんていうものに頼ってしまった。 会える保障なんてないはずなのに、それに頼る。 それだけの想いが…あったのだろう。 博麗の巫女はくすくすと笑いながら、呟く。 『会えて、良かった』 「また…共に――」 自然と抱き合うような形になっていた。 彼女の想いと、温もりが俺の方にも感覚的に伝わってくる。 すぅっ、と体が一瞬だけ、軽くなった。 「…で、離れないの?」 「気付いてたなら、言えば良いだろ」 『男』と『博麗の巫女』の想いが離れて行っても、俺達は 抱き合ったままだった。 もしかしたら、こういうのが自然だったのかもしれない。 「…薄々とは気付いてたの。色々とね」 「俺は、夢に見て気付いた」 「輪廻してからの、この想いも…未だあなたに向けられているのね」 「それは、俺が想われているって事か?」 霊夢は顔を赤くしながら、黙ってそっぽを向く。 月光に照らされた顔は、夢に見たものとも、先ほどの彼女の顔とも 違っていた。 「…仲良いじゃない」 「「うわっ!?」」 急にかけられた声に俺達は一瞬で離れた。 妖怪さん――八雲紫が何処からともなく現れたのだ。 「あんた、一体どこから来るのよ!」 「そこの異次元から」 霊夢の言葉にあっけらかんと答える紫さん。 「まぁ、一部始終は見させてもらったわ」 「…紫、もしかしてあんた知ってたの?」 「知らなかったら、そこの子に教えないわよ」 そう言って俺を指差す。 どうやら、最初からお見通しだったというわけらしい。 俺が輪廻した者だという事。博麗の巫女の想いを受け取るべき 存在を、身に宿す者という事を。 「ま、とりあえず、一件落着でしょう。貴方達、この際だから許嫁にでもなったら?」 「許嫁!?」 「って、何でそこまで話が飛躍するの!?」 「言ったでしょう。想いは別れ、巡り…そして再び出会う。 別れる事となって後悔したくないなら、早い内にくっついた方がいいのよ」 確かに正論ではある。 だが、それはお互い想い合っていればの話だ。 今日出会ったばかりの俺と霊夢に言うのは無理がある。 「…別に、いいんだけど」 「は?」 俺は耳を疑った。霊夢がそんなことを? 「博麗の巫女の想いは…未だ残っているの。あなたを想う気持ちが…」 それはつまり… 「あら、貴方は感じないのかしら?あの男が残した『想い』を」 …目を閉じると、暗闇の向こうに、一人の少女が立っていた。 俺は、彼女――霊夢が愛しいと想う。 出会った時や時間なんて関係ないものだ。 前世の『俺』が言う。 「あぁ…俺って、霊夢が好きなのか」 過去の二人が巡った時間、それを俺達は引き継いだ。 互いをこんなにも想っている。 「…一応、前世の想いなんてのがあるけどさ… 俺はお前が好きだ」 月光に照らされる少女の髪が、ふわりと揺れた。 後書きという遺書。 訳ワカメでした。 ノリに任せて書いていたら、いつの間にか妖精さんが書いてくれました。 冗談ですが。 えっと、前世ネタなんで、感覚で愛を感じろ…でしょうか? ギャグは一切無しで頑張ったんですけどね… とりあえず、リクエストしてくれた方には本気で申し訳ないくらいです。 この場で、588の方に全力で謝罪しておきます。 ごめんなさい。俺はあんたの期待を裏切った。 …いや、期待されていないかもしれませんが。 ひとまず、期待してくれた方には感謝を、そして俺は地獄行く。 1スレ目 640 ─────────────────────────────────────────────────────────── 降り始めた雪は、朝になる頃には一面の雪景色を予感させた 「ご馳走様。…随分暖かくなった」 「こういう日はこれが一番よ」 霊夢が作ってくれた夕食は、野菜を煮た汁に酒粕を溶いたものだった 「ふー。腹一杯だ…」 「寒いからって食べ過ぎじゃないの」 「腹ごなしでもすっか。外行こうぜ」 「…はぁ?」 雪で白みつつある神社の階段を静かに降りる 身を切るような寒さだが、冬の冷たい空気は何とも心地よい 「なぁ霊夢、冬の夜って特別な気がしないか?」 「寒いから嫌よ」 . . .... .. Λ_Λ . . . . / 彡ミ゛ヽ;)ー、 . . . / / ヽ、ヽ、 i . . . . / /;; 弾 ヽ ヽ l . . . .  ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ 終わっちゃうだろそれじゃ… き、気を取り直して続きだ 冬の夜が好きだと、霊夢に話してみるが上手く表現出来ないものだ 霊夢はマフラーで口を覆い、更に両手で抑える 俺との身長差から、上目遣いになる。なんとも言えず可愛い 「あなた、私には見えない何かが見えてるのかしら」 「そうか?」 「でもわかるわ。特別に感じる季節があるのは自然の事よね」 少しの間、沈黙が続く 「実は、この散歩は口実に過ぎなかったんだ」 「え…?」霊夢は訝しげにこちらを見る 今日という日を選んだのも、冬が特別なものなのだから 霊夢の肩を引き寄せ、背中に腕を回し、その小さな身体を抱いた 「あ……」驚いたようだが、抵抗は無い 「好きだよ、霊夢…」 返答は無かったが、霊夢も腕を背中に回してくる。 それだけで十分すぎる返事だ 例え言葉が無くても、受け入れられたという満足感で旨が一杯になる 寒さで乾いた唇を湿らせ、優しくゆっくりと唇を重ねる 彼女の小さな唇も乾いてはいなかった びょう、と風が吹くと互いを抱く力は強くなった。寒いはずなのにかえって暖かい 冷たい空気も、降りしきる雪も、今では心地よい祝福の言葉 1スレ目 856 備考:絵板2342の霊夢かわいいよ! ─────────────────────────────────────────────────────────── 「お待たせ。もう準備は済んだのかしら?」 ぽっかりと空間に穴が空き、スキマ妖怪こと─八雲紫がにゅっと顔を出す。全く心臓に悪いものだ 俺が幻想郷を去るにあたり、外界との境を隔てている結界の破壊や修復が可能な彼女の力は必要不可欠だ 「ああ、全部済んでいる」 「最後にもう一度だけ…後悔しないわね?」紫はじっと俺の方を見る 「ああ」一瞬だけ、俺の心に何かが引っかかるような感じがした 「…そう。わかったわ」 最後の決断。もう後戻りはできない その時、霊夢が何かを抱えながら廊下を歩いてきた 「…これ、後で食べて」 霊夢が差し出したのはどう見ても弁当らしき代物。 「…人里までどれぐらいあるのかわからないし、途中で疲れても知らないわよ」 「霊夢…」霊夢の心づかいに、ドキっと心臓が鳴る ──この世界に流れ着き、いきなり妖怪に襲撃を受けた時も ──大怪我をした俺に、神社の部屋を貸してくれたのも ──怪我が治るまで何もすることが出来ない俺の面倒を見てくれたのも 楽園の素敵な巫女こと博麗霊夢。彼女はいつだって、俺のそばにいた… そして俺は、何一つ報いることが出来無かった 「本当に俺…何て言ったらいいか」 「…何回言わせるのかしら。私のことなんて気にしなくていいの」少々素っ気無い返事 「本当に…ありがとう。霊夢」霊夢に向かって深く頭を下げる。この程度の礼もできないようでは恥としかいいようがない 「…ううん、どういたしまして」霊夢は小さく頷いた 「元気でね」 「君こそ」 別れの挨拶としては、余りにも簡単なものだった (…霊夢) (何よ) (いつものあなたはどこに行っちゃったのかしら?) (…) (あなたはいつだって、思い立てばすぐに行動してたのに) (…これは私の都合だけじゃないでしょ) (夢と伝統を保守する巫女。あなたはいつだって正しいのだから) (…) (…ありがと、紫) 神社の鳥居をくぐると、奇妙な感覚が俺を包んだ。これが結界を抜けるといことなのだろうか 後は振り返らずに、俺はどんどん歩みを進める。 辺鄙な山奥とはいえ、ここは元の世界なのだ。もう振り向いたって仕方が無い 「…待って」少しだけ聞こえた、聞こえるはずの無い声 俺は驚き、思わず後ろを振り返る 「…霊夢! どうして」 霊夢は何も言わずに、俺に抱きついてくる 突然のことで思わずもんどりうって盛大に尻餅をつく 霊夢は俺に覆い被さるようにしたまま、顔を近づけると唇を重ねてきた その時見てしまった。霊夢の頬が涙で濡れているのを─ 「私…あなたと一緒に…いたい…」泣き声になりながらも、はっきりと告げてくる 「引き止めちゃ…いけないのに…でも…好きなの…離れたく…ないの」 俺は立ち上がると、霊夢の細い身体をしっかりと抱く。今度は俺から優しくキスをする 「戻ろうか」 霊夢はこくりと頷いた 夢と伝統を保守する巫女は、伝統を捨てて夢を追った 夢を捨てかけた俺は、現実を捨てて夢を取り戻した これからは、どんな夢が待っているのだろうか 人は、夢を見ることができる。夢を手に入れることもできる 最早恋と言う夢では無く、愛という現実のものなのだ 1スレ目 896 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「霊夢、君の心を俺という金で売ってくれないか?」 2スレ目 8 ─────────────────────────────────────────────────────────── 俺「あー……熱いお茶がしみるなあ」 霊「んー……熱いお茶がしみるわね」 ずず……。 俺「なあ」 霊「なに」 ずずず。 俺「結婚してくれ」 霊「ああいいわよ」 ずずずず……。 俺「そっか。んじゃそういうことで」 霊「ん。 ……お煎餅、食べる?」 俺「貰う」 霊「ほら。口開けなさい」 俺「あーん?」 ぱりっ。 霊「湿気てない?」 俺「お前のお肌くらいには張りがあるよ」 霊「そ。私も食べよ」 俺「食え食え」 ぱりぱり。 霊「……んー。これからもよろしくね」 俺「……んー? ああ。よろしくな」 霊夢はこれくらいまったりと適当にするのが似合うと思った、晩秋の日。 あ、石投げないで! 2スレ目 17 ─────────────────────────────────────────────────────────── 珍しく紫さんが神社に遊びにきた。 紫さんはおそらく幻想郷一なんじゃないかと思うほど美しい。 その美しさについ見とれてしまう。ドカッ そのたびに霊夢にぶん殴られるが、それでも(ドスッ 結局その日は10回くらい殴られてしまった。 ・・・全く、橙と遊んでやってるときも殴ってくるから教育に悪いんじゃないかと思ってしまうが。 (「おねぇちゃん、○○痛そうだよ?」「橙、気にしなくてもいいのようふふ」「ヒィィ」) 紫さんが帰った後、二人で石段に腰掛ける。これもいつものことだ。 「ねぇ」 「ん?」 「私のこと、本当に好きなの?」 「ああ」 「貴方の紫に対する視線からすると、どうもそのようには見えないけど」 「いや、あれは違うんだ・・・。美しいものにはつい目が逝ってしまうんだ。だから、sの、あれd 「結局、紫の方がいいんでしょ?」 「いや、俺は霊夢、お前が好きだぜ」 「信用しにくいんだけど」 「いいか、紫さんなんてな、ただ美人なだけなんだ。 内面は腹黒いし、式をこき使う冷酷な奴だし、 年増だし、無駄に睡眠取ってるし、足は臭いし・・・(やべ言い過ぎt(ry 「そうなの?」 「そうさ。お前の方が良いに決まってる」 「本当に本当なの?」 「ああ」 「良かった~。」 そういうと霊夢は俺に抱きついてきた。 よし、今だ、この際にキスを・・・。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・ |┃三 , -.―――--.、 |┃三 ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ |┃ .i;} "ミ;;;; } |┃ |} ,,..、_、 , _,,,..|;;; | |┃ ≡ |} ,_tュ,〈 ヒ tュ_ i;;;;| |┃ | ー | ` - ト { |┃ .「| イ_i _ 、 }〉} _________ |┃三 `{| _;;iill|||;|||llii;;, 、 .!- /話は聞かせてもらったぞ! |┃ | = " | <貴様ら二人ともスキマ送りだ! |┃ i゙ 、_ ゙,,, ,, { \ |┃ 丿\  ̄ ̄ _,,-"ヽ \ |┃ ≡ " ̄ヽ \、_;;,..-" _ ,i`ー-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |┃ ヽ、oヽ/ \ /o/ | ちょちょちょ、ま、待て、やめ、助けt、うぎゃぁぁぁぁぁぁっぁ --- [[ 博麗霊夢と○○、八雲紫に宣戦布告 ]] ――スキマ妖怪、二人に過酷な報復措置―― (3面に関連記事) ○日、博麗霊夢と○○はスキマ妖怪の八雲紫に対し、宣戦布告を行った。 八雲紫は式を伴って博麗神社を訪れ、博麗霊夢、○○と遊んでいたが、 夕方、帰った後に事件は発生した模様。 八雲紫は変える振りをして二人の様子を探っていたが、 ○○と巫女はそれに気づかず雑談を始め、 逆鱗に触れるようなことを逝ってしまったらしい。 その内容は具体的には「足が臭い」とか「足が臭い」とか「足が臭い」といった 八雲紫に対する悪口が主である。 このスキマ妖怪の足が臭いのは周知の事実であるが、 事実であるがゆえに逆鱗に触れた模様だ。 マヨヒガ在住のRさんは「足が臭くて臭くて・・・。とても寝れたもんではない。 私だけなら我慢するが、橙の教育に悪いのではないかと思っている」と語る。 重ねて言うが、このスキマ妖怪の足が臭いのは周知の事実である。 が、タブーであるようだ。 実際のところ、これを書いている筆者の背後にも殺意が感じらr・・・ 「文。」ビクッ 「あなたもスキマ送りにした方がよさそうね。事実なら書いてもいいって訳ではないのよ」 ひぇぇぇぇぇ --- ゆかりん☆しんぶん [[ 危険分子を派手に始末 ]] ――ゆかりん、スキマ送りの刑で秩序の回復を検討―― 次の日、配られたのはそんな見出しの新聞だった。 ----------------------------------- あとがき ----------------------------------- いつもはプロポスレを読むだけで楽しんでいたのですが、 妄想は止められず、今回初めてSSを書いてみました。 始めは、 霊夢との愛を確認→その際に紫を悪く言ってしまい、スキマ送り という感じで書くつもりでいたのですが、 次第に尾ひれがつき、結局訳の分からん話になってしまいました。 書きたいものを書きたいように書くというのは難しいと改めて実感。 人に見せられるレベルのSSを書けるようになるまでは精進あるのみですね。 つまらない物でしたが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。 2スレ目 65 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霊夢の上手な口説き方 まず、札束を二組用意する。 金額は多いほど、成功率が高いぞ。 次に、いつものように掃除を怠けている霊夢が挨拶してくる前に、その札束を見せる。 呆然としている霊夢の前を悠々と歩き、素敵なお賽銭箱の前へ。 「こっちの札束は、賽銭だ」 そういいながら、片方の札束をお賽銭箱へ投下。 札束は吸い込まれるようにお賽銭箱の中へ。 そして、そのまま霊夢の元へ行き、彼女の目を見つめる。 「そして、こっちは俺と霊夢の結婚資金だ」 こうして、感極まった霊夢が抱きついてきたらプロポーズ成功。 夢想封印が飛んできたら失p(夢想封印 2スレ目 502 ─────────────────────────────────────────────────────────── 今日もここ博麗神社では何時ものように宴会が繰り広げられていた。 夕日が己が赤で境内を染めていたころ開かれていたこの会も、今では満月が幻想郷全体を照らすがごとく、天蓋の頂点に位置している。 「―…綺麗ね」 「ん?」 騒ぐ皆を尻目にポツリと零すように、僕の傍らで座っている霊夢は呟いた。 彼女が指しているのが月の光眩い夜空か、 それとも、囲炉裏の火が本日の宴会の客人たちをまるで影絵のように照らしている様なのかは僕には解らない。 「今日、みんなに私達のことを全部話すのね…」 僕と霊夢が宴会に直接参加していないで、片隅で寄せ合って座っているのは、 今日の宴会の真の目的たる、ここに居る全員に二人の関係を告白する為の心の準備でもあったから。 すると、霊夢は僕に身を預けてきたので、手をぎゅっと握り締めてあげたら、 彼女は全信頼を預けるかのように身を完全にもたらせてくれた。 「…もう少し……このまま…ね?」 言った彼女の表情までは見て取れなかったが、その声には若干の怯えが在ったのかも知れない。 博麗の巫女を奪うことが幻想郷のバランスをいかほど崩すかは僕の知り得た事ではないけれど、 胸の中の愛しい人を守るためなら、僕はこの命までも投げ出そうと心に誓った。 2スレ目 811 ─────────────────────────────────────────────────────────── 散歩から戻ってきた俺を待っていたのは、目に涙を浮かべた霊夢だった。 彼女の手には、ぼろいルーズリーフのノート。 「霊……夢?」 縁側に座って俯いていた彼女は、俺の方を向いた。 「ごめん……この日記、読んだ」 突然この幻想郷に迷い込み、妖怪に襲われて死にかけていた、 そんな俺を助けてくれたのが霊夢だった。 それだけでなく、元の世界に戻れるまでこの博麗神社に泊めてくれている。 霊夢には、どれだけ感謝してもお礼をしても足りない。 元々武術も習っていないし運動音痴な俺に、 この幻想郷で出来る事は少なかった。 掃除や洗濯等の家事を手伝っているが、 それでも一日の大半は時間を持て余していた。 そんな日常の中で、数少ない楽しみが日記だった。 (見た限り)平和な日々の中の、些細な変化を書き留めるのが楽しかった。 白黒の魔砲使いとの会話。 時々天狗の娘が運んでくる新聞。 幻想郷で迎えた新年。 毎日の出来事を、事細かに書き記していた。 そんな日記が、毎日内容が同じようなものになっている。 霊夢。 俺の命の恩人。 いつからか、俺は彼女に恋心を覚えていた。 日々募る彼女への想い。 今では、寝ても醒めても彼女の事が頭から離れなかった。 そして、日記もここ1、2週間は彼女一色だった。 「えっと……もしかして全部?」 こくりと頷く霊夢。 昨日の夕方に書いた日記。 告白の台詞の候補を書き連ね、 あれがいいこれがいいと考えを巡らせ、 いつ告白したらいいかと考え、 そんな事をしているうちに日が暮れて。 そんな内容の日記。 そこまでも全部、霊夢に読まれてしまった。 独り言だからこそ成り立っていた日記。 それを全部、盗み聞きされてしまい。 ――王様の耳はロバの耳―― 「……私の事、あんな風に思ってくれてたんだ」 霊夢が若干上ずった声で言う。 ――ロバの耳の王様は、 最後には笑われる覚悟で耳を民に晒した―― 「今更遠回しな台詞なんてもういいな。 霊夢…………君が好きだ」 ――しかし、民は王様を笑う事無く―― 「元の世界に……戻りたくないの?」 「それは、多少は戻りたいとは思う。 突然いなくなって、親も心配してるだろうし。 でも、今は君が何より大事だ」 ――逆に、勇気を出して欠点を打ち明けた王様を称えた―― 「……あなたって、本当に親不孝者ね。 でも、あなたに好きって言われて……嬉しかった」 霊夢の目から涙が零れ落ちる。 「春になったら、元の世界に戻りなさい。 親を悲しませたら、駄目。 ……でも、必ず戻ってきて」 「わかった、ありがとう……霊夢」 俺は、霊夢を強く抱きしめた―― 霊夢に告白してから数週間。 春妖精が遠くの空を飛び回っている。 今日、俺は元の世界に戻る。 目の前には、スキマ妖怪の紫と、顔を伏せた霊夢がいる。 「それじゃ、元の世界への道を開くわ」 そう言って紫は目の前の空間に裂け目を作った。 「……………………」 霊夢は俯いて黙ったままだ。 「それじゃ……また」 俺は霊夢の前に立って、静かに言う。 すると、霊夢は顔を上げて俺の方を向き、 ちゅっ 「……………………」 「早く…………戻ってきてよ」 「……わかった」 そして、俺は空間の裂け目へと入っていった…… 「ふふっ、お熱いこと」 その様子を、横から紫が微笑みながら見ていた。 彼が自分の世界へ戻ってから、丁度5年。 今日は、いつもの春と何か違う。 おそらく、きっと―――― 「ただいま」 声の方を向くと、そこには私の望んだ人がいた。 「遅いわよ」 終わり ――後書き―― えー、初SSです。 思いついたままに書いたら、こんな感じになりました。 話の展開が出鱈目だし。 持ち出した設定、全部使えてないし。 えーと、お目汚し失礼しました。 111 ─────────────────────────────────────────────────────────── 夜の博霊神社。 今日は宴会も開かれないと言う事で、彼と霊夢は早めに夕食を済ませ ちゃぶ台で向かい合って食後のお茶を飲んでいた。 「ねえ、○○」 「んー?」 のほほんとした感じで応える彼。 「アレ、して欲しいんだけど…」 そう彼に言う霊夢の声は、普段の彼女とは思えないような、恥じらいを含んでいた。 「えぇ? 一昨日したばっかじゃん」 「だって凄く気持ちよかったし…。お願い、ね?」 「ウム、他ならぬ霊夢の頼みとあっちゃ仕方ないな」 (きっ…、きたきたきたぁ――――ッ!!) 霊夢達の居る部屋の壁一枚向こうで、幻想の突撃取材班・射命丸 文は 心の中で雄叫びを上げつつ、Yes!! Yes!! と言わんばかりに 無言でガッツポーズを繰り返していた。 (霊夢さんとこに彼が転がりこんで一ヶ月、そろそろ何か進展があるんじゃないかと踏んでいましたが…) そう、文は今夜霊夢と彼が二人きりになるのを見越し、張り込み取材を敢行したのだ。 (まさかドンピシャとは…! これは是が非でも明日の一面にさせてもらいますよ!) 鼻息も荒く、文は再び壁に耳を近づけた… 「ん…じゃあ、お願いね」 「了解」 「ねえ、私の…汚くない?」 「大丈夫、綺麗だよ」 「んっ…」 「やっ、くすぐったいっ」 「ほら、もっと力抜いて…」 「んっ! お願い…もっと…奥まで…っ!」 「ってこんな記事が書けますかーーっ!!」 壁一枚向こうで繰り広げられる幻想郷に、完全に平静を失った文が ばーん!と襖を開け放ち乱入すると、そこには 「…」 「…。」 彼と、彼の膝枕で耳掃除をしてもらっている霊夢がいた。 「あんた、何してるの?」 「ていうか鼻血出てるぞ」 「えーと… ドウモー 文々。新聞でしたー これからも御ひいきにー」 搾り出す様にそれだけ言うと、文は天狗の鼻よりも赤い顔をして全速離脱していった…。 「何あれ…勧誘?」 「でもあいつ、普段から此処にも新聞届けに来てるだろ」 「まあいいわ…それより続き、お願いね?」 「ああ。奥のがまだ取れてないからな」 131 ─────────────────────────────────────────────────────────── 彼女はちょっと変わった女の子だった。 いつも率先して事件を追って、彼女は事件を解決する為に奔走する。 初めてそれを見たのは、割と最近のことだ。 彼女は花に包まれていた。 正確にはここ、幻想郷が花に包まれると言う事件が起きた。 その時に、ちょうど彼女を知ったのだ。 人里の人間で、彼女を知らない者は居ない。 彼女は巫女である。 既に妖怪と戯れていると噂される、あの巫女である。 何故、既に神社は妖怪の手に落ちたと考えるものばかりなのだろう? 巫女の――友達と言う事を考える者は誰も居ないようだ。 いや、恐らく分かっていて、それを否定しているのだ。 「…慧音様」 無理は承知で、ここの里を守護する慧音様に会いに来た。 彼女と面識がある慧音様ならば、なぜ彼女が妖怪と一緒にいるのか、 ということを知っているのかもしれない。 「博麗の巫女の事か?」 「えぇ」 「物好きだな…。この里であの巫女に興味を持つものが居るなんて 思ってもいなかった」 呆れ気味に慧音様はつぶやくが、どことなく嬉しそうにも感じられた。 そう、例えるなら…失ったものを再び見つけた子供のように。 「…博麗の巫女は自分で好きに妖怪を呼び出している訳ではない。 そうだな、言うなれば引き寄せてしまうのだ」 引き寄せる? つまり彼女のもとには自然と妖怪が集まってしまうと言う事か。 「異変を解決するたびに、妖怪が増えるのも考えものだがな」 慧音様の苦笑は、ある意味で現実的な気がした。 異変が解決するたびに妖怪が増えると言うことは、やはり 神社は妖怪の手にあるようなものだ。 「…ところで、何故巫女のことなど聞こうと思った?」 それは…自分でも分からない。 「…分かりません」 「そうか」 おかしそうに笑う慧音様に何となく腹がたった。 「博麗神社に行って直接、彼女を見てみればいい」 そう言って、送り出していった。 ほとんど着の身着のままで博麗神社に向かう。 途中、妖怪に襲われるも何とか逃げ切った。 所詮妖怪相手に、人間が勝てる訳が無い。 逆に勝てる人間の方が珍しいくらいなのだ。普通なら。 とにかく妖怪から逃げ切ると、神社へと続く階段がようやく見えてきた。 本当に長い階段を上りきると、そこに居たのは二人の少女。 片方は誰もが見たことのある巫女、そしてもう片方は見たことの無い 白黒の魔法使いだった。 「おい、参拝客みたいだぜ」 「ん?参拝する人が居るなんて珍しいわね」 巫女がそれでどうする? という言葉を辛うじて飲み込み、真っ向から彼女を見る。 間違いなく、幻想郷の異変の際に、見かけた紅白の巫女。 博麗…考えてみれば名前は知らなかった。 博麗の巫女の肩書きだけで、名前を呼ぶ人なんて里には居はしなかった。 「いらっしゃい、素敵なお賽銭箱はそこよ」 「あぁ…いや、僕は――」 「ふぅん、どうやら珍しくこの神社に参拝客じゃないみたいだな」 その様子を見てか、白黒の魔法使いが笑いながら物珍しそうに 僕を見る。 「まぁ、博麗の巫女を見に来ただけだし」 「私?」 「見事に見世物入りだぜ。良かったな霊夢」 「嬉しくない」 白黒の反応に、博麗の巫女が返す。 何となく微笑ましいやり取りだった。 「後は慧音様からの預かり物を届けに」 これは本当だ。 『博麗の巫女に会いに行くならばついでに、この手紙を渡しておいてくれ』 と言われたのだ。 何が書いてあるかは、僕も知らない。 「人里の人間だったんだ。とりあえず、ありがとう」 手紙を渡すと、隣に居た白黒もその手紙を覗き込む。 「ふむふむ」 さほど重要ではないのか、博麗の巫女は流し読みをしている。 「へぇ、お仕事ってわけか」 少年のような笑みを浮かべて、白黒が僕を見る。 「ちょっと待ってて、返事くらい書くから」 これでは文通だ。 いや、それで間違っていないのか? 慧音様の手紙を、僕が渡して、その返事を博麗の巫女が書いて、僕が渡す。 うん、これは体よい運搬係だ。 「終わり。じゃ、これ慧音に届けておいて」 「あぁ」 その手紙を受け取る際、彼女の手が触れた。 暖かい。人里では『妖怪と関わる巫女の考えは知れない。きっと身も妖怪だろう』 と身も蓋もないことを子供達に教えていたが、それはどうなんだろう? 「あぁ、日が暮れてきたわね。魔理沙、彼をちょっと送ってあげて」 「面倒くさいぜ」 「いや、そんなハッキリと言われても…僕も困るんだけど」 「大体、霊夢が送っていけばいいじゃないか。私にその役目を押し付けるのは どうかと思うぜ?」 「いや、まぁ…僕のことは気にしないでくれ。今の時間帯なら、運が悪くない限りは 妖怪に出会うことも無いと思う」 時刻的には今は夕方、急いで走れば夜中ギリギリには何とか人里まで戻れるだろう。 「仕方ないわね。ほら、お札一枚あげるから、これでどうにかしなさい」 本当に一枚だけお札を渡された。 それでも、その一枚のお札が、頼もしく見えるのは気のせいではない。 相当な霊力が、この一枚のお札に詰められている。 下手をすると、これをぶつけて霊力を弾けさせれば、人間にも効果があるのかもしれない。 「それじゃ、確かに受け取ったよ」 手紙とお札を持って、僕は博麗神社を振り返る。 やっぱり博麗の巫女はちょっと変わっていたが、人里の皆が 思っているような冷たい人物でもなかった。 「…手は暖かいし、やっぱり人間だよな」 改めてそれを確認した。 それよりも慧音様に早いところ、この手紙を届けに行かなければ。 せっかく急いだ意味が無い。 「…あぁ、ちゃんと届けてくれてありがとう」 「いいえ、普段から守って頂いているお礼だと思えば安い物です」 結局、受け取ったお札は使う事無く里まで辿り着いた。 もっとも使わない状況に越した事はないのだが。 早速手紙を届けに行くと、慧音様はその手紙を読み始める。 重要な事が書いているようでとても熱心に読み進める。 「ふむ…」 「どうかしたんですか?」 「お前も、少し前から畑を荒らす妖怪については聞いているだろう?」 どのくらい前かは忘れたが、そのことは聞いたことがある。 ある日の朝、収穫しようとした農作物が見事に盗まれており、それなりに 危機が起こった事がある。 里の皆や、僕も山狩りを行ったが、成果はゼロ。 いや、負傷者が居るから、言ってみればマイナスである。 死者が出なかったことは幸いだが、危険があることには違いない。 特徴は不明だが、どうやら爪を使って大人達を負傷させたらしい。 一匹で行動しているらしく、外見が狼ということ以外には分からない。 「それについて、一応専門である博麗霊夢に手伝ってもらおうと思ってな」 「なるほど」 妖怪退治は彼女の専門だ。 それに、慧音様が居れば妖怪の退治など容易いに違いない。 「…ところで、お前は博麗の巫女に会ってどう思った?」 「どうって…」 「そうだな。率直な感想で構わない」 率直な感想と問われてパッと出てくるのは… 「人里の人が思っているような人じゃなかった、って事でしょうか」 「そう感じたか…なるほど」 慧音様は考えごとをするように、僕の方と手紙を見直した。 「何か?」 「いや、そうだな。お前に手伝ってもらうのも悪くは無いかもしれない」 「妖怪退治ですか?」 それなら願ってもない。元々、慧音様を手伝うつもりだったし。 何より、博麗の巫女を再び見ることが出来る。 何かを含んだような慧音様の表情が、なぜか気になった。 僕も、まだ彼女の本質を知らなさすぎる。 「期待している。妖怪退治は三日後だ」 「はい!」 僕は礼をしてその場を後にした。 それからの僕の生活は慌しいものだった。 まずは足手まといになる可能性が、高いため自分に合う武器を 見繕い、それを振って感覚を確かめる。 やっぱり、攻撃を重視して斧を持つことに決めた。 「精が出るな」 「あ、はい」 「山狩りは明日の夜だ…。お前の家に博麗の巫女に迎えに来させるから ついてくればいい」 「分かりました」 あの巫女が迎えに来るのか…。 そもそも、僕の家も人里から少しだけ離れた場所にあるから 問題は無いのかもしれない。 きっと、人里に彼女が現れれば奇異の視線で見られることは間違いないからだ。 その日はずっと斧を振り続けた。 きっと筋肉痛になるだろうが、その程度なら、身体を解すだけで、 少しはマシになるはずだ。 次の日の夜。 本当に博麗の巫女が来た。 寒いのかろうが暑かろうが、きっとその巫女服を変える気は無いんだろうな。 と考えながら、僕は彼女の後に続いた。 「あぁ…そうだ。このお札」 三日前に借りたままのお札を返したほうがよかった気がし、彼女にそれを渡す。 「ん…あー、それ返さなくてもいいわ」 それを押し返された。 何でも彼女曰く、これからきっと必要になると言うことだ。 「ちゃんと来たな二人とも」 「そりゃね。魔理沙は来れないって」 「そうか…少しは期待したんだが」 魔理沙とは、確かあの白黒魔法使いのことだったか? 彼女も予定などがあってどうやら来れないようだ。 「それで、山狩りらしいけど。どうするの?」 「二手に分かれた方がいいだろう。私は一人でも問題ない。お前は 霊夢と一緒に組んだ方がいい」 博麗の巫女が山の地理を知っているとは思えない。ならば僕に 案内させた方が少しはマシだと言うことなのだろう。 「それじゃ、よろしく」 「あぁ、よろしく」 博麗の巫女の手に再び触れた。 人間の彼女の手はやはり暖かかった。 松明を片手に歩き回る。 弓を背負い腰に斧と言う重装備に比べて、博麗の巫女は巫女服と 札に針に陰陽玉という至って簡単な装備だった。 まぁ、どれもきっと、僕の振るう武器よりも遥かに威力を持った 装備なのだろうが。 「……」 「……」 会話なんてありはしない。 妖怪が蔓延るこの時間で、騒げば格好の的である。 「居ないな」 「…そうね」 正直、拍子抜けした。 山に居るはずの例の妖怪は、何故か姿を現さなかった。 僕たちはそれでも狼の妖怪を探して歩き回る。 子供の頃から住んでおり、それでもなお、この山の深さは分かりきっていない。 …いや、それなりに働けるようになってからは来てないから、うろ覚えな 部分もあるのか。 「…あ」 ほんの少し昔。 洞穴を見つけたことがあった。確かそこを、子供らしく遊び場にした覚えがある。 そこには―― そう、何か居たはずだが、忘れてしまった。 「どうかしたの?」 「いや…隠れる場所の心当たりが思いついただけ」 「そう、なら多分そこね」 博麗の巫女は疑ってすらいない。 きっと知性は高くないだろうが、雨風防げる巣くらいは作っているだろう。 僕達は、早速その場所に向かう事にした。 「…何があったんだっけ?」 洞穴の前まで到着したが、僕はそこに何が居たのか、全く思い出せないでいた。 とても重要な事だった気がするのだが、記憶に無い。 子供の頃の話だと言えばそれまでだが、喉まで出かかっているのに 思い出せないと逆に気持ち悪い。 まぁ、とにかく妖怪退治だ。 「…ここみたいね」 「うん…」 そこら辺に感じられる妖気のせいで、麻痺してしまいそうだが 間違いなく、ここに居ることは分かる。 そう、言うなれば霧の中で煙を向けられているような感じだ。 肌に纏わりつくような感じと、はっきりとこちらに向けられている 妖気が、間違いなく敵がこちらに気付いている証拠だ。 「…来るわよ」 「…ん」 背の弓を持ち構える。狙いは洞穴の中だ。 恐らく、これを打ち込めば即座に戦いになるだろう。 「…撃って!」 しゅっ 軽い風切り音が鳴り、吸い込まれるように洞穴へと矢が飛んでいく。 二つの開かれた目が、飛び出した。 それは間違いなく、狼の妖怪で、里の人間を傷つけたものだった。 「お出ましね」 札と針を持って博麗の巫女も構える。 「パスウェイジョンニードル!」 針を投げつけ、それは真っ直ぐ妖怪を狙いつける。 だが妖怪はそれを回避しようともせず、その身体で受け止めた。 「…!?」 その異常な様子に気付いたのか、彼女も一旦様子見とばかりに 攻撃の手を休める。 「……」 妖怪は僕たちの方を睨みつけるだけだ。 「どういうことだ?」 「…さぁ、それでも油断はしないように」 彼女の警告を受けながら、何故か、僕はこの妖怪に違和感を感じていた。 無論、この奇怪な行動もだが、どこかで見たことが―― 何となく一本の線で繋がった気がした。 「…博麗の巫女、僕が洞穴に入るから…援護してくれないか?」 「何か分かったの?」 「多分」 確証は無い。それでも少しは『ある事』を期待しているのだ。 「それと悪いけど…あの妖怪を生かしておいてくれないか?」 「難しい注文ね」 「…信じてるから」 多分、彼女なら殺さずに無力化することも無理ではないと信じている。 「それじゃ、始めましょうか」 札を取り出して、投げる体制に入る。 恐らく、あの妖怪は何か守っている。そして、それも博麗の巫女は勘付いているだろう。 「夢想封印――集!」 放った札は、空に舞い大きく螺旋を描き、一つの球体を生み出した。 そして一つが二つに、二つが四つに、四つが――八つに。 そのまま妖怪に向かって、その球体全てが集まってくる。 無茶苦茶だと思いながら、僕も走り出す。 ――やはり居た。 妖怪狼の子供だ。 「…弱ってはいないけど」 眠っているようで手を出しても気付かれていないが こんな環境では弱るのは目に見えていた。 とりあえず抱きかかえて、外に出る。 「やっぱり居たよ!」 彼女の方に大きな声で声をかける。 こちらの方に気付いたのか、警戒したように、妖怪は唸る。 子供を人質に取られた親だ。 警戒するのは無理もない。 「…子供に餌をあげるために、畑を荒らしたってわけ?」 「妖怪は何でも食べるからね」 「はぁ…色んな意味で無駄骨だった気がするわ」 がっくりと肩を落とす。僕は子供を地面に降ろし、手を上げて離れる。 それなりに距離を取ると、妖怪は子供に近づいてきた。 「それで、どうするの?退治する?」 「…いや、これから山の向こうに行くように説得する」 「…相手は妖怪よ?」 「それでも」 あの妖怪は聞いてくれる気がした。昔の事を覚えていれば、だが。 僕が子供の頃に、あの妖怪狼は確かに居た。 僕と同じように子供で、ただの狼だと思って遊んでいた。 大人になってからは来ることはなかったけど。 まさか、妖怪だったとは… 「…はぁ」 その事情を聞いて、博麗の巫女は本当に呆れたようにため息をつく。 「ま、いいわ。それじゃ後は任せるわよ」 と呟きながら、彼女は空へと舞う。 「慧音には事情を言っておきなさいよ」 分かっている。 心配をかけたとは思えないが、一応言っておかなければなるまい。 二日後、僕は再び博麗神社を訪れた。 博麗の巫女に礼を言うためだ。 あの後、朝日が昇るまで説得をして、理解したかどうか知らないが 子供をつれて妖怪は洞穴を離れていった。 畑も荒らされていないようで、ちょっとだけ安心した。 「あら、いらっしゃい」 掃除をしていたのか、巫女は手に箒を持っていた。 「…とりあえず、お礼に来たんだけど」 風呂敷包みを降ろして、中から野菜を取り出す。 「畑は荒らされなかったから、多分もう大丈夫」 「あの妖怪は?」 「どこか別の所に移動したみたいだ。あ、これ慧音様からの礼状」 それを受け取る博麗の巫女は、年相応の表情で満足そうに頷いた。 …それを不覚にも、可愛いと思ってしまった。 「どうかした?」 「や…何でも」 慌ててそっぽを向く。 「それじゃ博麗の巫女、ありがとう」 「あ、待ちなさい」 去ろうとした途端に呼び止められた。 「博麗の巫女って言い方、止めてもらえない?」 「…分かったよ。霊夢」 にこりと笑う。やはり彼女も年相応なのだろう。 そして僕も…どうやら、彼女に好意を持ってしまったらしい。 「それで帰ってきたと?」 神社から帰って報告をすると、慧音様は不服そうに唇を歪める。 「…それ以上に何をしろと?」 「いや、非常に残念だ」 何が残念なのか分からないが、とっても良くない予感がした。 慧音様も、ちょっとだけ変わっているのは、この時解った。 「…こうなれば、全員に招集をかけて…ぶつぶつ…」 なぜか考えごとに突入した。 「それじゃ、失礼します」 僕は礼をして、いつものように去る。 家に帰ってから、畑を見なければならないからだ。 「…様子は良し。あと少しで他のも収穫できそうだ」 霊夢に渡した野菜は、里のみんなのと大半が僕の畑からだ。 別に深い理由は…ないはずだ。霊夢から貰った札を見る。 結局貰ってしまったが、使う機会はほとんどない気がする。 「とりあえず、今日も日課の修行をしよう…」 自分の無力はよく解っている。 だからこそ、資本である身体を鍛える事にした。 そして、その辺りから、唐突に僕の日常は変化した。 なぜか、慧音様が博麗神社への用事を、執拗に僕に言い渡すようになった。 まぁ、それくらいならば問題はないのだが、そのおかげで霊夢と関わっている 人間や妖怪の知り合いが増えた。 霊夢と二人っきりになる機会がなぜか増えた。 嬉しい事は嬉しいのだが、どうしてそう言う時、他の妖怪達が訪れないのかも 疑問になってきた。 「さーて、今日は楽しい宴会よ。あなたも参加するんでしょう?」 楽しいと言っても、彼女の場合、準備片づけを全てこなすのが面倒だ とも言っている。 「…どういう心境の変化?」 「あなたが片付けと準備を手伝ってくれるでしょ?」 いや、確かに手伝うつもりだけど。 「人数結構来るから、大変よねぇ」 「…その分、片付けも準備も時間が掛かる、と」 まぁ、霊夢と居れる時間が増えるのはありがたいと言えばありがたいのか? 彼女は、やっぱり人間である。 あの妖怪を逃がしたように人間味はとてもある。 だが、時々物憂げな表情になるわけも分からない。 「さ、準備しましょう」 お酒、食べ物。準備しなければならないものは沢山だ。 みんな、唐突に現れて唐突に去っていく。 嵐のような集団だった。 無論、嵐なんだから片付けるのも人間だ。 そして、この日僕は初めて片付けと準備の重労働を感じた。 よくも毎回毎回こんな事が出来るな、と半ば感心してしまった。 「お疲れさま」 「あぁ…ありがとう」 お茶を差し出されて、受け取る。 湯気が出るほど熱いお茶だった。 「大変だね。これは」 「分かってくれる?」 「まぁね」 …そこから会話が途切れる。 空に月は浮かび、雲すら出ていない。 見えるのは夜空と、星と満月。 「……」 「……」 息の音が響く。 「…あのさ」 「ん?」 「僕は…霊夢が好きだから」 「…ありがと」 こんな幻想的な雰囲気だから、僕はこういうことが言えたのかもしれない。 「霊夢は――」 「…あなたのこと、嫌いじゃないけどね」 それはイコール、どちらでもないだ。 『む、いけないぞ。○○、押し切らねば』 『霊夢にも春が来たかな…と思ったんだが。これじゃ遅そうだぜ』 『春はとっくに返したでしょう』 『幽々子様、分かってボケているでしょう?』 『いい雰囲気なんですけどねえ…シャッターチャンスがきません…』 「…?」 「どうかした?」 「誰かに見られている気がしただけ…気のせいかしら?」 視線は確かに感じるが、きっと気のせいだろう。 虫とか鳥とか、きっとそのあたりだと思う。 霊夢がすぅーっと息を吸い込む 「…いい?私は博麗の巫女なの…私の子供はこの先、ずっと幻想郷を守らなければならない」 「…だろうね」 「だからこそ、よ」 きっと、強靭な子供が必要となるだろう。だからこそ、貧弱な僕は対象に入らない。 「さ、お話は終わり」 「…それでも、僕は諦め切れない」 僕は…想っている。 「いいんじゃない?」 突然、そんな声が響いた。 「紫!?」 「…どういうことですか?」 現れた妖怪――八雲紫に対して、僕は疑問をぶつける。 本当に、どういうことだろう。 「必要なのは、気持ちでしょう?」 「…あんたが言う台詞じゃないでしょ?」 「あら、これでも人の気持ちくらいは分かりますわ。霊夢の偽りもね」 偽り、その言葉を聞いた途端、霊夢は紫を睨みつけた。 「偽ってないわ」 「恐れているんでしょう?いつか自分が、関係を崩壊させるかもしれないと言う事を」 「恐れてない!」 紫の言葉に霊夢は語気を荒くして、答える。 いや、もう既にそれは叫びだった 「霊夢、僕は…」 「想いが人を強くする…。子供とか、そんなことは関係ないでしょう? 愛しているか、どうか。貴女は…どっち?」 ――霊夢は言葉に詰まる。 「…好きよっ…!好きに決まってるでしょ!」 「なら、よし」 にこりと、不敵な笑みを浮かべて、紫は浮かび上がる。 「ついでに、デバガメをしているのも、暫くスキマ送りにしておくから あとは二人で楽しみなさい」 ふふふ…と怪しい笑い声を浮かべて、境内の裏に向かった。 『ぎぃやぁぁぁぁ!』 そこから、断末魔が聞こえた。 「…ホントにデバガメしてたんだ」 何となく予想はついてたけど。 もしかしたら、僕は最初から彼女に惹かれていたのかもしれない。 「…なに、笑ってるの?」 「いや…一生涯の宝物が…手に入って嬉しいんだ」 僕は、彼女を抱きしめた。 既にお茶は冷たくなっていた。 だけど僕の気持ちは熱く、暖かかった。 後書き ===社会の裏=== 自分の為に長文妄想すると… やっぱり、色々おかしくなるなぁ ===社会の裏ここまで=== この530(仮名)の長文妄想に書ける物などあんまりない! と、まぁ…霊夢ですね。 始めはこんなに変になるなんて思ってなかったんです。 …すいません。お目汚しです。 シリアス文章(?)なんで後書きもあまりネタに走らず… 普通に…終わらせます。 読んでくれた方、ありがとうございました。 142 ─────────────────────────────────────────────────────────── 1日目 気が付けば私は見知らぬ土地に立っていた。 とりあえず近くにあった鰻屋で1杯やることにした。 隣に座っていた女性がいきなり、 「人の話を聞くことが、あなたに積める善行です。私の話しを聞きなさい!」 と言われて説教が始まった。 5時間ほどで女性は満足して帰っていくが…女性は金を払っていなかった。 歌が下手な店主に2人分の金額を請求されるが当然払えるわけでもなく… 『あっUFOだ!』 と指差し、振り向いてる隙に逃げた。 何が悲しくてこんな事をしなければならないのだろう。 2日目 夜の川原を歩いていたところ、触角をつけた少女を発見する。 →つかう →さとうすい →セルフ わたしはぜんしんにさとうすいをかけ、さけんだ! 『おれのむねにとびこんでこい!』 しょうじょはわたしをいちべつすると、 「キモッ」 とびさっていった。 ざんねん!!わたしはきらわれてしまった!! 冷たい水の中で体を洗いながら私は泣いた。 3日目 風邪を引いてしまった私は永遠亭でお世話になった。 薬師の技術に感心しながら内部を散策する。 『せっかくだからこの赤の襖を選ぶぜ!』 開けないように注意された襖を開ける。 「MVPが取れなかったじゃない、あのBOTの所為で…あら……お客様かしら…」 あまりのプレッシャーに私は襖を閉め、自分の愚かさを呪った。 しかし神は私を見捨てた、襖が開き私を中に引きずり込んだ。 単なるNEETとか、カリスマ不足だとか そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしい恐怖の片鱗を味わったぜ・・・ 4日目 森の中にある謎の店に入る。 すると中に居た男が褌一丁で飛びかかってきたので、 『君がッ 泣くまで 殴るのを止めないッ!』 三日分の思いを男にぶつけた。 しばらくすると落ち着いたらしく話を聞くと、 「久しぶりに客が来て、嬉しくなってやった、正直反省している」 その言葉にカッとなった私は地獄突きをかました。 ここは地獄なのだろうか… 5日目 辿り着いた神社で巫女さんにお茶をご馳走になる。 そんなささやかな事で涙した。 「大丈夫?」 『ちょっと辛いことがあって』 「そう、お替り要る?」 『もらえるとありがたい』 安らぎの時間を過ごした。 賽銭を奮発しておいた。 6日目以降 あれから私は神社にお世話になる事にした。 隣にはいつも彼女がいる。 ただそれだけでいい。 賽銭から始まる恋もあるのかもしれないな…… 172 ─────────────────────────────────────────────────────────── 多分ラブラブものってわけではありません。 いろいろ突っ込みどころも多いと思います。 …どうか広い目で。orz 追記:手直ししました。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「でさ、これがその時借りた魔道書なんだよ。なんかいかにもって感じだろ?」 「ああ、だがな魔理沙、何度も言うがお前のそれは借りるんでなく強奪というんだ」 「……」 小春日和の博麗神社。 今日もいつものようにお茶と茶菓子をたかりに来た魔理沙の自慢話を聞かされていた。 「強奪とはひどい言い草だな。ちょっと長期の貸し出しをしてもらってるだけだぜ」 「門番さんから司書(小悪魔)さんから軒並みマスタースパークで吹っ飛ばすののどこが貸し出し手続きなんだよ…」 「……」 俺は一月程前にちょっとした事故でここ幻想郷にやってきた。 昔から霊感があるほうで、霊っぽいものとかをたまに見たりしていたので、状況を受け入れるのは普通の人よりは早かった、らしい。 もっとも、それだけで別に戦闘能力があるわけでも無いから、来てすぐに保護されたのは幸運だったのかな? …そこも妖怪の家だったけど。 「立派な貸し出し手続きだと思うけどな、主には『もう勝手にしなさい』って言われたし」 「閻魔様ー、犯罪者がここにいますよー」 「……」 で、俺がここに来た原因のスキマ妖怪は、なにやら冬眠中だとか(俺の件は寝返りの影響らしい)で、実際に帰れるのは少し先になるらしい。 もうひとつ手が無いではないそうだが、どうも俺がここに来るときにややこしい通り道のあけ方をしたとかで、 微妙にややこしいことになりかねないらしい。そんなに問題のあるやり方だったのか? …まあ、寝ぼけてたそうだしな。 ともあれ、件の妖怪が起きてくるまで、その間の仮宿として、ここ博麗神社があてがわれたのだ。 家主さんには「何で私が」とか当然のごとくいろいろ言われたんだけどね。いかなマヨヒガでもあれだけご同輩がいりゃあそりゃパンクするだろ。 あのときの狐さん(藍さんというらしい)が必死に頭を下げる姿は妙に心に残った。痛々しくて。 「…って言うか、門番って誰だっけ?」 「うわ、覚えてないよこの人! ひど!」 「……」 …そして、そろそろ一ヶ月。 「神社に居候が来た」というので、物見遊山に来た連中がまあたくさん。おかげさまで知り合いも増えた。 仲でも親しくなったのが、今こうしてしゃべっている魔法使いの少女、霧雨 魔理沙と、「香霖堂」という店を営む「香霖」こと、森近 霖之助。そして… 「なあ霊夢、さっきから一っ言も喋らないけど…どうかしたのか?」 「ああ…何つーか、怒ってないか?」 「…別に?」 いや、明らかに怒ってるでしょ、それ。 むすっとしながらそっぽを向いてお茶を飲んでいる少女は博麗 霊夢。 言うまでもなくこの博麗神社の住人にして、俺の「家主」さんだ。 神社で巫女さんをしているらしく、ちょっと見慣れないデザインの巫女服を身にまとい、 迷惑妖怪の退治とか境内の掃除とかお茶の時間とかお茶の時間とかお茶の時間とかしている。…突っ込みはいらんよ? 「…あー、今日はなんだか日が悪いっぽいな、また来る」 「そう? じゃあね」 「おー、またなー」 言いつつ魔理沙は苦笑とともに帽子をかぶりなおし、そのままほうきに乗って飛んでいった。 普通に家に帰るのか、それともどこかで時間をつぶすか…たぶん後者だな。それも図書館。まだ奪い足りないのか、あいつは。 魔理沙はよく神社に遊びに来るので、霖之助さんとは霊夢の買い物の荷物もちで香霖堂に言ったときに知り合い、親しくなった。 魔理沙の第一声、「おーい、霊夢が男連れ込んだってー?」にはびっくりした。まあ速攻で「夢想天生」食らってたけど。五・六回。 …大概タフだな。幻想郷の住人は。 「…でもどうしたんだ今日は?」 「べつに?…ああそうそう、明日霖之助さんの所に行くから、荷物持ちお願いね?」 「ああ…」 またいろいろと「貰い」に行くのか。まあ今は俺もそのお世話になっているから何も言えんが…お金くらいは払おうよ、やっぱり。 霖之助さんは…正直親しみやすかった。客商売というのもあってか、非常に人当たりが良く、また親切にいろいろ教えてくれた。 こっちも「外からの品」とやらの使い方をいくつか解説してあげたりした。最も知ってる人はほかにもいるらしく、ほとんど補足ばっかりだったが。 「さて、少し早いけど夕御飯の支度でもしますか。あ、悪いけど残りの部分の掃除、お願いできる?」 「了解」 で、霊夢は…正直最初は難儀した。 何せいきなり男女二人が一つ屋根の下だ。向こうはどう思っているかはよく分からないが、正直かなり気を使った。居候の身としても。 とはいえ慣れとは怖いもので、一週間もするころには別段普通に接していた。まあ気を使いすぎるよりはいいが。 彼女は彼女でかなり早いうちから慣れてしまっていたらしい。それはそれでどうだろう? 無頓着というかなんと言うか。 台所に消える霊夢の背中を眺めつつ、なんともいえない気分になる。一緒に住むことを認めてくれたのはうれしいんだが、 何かこう、男として見られていないようにも思えて。 「早めに済ませてよー?日が暮れちゃうからー」 「っと、いかんいかん」 台所から聞こえる声で、ボーっとしていた自分が引き戻され、あわてて自分の仕事に移る。 さすがに一ヶ月も手伝っていると、こういうことにも慣れてくる。霊夢ほど上手くは無いが、それでもそれなりに早く、しっかりと境内を掃いて回る。 こういう時間も、お茶を飲んでいるときとはまた違ったまったり感が感じられて、意外にいいものだな。 それから程なくして、言われた分を掃き終えると、霊夢の声が聞こえる。夕飯の時間だ。 ほうきを片付けて食卓に向かうと、霊夢がほかほかの御飯を俺の茶碗によそってくれているところだった。 「はい、どうぞ」 「ありがと。それじゃあ…」 「「いただきます」」 しばし、箸の音だけが響く。 特に会話もなく、季節柄、虫の声もなりを潜め、静かなものではあるが… しかし、まったりとした、暖かな時間が流れる。 食後のお茶を楽しんでいると、ふと、霊夢が口を開く。 「…昼間の事なんだけど…」 「ん?」 霊夢は、どこか申し訳なさそうな顔をしている。昼間というと…魔理沙と話していたときか。 「昼間、私が機嫌を悪くしてるっていってたでしょ」 「ああ、そのことね…どしたん?」 「…正直、自分でも分からないのよ。なにがなんだか」 「?」 「休憩にしてからすぐ、かぎつけたかのように魔理沙が来たじゃない? あれで用意していたお茶菓子とかが足りなくなって、 新しいのをとりにいったんだけど…」 「そのときになにか?」 「ううん、その後。戻ってきたとき」 首を振る霊夢に、首を傾げる俺。あの時は特に何があったってわけでもなかったと思うが… 「あの時あなた、魔理沙と話してたじゃない?」 「ああ、あの自慢話な。どっちかというと話してたというより、聞き専門に回ってた感じだけど」 「うん…その時あたりからなのよ、なんかもやもやしちゃって」 「もやもや?」 「ええ、あなたと魔理沙が楽しそうに話してるのを見てたら、なんだか…。話の中にも、入っていけなかったし」 「そういえばいつもは適当に相槌打ってるのに、今日はなかったな」 「何でなのか、自分でもよく分かんないんだけど…」 「んー、なぜだろう…」 うつむく霊夢に、いつもの覇気のようなものは感じられない。思ってもみなかった事態に、困惑しているのだろう。 二人して首をひねる。十分ほどもそうしていたが、答が出ることはなかった。 「…ごめんね、変な事言って。…片付けましょうか、もう遅いし」 「あ、いや…。…手伝うよ」 「ありがと」 その後、風呂に入って寝るまで、二人ともこの話題は出さなかった。 しかし、やはり気にかかるのか、霊夢の表情は曇りがちだった。…かくいう俺もそうだが。 「何があったんだろうな…」 布団の中で、そんなことを呟く。ノーヒントの激ムズクイズ番組にでも参加した方がまだましな気分だ。 そう思いつつ、霊夢のことがかなり気になっている自分を自覚する。 かりそめの…とはいえ、家族のようなものといって差し支えない少女、いつもどこかふわふわした、春のような少女。 そんな彼女に対して感じる、かすかだがしっかりした…気持ち。 どうにか力になってやりたい。だがどうすればいいのか。 「…困ったときは、人に聞く…か」 マヨヒガでであった、あの元気な猫の少女の口癖を呟きつつ、とりあえず目を瞑った。 せっかくだし、明日霖之助さんにでも相談してみよう。そう心に決めながら。 ―その後、まあいろいろとあるのだが、その辺は置いておく。 とりあえず、がんばることができた。それだけ。 「さて、明日はどうしよっかな…。そろそろ霊夢のところもいろいろ切れるころだし、香霖のところにでも顔出してみるか、 あいつもたぶん来るだろうしな。…次は何みせてやろっかなー」 ―ごたごたも、たくさん。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― こういうのは初挑戦です。だがわけわかめ。orz 一応霊夢もののつもりで書きました。ちょっぴり三角関係テイストもこめて。 これから彼がどうなるかは…皆さんの胸の中に(マテ 無責任ですみません。これが俺の限界です。 もっと短くまとめられたら少しは違ってくるのでしょうが…。 後、まとめの人、いつも乙です。 ほんと大好きです。ありがとう。 <追加あとがき> ども、作者です。改めてみたら誤字だらけ、わが事ながらいささか呆れました。 つか神社の名前を間違うかよ…orz 上で「三角関係」なんて書きましたが、ごめんなさい、どろどろしたのじゃなくギャグで、しかも… とにかくそういうのを期待した方には申し訳ない結果のプロットでした。 今回一緒にあげる予定の(というかあがってるはずの)エピローグのほうに詳しく載ってます。 最初に書いたときはあまり気にしてませんでしたが、改めてプロットをチェックしたら 何か5・6話位軽くいきそうなことが分かって、せっかく2話目を書いていたのですが、さっさとあきらめてしまいました。 短くまとめる能力って大事ですよね。そういう力のある人ってうらやましいです。 次があったらがんばってみます。 関係ない話ですが、 この話のシチュエーション、意外と応用利く気がします。 預ける場所を変えればヒロインとかいかようにもなりそうだし。 …書く時間無いけどね。 初出 37 改訂 198
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/500.html
霊夢30 ―幻想郷小異変・霊夢と紫の衣装取り替えっこ?―(新ろだ216) ・Prologue ~博麗神社の天岩戸を開け放ったのは誰?~ ここの所ずっと忙しかった。おかげで結構な稼ぎにはなったけど、 同時に博麗神社への訪問頻度が減ってしまったのも事実。そろそろ 顔を出さないと、霊夢がむくれるかもしれない。 いつものお遣いのため『ブラックボックス』に普段の三割増しで 届け物を詰め込み、賽銭箱に入れる賽銭も三割増で用意して博麗神社 へと向かう。 何時もの獣道を通り、長い階段を昇って見慣れた境内へ。彼女の ことだから、今頃掃除を終えてお茶を飲みながらまったりしている ことだろう…… うん? おかしい。境内の様子をぱっと見ただけでもおかしいとわかる。 まず掃き掃除が行われた痕跡が無い。霊夢はやることはきちんと やる娘、それは僕が良く分かっている。彼女が掃き掃除を失念する ことなどまずありえない。 ところが今はどうだ?掃除された跡が、それらしい痕跡がない。 異変が起きて外出中?いや、それはない。そうなら慧音様が気づく はずだし、ここに来るまで見た妖精達に何らかの変化があるはずだ。 それに、分かる。彼女は、ここにいるはずだ。 軽く霊夢、いるー?と呼んでみる。いきなり上がりこむのは流石に 失礼だ。いなかったらいなかったでしかたが無い、縁側で待たせて もらおう… 彼女の返答を待つも、全然返事がない。もう一度呼んでみよう。 「霊夢ー?僕だよ、慧音様の御遣いで来たんだけどー」 この呼びかけから僅かな間をおいて、聞き覚えのある彼女の声が 聞こえた。 「……いるわよ」 どうしたんだろう、気持ち声が弱々しい感じがする。 もしかして風邪?可能性は零ではないだろう。風邪をひいて奥に 引っ込んでいることも十分考えられることだ。 「ううん、風邪はひいてない。大丈夫」 風邪を引いていないのならば、どうして出てこないんだろう。 肌寒くなってきた、なんて言えるような時節でもないし…こんな 奥に篭りたがる霊夢は初めてだ。 「ね、ねぇ、そ、その辺に誰かいる?」 やっぱり変だな。いつもの霊夢って感じがしない。どこか怯えた 感じの声など、発したことは無かったと思う。周囲を極端なまでに 警戒したようなことだって無かった。 「誰もいない、ね。誰もいない」 これは本当だ。鴉天狗の文が記事になりそうな話題を求めてやって 来るのは珍しいことではないが、いればそれなりに気配がするはずだ。 高確率で遊びに来る魔理沙が接近している感じも無い。 もっとも、境界を弄れる紫さんや霧状になれる萃香だとお手上げ なのだけど。こうなってしまえば、気配も何もあったものではない。 よほどの事でもない限り、人目を気にすることなどまず考えにくい 霊夢だ。何かあったのかもしれないな。 霊夢、入ってもいい?と聞くとすぅと襖が開いた。しかし彼女の 姿は見えず、声だけが聞こえる。 「入ったらすぐ閉じるからね」 ますます不自然さを感じる。そうまでして見せたくないものでも あるのだろうか。このままだと何も分からないので、ここは彼女に 従って中に入ったほうがいいだろう。 お邪魔しますと一言挨拶して、僕一人が何とか入れるほどの隙間 から中に入る。何歩か踏み込んだ時、これ以上開けていられないと 言うかのように勢いよく襖が閉じる。音はほとんど聞こえなかった。 霊夢、と彼女の名前を呼ぶと後ろから静かにしてと声が聞こえる。 「ねぇ、今から何を見ても笑ったりしないって自信を持って言える?」 笑う?哂う、のほうかもしれない。見られることで哂われるほどの 何かがあるのか。だからこんなに周囲に対して警戒しているんだろうか。 今ここに、それがある?そしてそれを僕が見たら哂うかもしれない? だけど。はっきりと言う。彼女に伝える。 「しないよ。哂ったりなんか、しない」 じゃあ、ゆっくり後ろを向いてと言う声の通りに、後ろを向く。 はっきりと感じる違和感。僕の目の前に存在しているのは見慣れた いつもの紅白衣装ではなく、紫色を基調とした紫さんが普段着ている 洋服。 そしてあの紅白リボンもなく、あのふわふわした感じの帽子に細く 赤いリボンが、前面で蝶結びになっている。どうみても紫さんの衣装 だろう。 だけど。この衣装を着ているのは間違いなく霊夢。僕のよく知る 博麗神社の巫女、霊夢だ。 俯いた彼女の表情を伺い知ることはできないが、ぎゅっと握られた 手から不安な感じは伝わってくる。笑うことも哂うこともできない、 でもどう返したらいいかも思いつかない状態だ。 えーと。 こういう時はどう言うべきなんだろう。うーん、そうだなぁ。 「イメージ、チェンジ?」 おそらくこの時の僕の表情を見た人は誰でも間抜け面、と言った だろう。自分でもそんな感じが良く分かる。 霊夢はまだ俯いたままだ、まずいことを言っちゃっただろうか。 「はぁ~、思いっきり気疲れしたわ…」 ぺたん、と両の手を畳につけて幾分か気の抜けた声が聞こえた。 「え?紫さんにスペルカード戦で負けてこうなった?」 当時のことを思い出したか、そうなのよ…と沈んだ表情で答える。 霊夢は僅かに間をおき、紫さんの洋服を着ている理由を語り始めた。 始まりは霊夢の元に紫さんが現れ、スペルカード戦をしようと 言い出したことから。霊夢は気が乗らなかったので適当にあしらい 帰らせようとしたのだが、いつになく紫さんが強請るので 「しょうがないわね。さっさと終わらせるわよ」 この時折れたのは間違いだったと霊夢。 スペルカード戦をする前に紫さんは『敗者は勝者の言うことを 何でも聞く』と提案(勿論この場限りのものだが)、霊夢もこれに 応じてスペルカード戦が始まった。 その結果、霊夢は豪快に負けた。それはもう、気を失うほどに。 スペルカード戦の制約で本来の力を大分抑えているとは言えども、 紫さんと霊夢の実力差は明白。 分かっていてやる辺り、計画性は相当だな。 覚醒した霊夢に紫さんは、こう言ったらしい。 「霊夢、一週間あなたと私の衣装を取り替えっこしましょ♪」 まず自分の着ている服が紫さんのそれとしっかり替えられており、 箪笥の中にある予備の服も全て取り替えられ、おかげで箪笥の中は 紫一色に染まってしまったのだとか。 寸法までぴったり合わせてあったの、と悔しさ半分、情けなさ 半分といった表情で説明される。うーん、確かにだぶついた感じが しなければ、きつ過ぎるという感じもしない。 本当に、ぴったりという表現が相応しい。 更に痛いのは霊夢の象徴とも呼べる紅白のリボンも、予備を含め 全部持っていかれたらしい。徹底しているなぁ。褒めるべき所じゃ 無いのは分かっているけれど。 妖怪は元来悪戯好きなのよ、と言っていたのは紫さん本人である。 さっきも言ったが、相当計画的だなぁ。一度やると決めたら徹底的に やりぬく、のだろうか。能力を無駄遣いしているような気がする。 それでどうして閉じ篭っていたか、については鴉天狗の文に今の 自分の姿を見られれば面白おかしく(本人にとっては迷惑)脚色、誇張 表現されて号外で幻想郷中に言いふらされることが確定だからだとか (ところで萃香が霧になって覗き見、とかは考えなかったんだろうか)。 あれこれ考えて、その一週間を引篭もることで何とか乗り切ろうと したら、そこに運良くというべきなのか悪くと言うべきなのか。僕が 来た。 招き入れたのは賽銭はいつも入れてくれるし、魔理沙とかと違って 図々しいところもないし、慧音のお遣いで来ているからと彼女は語る。 魔理沙、何気に扱いが酷いな。 ここの部分は捉え方を変えれば、僕は霊夢にそれなりの信頼はされて いるんだということだろうか。何だか誇らしくもなるが、現在の霊夢の 問題は他者からして見れば笑い話、本人にとっては深刻な問題。 どうにかして助けてあげたいんだけど、どうしよう。 でもこうやって改めて霊夢の姿を見ていると、何だかんだ言って よく似合っていると思う。彼女が可笑しいと思い込んでいるだけじゃ ないのかな、とも思わされる。 これは一種のゲームなんだと割り切って付き合ってみるのも一考。 紫さんが何を目論んでいるのかはさっぱりだけど、それならそれで 楽しんでみようか。 ねぇ霊夢、こんなこと僕が言うのも何だけどさと話を切り出す。 「こんな状況だけど、逆に考えてみると言うのはどうかな?」 逆?と小首を傾げて聞いてくる彼女にたった今思いついたことを 説明する。今の霊夢の服装は結構似合っていること、そしてこの姿を みんなに見せることで見慣れてもらえば、気にならなくなるはずだと。 僕の提案にええっ、と当然と言えば当然な反応を示す霊夢。普段 着ない服装なのだから、見られるのにはかなりの抵抗感があるだろう。 大丈夫だよ、僕も一緒だから。みんなが哂っても、僕は哂ったり なんかしないよと彼女を安心させるためにその手を軽く握る。 大丈夫、大丈夫だよと伝えるように。 うーん、と結構長い時間考えた末におずおずと僕の手を握り返し 「信じてもいいのね」 と念を押してくる。勿論だよと返し、こう答えた。 「だってさ、霊夢がこの姿を僕に見せたってことは信じてくれて いるってことだよね、僕のこと。だったら応えるよ、君の信頼に」 「…っ!」 うん?僕何かおかしなこと言ったかな? 「時々、凄く恥ずかしい台詞を臆面もなく言っちゃうことができる その天然振りが今は羨ましいわ…」 う、うーん。そうなのかな?思ったことをそのまま口にしただけ なのになぁ。 確かに慧音様からもお前は時々大胆なことを言ったり核心を突く ようなことを言う、普段はそんな感じを少しも見せずにマイペース を地で行く人間だがな、と言われたことはあったけど。 まぁ、霊夢が元気になったのならそれでいいのかもしれない。 「じゃあさ、最初は人里に行こうか。慧音様たちもいることだし」 「湖の氷精とかよりはずっとましかもしれないわね」 ばさりと言う音と共に日傘が開かれる。毒を喰らわば皿までと 言うけどこうなったら皿ごと毒を喰らってやるわ、と半ばヤケな 感じで霊夢が呟いていた。 何もそこまでしなくても…飽くまでもこれはゲームの一種なのに。 「行こう、霊夢」 「…当然だけど徒歩でね」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ242 「今年ももう終わりだね」 「そうね」 向かい側に座っている霊夢はみかんを剥きながらそう答える。 「最初は右も左も分からなかったけど霊夢に見つけてもらえてほんとよかった」 「居候が増えて困ったけどね」 そういう霊夢も笑顔なので決して嫌味で言っている訳じゃないらしい。 ちなみにもう一人の居候は勇儀と年忘れに行っているそうだ。 「今じゃ萃香も含めて家族みたいなものだよね」 「そうねー……ってちがーう!!」 どかーんと霊夢が噴火した! ななな、何だ!? 俺おかしなこといったか!? 「あんた、私が手を出しやすいようにいろいろ誘惑してるのに何でスルーばっかりするのよ!」 「ええっ!? あれらみんなそうだったの!?」 「気づきなさいよ! この朴念仁!」 霊夢の怒りは有頂天、じゃなかった、怒髪天をついたらしくバンバンとこたつの天蓋を叩く。 「い、いや、その、ね? 結構ヤバかった時もあったよ? けど、その都度手を出して嫌われちゃったら嫌だな~って思っていたらいつの間にか賢者に……」 「ようするに意気地なしってことね」 「はい、そうです。ヘタレです。チキンです。甲斐性なしです」 「……私そんなに魅力ないかな?」 「そそそ、そんなことない! 霊夢は可愛いよ! 俺にはもったいないくらい!」 わたわたと弁解する自分が情けない。かぁっと頭と顔に血が昇っていくのが分かる。 そんな俺を見て霊夢は安心したような、でもどこか呆れた表情を浮かべていた。 「ま、私をちゃんと彼女と見てくれていることには感謝するわ」 「心配させたなら謝るよ」 「ん……それじゃ意気地なしさんにプレゼント」 霊夢はこたつから出ると回り込んで俺の脚の上に跨った。 凄く近くに霊夢の顔があってどきどきするのとまつ毛が長いことに気が付いた。 「○○が何しても私は拒まない。だから貴方が好きなようにして」 こちらを真剣な表情で見つめてくる霊夢。 女の子にここまで言わせる自分に情けなくなってくる。それでも何もしなければそれこそ最低だ。 緊張で手が震えているのが分かるがそれでもしっかりと霊夢の肩を掴む。 目をつぶってくれた霊夢に自分の唇を重ねる。 「ん……」 触れるだけの軽いキスを繰り返すたびに心の中に熱いものがこみあげてくる。 もっと、もっと、霊夢を感じていたい。 肩から手を離して背に腕を回してきつく抱きしめる。 「ん、ちゅ……ちゅ……」 俺の思いは伝わっているのか不安になったが杞憂に終わった。 霊夢も俺の背に腕を回して身体を密着させてくる。 だんだんとキスも激しくなり、淫らな水音も混じりだす。 「んっ……ちゅ、ちゅぱっ、ふ、んん……んぁ……ちゅ、もっとぉ……ふぁ、んん」 愛しい。霊夢の何もかもが愛しい。 そんな思いに支配されて知らず知らず腋から手を入れる。 「ふぁっ……優しくして……」 手の中に吸いついてくる白磁色の膨らみを丁寧に捏ねあげる。 しっとりとしているそれはサラシを巻いていないので直に霊夢の温かさを感じられる。 「ん……ぁっ、あんっ、そう、そこが……いいっ」 桜色の実を指の腹で押しつぶし、こりこりと動かすと霊夢の身体がびくんと跳ねた。 「んっ……ふぁ、ぁっ……んくっ、……っ」 時折涙が眼尻に浮かぶが痛くて流れてきているわけではないらしい。 両手が塞がっているので唇で霊夢の涙を拭う。 そんな俺を霊夢は優しく微笑んで見つめてくれる。 「はぁ……んっ、むぅ、ちゅううっ、じゅるっ……ぷあっ、はぁはぁ」 胸と唇を愛し続け、そろそろ霊夢も限界に来ているらしく身体が震えている。 俺もそろそろ限界に近い。 「ぁ……ダメっ、もうっ……○○お願い……我慢できない……っ」 霊夢の濡れた瞳に見つめられて俺は…… 「えへへ♪ もらっちゃったもらっちゃった♪ ○○のはじめてもらっちゃった♪」 「霊夢もはじめてじゃないか」 「いや?」 「そんなことは無いけど……」 「ならいいじゃない♪」 あの後こたつでにゃんにゃんしてしまい、後片付けを終え今霊夢は上機嫌で俺の股の間に座っている。 ……やっぱり女の子って柔らかくて華奢っぽいけどちゃんと男を受け止めることができるんだな。 大きなリボンをした霊夢の頭を撫でてあげると嬉しそうに俺にもたれかかってくる。 幸せな時間が流れていき、除夜の鐘が聞こえてきた。 「あけましておめでとう。今年もよろしくね、○○」 「ああ、霊夢も」 何度も交わったせいか大きな欠伸が出て無償に眠い。 そろそろ床につくか。 「俺、そろそろ寝るよ。霊夢は?」 「私も一緒に寝る」 「じゃ抱っこしてあげる」 「うん♪」 軽々と霊夢を抱き上げ、首に腕をかけて満面の笑みを浮かべる霊夢を連れて俺は寝室に向かった。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ305 「ねーお祭り行こうよー」 ○○の突然の提案に呆れる霊夢。 「何いきなり言い出すのよ。うちの例大祭はまだ先よ」 「そうじゃなくてさ、里の方でお祭りがあるんだよ。そっちに行ってみようよ」 「なんでわざわざ里の方までお祭りに行くのよ? うちでもやるじゃない」 「だって博麗神社例大祭じゃ霊夢は巫女の仕事につきっきりで一緒に回れないじゃない。俺は霊夢と一緒にお祭り楽しみたいの」 そう答えると霊夢はしばらく考え込んで仕方ないといった感じでため息をついた。 「……はぁ、わかったわ。でいつからお祭りはやるの?」 「今日」 「今日!?」 「ん、だから急いで帰って来た。こっちはもう準備できてるよ」 「ま、待ちなさいよ! わ、私は準備があるから○○は先に行ってて!」 「りょうかーい」 ○○が出て行ったあと霊夢は自室に戻り、着替えを始めた。 「んー遅いなー、霊夢。なにしてるんだろ?」 祭り会場の入り口でそう零す○○。例大祭ほどではないが人が多い。 ○○は人通りの邪魔にならないよう道の端にいた。 そんな彼に声をかける少女がいた。 「おっす。○○もお祭りに来たのか?」 その声がした方を見ると三角帽に白黒のエプロンドレスを着た金髪の少女が片手をあげて笑顔でこちらを見ていた。 「やぁ。魔理沙もお祭りに遊びに来てたんだ」 「まぁな。祭りと聞いて参加しないわけがないぜ」 「魔理沙は騒ぐことが好きだからね」 「おぅ。弾幕も祭りもパワーが大事だと私は考えるからな」 そう話をしながら盛り上がっていると会場から反対側から霊夢がやってきた。 いつもの巫女服ではなく、女の子らしい浴衣姿をしていた。 ぽかんと口を開けたままになっている○○に霊夢はちょっと不機嫌そうな声で呼びかけた。 「ちょっと、何とか言いなさいよ」 「……うぇっ!? あ、ええと、その……」 普段の姿からは想像できないことからくるギャップのせいで上手く喋ることのできない○○に変わって魔理沙が受け答える。 「へぇ、浴衣なんて持っていたんだな。馬子にも衣装とはよく言ったもんだぜ」 「な、なんですってぇ~!」 「おぉ! 怒った怒った。それでこそ霊夢だな。じゃ待ち人も来たことだし早く回ろうぜ!」 もう待ちきれないといった感じで魔理沙は出店に向かって走り出す。 慌てて○○と霊夢は魔理沙を追いかけるが○○の心は未だどきどきが治まらなかった。 りんご飴、綿菓子、べっこう飴、焼きそば、たこ焼きと縁日の定番のものを食べ、射的、金魚すくい、輪投げにヨーヨ釣りとまさに全力といっていいくらいに出店を回った。 そんな中ひとつの出店の前で三人は足を止めた。出し物はひもくじなのだが店員が見知った顔なのだ。 「何してるんですか、お二人とも」 「あ、○○いらっしゃーい」 「魔理沙と霊夢もいらっしゃい。どうだい? 一回引いていかないか?」 その店員とは神奈子、諏訪子の神様コンビだった。 「何よ、お賽銭だけじゃ食べていけないからこんなところで店出してるの?」 「まさか。暇を持て余していたところに里の方で縁日があるって早苗が言うから、ちょっと出張っているのさ」 「でも、その早苗はどこに行っているんだ?」 「早苗はにとりと椛に連れられて屋台を回っているよ。で、一回くらい引いていきなよー。神様のご利益があるくじだからいいもの当たるかもよ~?」 「よーし、じゃ私が引かせてもらうぜ!」 小銭を渡して魔理沙は神妙な顔をして束になったひもを物色するとその中の一つを掴んで力強く引っ張った。 「よっしゃ! 手ごたえあり!」 自信満々な魔理沙だったが景品の群れの中から浮いてきたのはショボいブリキのオモチャだった。 「ざんねーん。はい、チキチキゼミね」 「うう……もう一回! もう一回やらせてくれ!!」 「あいよ、まいどあり~」 その後何度も繰り返しても縁日名物のショボいものばかりが浮いてくる。 ついに魔理沙の所持金も尽きてしまった。 「またまたざんねーん。シガレットチョコ当たり」 「うぅ……これいいものなんか繋がっていないだろう……」 「いや、繋がっているよ。ただ日頃の行いが悪いと引きも悪くなるんだ。神様が管理しているからな」 ニヤニヤとしょぼくれた魔理沙を見る神奈子。まぁ常日頃の行いとしては魔理沙は褒められたことはしていないだろう。 霊夢にもくじを進めた諏訪子だが、霊夢は興味がないようで魔理沙の一喜一憂するさまを眺めていただけだった。 落ち込んだ魔理沙を慰めるため霊夢は何か他に面白いものがないか見てくると言って人ごみの中に紛れていったがここにいてもヘコむだけだと魔理沙も霊夢の後に続いていった。 一応集合場所は決めてあるので逸れても心配はないのだが○○はひもくじの前から動かなかった。 「ん? ○○も引くかい?」 「それじゃ一回引かせてもらおうかな」 「あいよ」 代金を払って○○はひもを引く。するすると下げられたひもの変わりに上がってきたものは小さな小箱だった。 その小箱を受け取ると中には銀色に輝く指輪が入っていた。 「おー。それを引いたんだ。たぶんうちで一番いいものだよ」 「え? これおもちゃじゃないの?」 「私が直々に原石から削り上げたものさ。暇つぶしに作ったものだけどしまってあるだけじゃもったいないだけだからな」 「ん、それじゃ貰っておくよ」 指輪をポケットにしまうと○○は雑踏の中に消えていった。 集合場所に決めたところには霊夢だけが待っていた。 「魔理沙は?」 「アリスを見つけてタカリに行ったわよ。まだ遊び足りないらしいから」 魔理沙らしいと苦笑する。人通りより少し離れた場所なので出店から聞こえてくる声や祭囃子よりも虫の鳴き声の方が大きく聞こえてくる。 月明かりの中、しばらく無言になり○○は静かに口を開いた。 「何だか昔を思い出すよ」 「昔って?」 「小さい頃さ、縁日で一人の女の子と出会ったんだ。大きなリボンをしてた長い黒髪の女の子」 「あ、私もある。あまり見かけない服を着てた。ちょうど今の○○みたいな」 「「…………」」 「もしかして、昔会ってたかもしれない?」 「そうね……あ、たしかその子に指輪を貰ったわ」 「……完全に俺だ」 二人は過去を思い出す。 ◇ ◇ ◇ 幼い頃○○は縁日を楽しみにしていたが約束していた友達が用事で遊べなくなってしまい一人で縁日を回っていた時のこと。 神社の狛犬の像の傍に一人の少女を見つけた。 若干時代が違うような着物を着てつまらなそうに周りを見ていた。 気がつくと○○は少女の前に来て手を差し伸べていた。 「一緒に見て回らない?」 「……うん」 少女の手を握り縁日を回る。小さな神社のはずだったがどこまで行っても終わりが見えない。 周りの人々も尻尾があったり、獣耳が生えてる人が多くなっていた。しかしそんな周りの変化より少女がさっきより表情豊かに笑ってくれる方が○○ には嬉しかった。 楽しい時間はあっという間にすぎ祭りも終わりに近づいた時、○○は少女に縁日で買ったおもちゃの指輪をあげた。また会えるように、今度は友達を連れてくるからみんなで遊ぼうと約束して。 さよなら、また明日と言って別れた時、少し彼女の顔に悲しげな表情が浮かんでいたが○○は特に気にすることはなかった。 後日、何度も神社に通ったが、あの少女が姿を現すこともなく、○○もあのどこか幻想的な少女のことを忘れていった…… ◇ ◇ ◇ 「あの時の子、やっぱり霊夢だったんだ」 「昔から結構強引だったよね。私の手を握りしめて連れ回すんだもの」 「だって、そうでもしなけりゃそのまま消えてしまいそうだったんだもの」 祭りの締めとして花火が上がる。空に咲く大輪の花の光に照らされた霊夢はすごく綺麗に映る。 「霊夢は変わらないね。あの頃と何にも」 「○○は変わったわ。背も大きくなったし、顔つきも大人らしくなった」 周りは花火に夢中で見つめ合う二人には気にも留めていない。 ○○はそっと霊夢を抱き寄せるとポケットから指輪を取り出して霊夢の薬指にはめた。 「また指輪をくれるの? 再会のお祝い?」 「いや、違うよ。今度はずっと霊夢と一緒にいたいから。もう別れたくないから」 ぎゅっと彼女の身体を抱きしめて耳元で囁く。 「絶対に離さない。さよならなんて言わない。また明日っても言わない。霊夢の傍にずっといるよ。また会えなくなったりしないように」 「ん……」 花火の音が何処か遠くに聞こえる。お互いの身体にとくん、とくんと伝わる心臓の音の方がよほど大きく聞こえた。 からころと下駄の音を立てながら二人は神社への道を歩いていた。 川べりにホタルが舞いその明かりを見ながら家路に向かう。 「今度はうちの神社の例大祭が近いわね」 「でも霊夢は巫女としていろいろやるから今日みたいには出歩けないよね」 「そうね。でも今回はちょっとやる気出てきたから。○○、私の舞見ててくれる?」 「うん、今までも見てきたけど凛々しくて素敵だったよ」 「もっとすごいものにしてみせるから楽しみにしてなさいよ」 絡めた指にきらりと銀の指輪が光る。 時折その繋いだ手を嬉しそうに眺める霊夢。 まだ幻想郷の夏は終わりそうもない。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ353 「おーい、邪魔するぜー」 呼びかけても返事はなく、勝手にあがらせてもらうことに 家の中を歩き回る 境内にはいなかったし、出掛けてる感じでもなし 廊下を歩いていると、ガラス戸が曇っているのが見えた 確かここは 戸をあける そこにはヤドカリのように、炬燵を背負って寝ている霊夢がいた 「おーい、風邪引くぞー」 頬をつついてみるが反応はない・・・やらかいな 「起きろコラ」 耳に息を吹きかけてみる 少しぴくっと動いたようだが、起きない 「霊夢さーん、起きてくださーい、悪戯しちゃいますよー」 … 唇を触ってみた 指には柔らかい感触、込めた力に比例して歪む唇の形が何とも 「・・・ほんとに起きねーな」 耳たぶを噛んでみた 「んっ」 霊夢の声に驚いて飛び退く 起きる気配はない 「・・・この状況は・・・すごく興奮するっ」 調子に乗ってみることにする 服の下に手を差し込む 「さらし巻いてんのか、そんなに胸ないだろ」 さらしを緩め、直接肌に触れる 炬燵に入ってるせいか、彼女の体は火照っていた 外から来たばかりの俺の手は、冷たい 「あったけー」 しばらく彼女の胸部をいじくり、手をあっためた 「んっ・・・んっ」 「おいおい、変な声出さんでくれよ、変な気分になっちまうぜ」 と言いつつ今度は彼女の下腹部に手を這わせる 霊夢の体がびくりと動いた、恐る恐る彼女の顔を見てみれば 「あれ・・・○○?」 「れれれ霊夢さんオハヨウゴザイマス」 まだ寝ぼけているのか!今なら逃げきれる!! 「・・・!?」 ちっもう状況を飲み込んだか、さすが弾幕ごっこの達人!しかし俺もこんなところで 手首と足首にぺたりと札が貼りついた 「あ?」 なんだこれと思う暇もなく、磁力にひかれるように、壁に貼り付けにされた 「ぐっ・・・霊夢さん、これにはいろいろな理由がありまして」 彼女はゆらり、と立ち上がると、俺に向かい、札を構えた 「さらしもいらない胸には興味なかったんじゃないの?」 「いやぁ、あの場は照れ隠しと言いますか、実際は」 「・・・私が寝ている間、どこまでやった?」 殺気というのをはじめて肌で感じた 「ははは、股に違和感なければそこまでいってないってk」 すこん 横目で見ると壁に札が刺さっている そして少し遅れて、頬でも切れたのか、畳に血が一滴、落ちた 「札ってそういう物理攻撃もできるんだな、一つ詳しくなったよ」 「遺言は、それでいいのね?」 遺言、つまり言いたいことすべていってしまえと 「良い訳有るかボケー!て言うかお前が無防備に寝てるのも悪いだろ!そんなかわいい顔で寝てたら悪戯しない男はいませんよ?それに巫女服エロいんだよ!さらしもチラチラエロいんだよ!!」 「う、うるさい!私はエロくないわよっ!?」 「それはないわ、お前がエロくて可愛くなかったら俺はこんな状況になってないしねっ!」 霊夢は動揺している! このまま何とかなるかもしれん 「というか!好きでもない相手にこんなことしませんからっっ!!」 霊夢は目を見開いている、固まって動かない よし、逃げよう 札にかかった術を解いて、一目散に神社の外へ と、3歩ほど踏み出した瞬間。天地が逆転した 「??」 霊夢に投げられたらしい、息苦しい 俺はマウントポジションをとられた パウンド!?殺られる ガードもむなしく、俺の顔面には岩より硬い霊夢のこぶし ではなく、何か柔らかい何かが唇に おおこれは予想外だ、まさか 「・・・順番って、あるでしょう」 「・・・つまりさいしょは口付けからでないとダメと?」 彼女はそっぽ向くと、小さくうなずいた 後ろから見ても、耳が赤く染まっているのがうかがえた あー、あの耳なめたい 「!?今変なこと考えなかった?」 「い、いや、なにもない」 彼女はため息つくと炬燵を切って、戸をあけた 「うおっ、寒い!」 霊夢はマフラー?を巻いてまるで出かけるよな格好だ 「出掛けんのか?」 「ん、行くわよ」 「え?俺も?」 言われるがまま、彼女にひきずられて 博麗神社階段下 「どこ行くんだよ」 「あんたが決めなさい」 当然、といったように彼女は言った 「なんで俺がだよ」 「男なんだから、エスコートしなさい」 ぼそっと、デートなんだから、と聞こえた 正直に言おう、彼女が何を考えてるか、さっぱりわからない もうほんと、思考回路がわからない ただ、今の彼女が非常に上機嫌であることは、理解できた 「じゃあそうだな―」 俺は霊夢の手を握り、日も暮れようかという町に歩みだした 終ワル ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/487.html
霊夢17 11スレ目 528 ○○がそれを見てはじめに思ったことは、そんなんじゃ寒くないのかなぁ程度の事だった。 イエスだかノーだか知らない人の誕生日にかこつけて色々とお祝いをする日。俗に言うクリスマス。 ここ幻想郷でも決してそれは例外ではなく、いつもよりかは割かし盛大な宴会が催された。博麗神社で。 だが平素と違ったのはあくまで規模だけだったらしく、客たちは会が終わるなりいつものようにさっさと帰ってしまった。 薄情だと言っている暇も無い。 そしていつも通り○○は片付けを一人で終え、洗い物で冷えた手を温めようと居間に来た時にそれを見つけた。 即ち、畳の上でぐでーっと寝転がっている霊夢の姿を。 「霊夢ー?」 些か心配になって呼びかけてみる。が、返事は無い。 顔を覗き込んでみるとすやすやと息を立てて眠っているようだった。後、若干お酒臭かった。 どうやら酔いつぶれて眠ってしまっているようだ。 「また、呑みすぎちゃったのかな」 僅かな期待と八割ぐらいの諦めを胸に、ゆさゆさと肩をゆすって声をかけてみる。 これで霊夢が起きたのなら明日は槍でも降るだろうと○○は思った。割と本気で。 「霊夢ー、こんな所で寝てると風邪引くよー?」 が、○○の予想通り起きる気配は無い。 なので今度は頬をぺちぺちと張ってみる。 ○○は結構大胆だった。 「霊夢ー?」 それでもやはり霊夢は起きようとしない。 仕方がないので○○は断念して、ここでこのまま寝かせてあげることにした。 寝室から布団を持ってきて被せる。 そういえば昨日はやたらと萃香たちに絡まれてたなあ、と○○は思い出しながら同情した。 宴会の席での天狗や鬼は怖いものである。 出来れば回避、それが出来ないならせめて飲む量をセーブくらいはしたいものだ。無理だろうけど。 溜息が自然と出た。 「んー」 霊夢がゴロリと寝返りを打った。 その声や様子からして、体調は一概には良い状態にあるとは言えないようだ。 仕方あるまい。 霊夢たちは酒をよくアルコールを摂取する方だとは言ってもその体はまだ発展途上(内部環境的な意味で)。 ○○ほどに成熟しているわけでもなければ、妖怪のように特別身体的に発達しているわけではない。 よって宴会の後も無事でいられるのは○○だけということが殆どだ。 だから○○は自分から進んで宴会の片付けも請け負うし、またそれが当然だと思っている。 出来ることは出来る人がやるのが一番だ。 だからこそ○○も霊夢に頼っている部分がある。 しかしこうして思い返してみると明らかに○○が日常生活の中で担っている部分の方が多いのだが、それを気にしないのが○○の人となりとも言えた。 「うー」 霊夢がまたひとつ唸る。 何も知らない人が見たら、その姿はちょっと気分の悪そうな年相応の少女にしか見えないだろう。 実際、○○の目にもそう映っていた。 でも、霊夢は違った。 一人で、ずっと、我慢して過ごしていた。少なくとも一年程前までは。 その事に○○が気付いてからは、霊夢も徐々に○○を頼るようになっていった。 それは○○にとっても嬉しいことだったし、霊夢もそれ以前よりは幾らか明るくなった気がする。 そうやって過ごしていくうちに霊夢のそういった一面はあまり意識しないようになっていった。 しかし○○は偶にこうやって思い出すことがあった。 霊夢の、その小さな体に秘められた強さというものを。 そして、自覚することが、あった。 「…………」 ○○は霊夢の傍に座り込んだ。 寝相の所為でずれかかっている布団を掛けなおし、改めてその体に目を向ける。 小さな、体だった。 そして霊夢の頭をスッと持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。 その際、黒い艶やかな髪が手に触れた。 その髪を手にとってみる。 髪はさらさらと手から零れ落ちた。 何度か繰り返す。 綺麗だな、と○○は思った。 そんな事を繰り返すうちに、主に疲労が原因で○○の意識は闇へと落ちていった。 霊夢が目を開けるとすぐ前に誰かの顔が超どアップで映っていたので、声にならない悲鳴と共にとりあえず夢想封印を叩き込んだ。 放たれた光球は狙いを外すことなく全て目の前の人物へと飛んで行き、その人物は障子を突き破って外へと吹き飛んだ。距離にして約10m。 その人物が○○であると霊夢が認識したのは、それから数秒後の事だった。 「あいったたたたた……霊夢?」 頭を抱えながら○○が起き上がる。 というかあれだけの攻撃を受けておいて「痛い」で済む辺り、○○もどんどん人間離れしてきていると言える。 慣れだろうか。 ○○の一声で霊夢は我に返った。 「あ、うん、私、霊夢」 まだ動揺しているのか、霊夢の言葉は途切れ途切れで意味不明瞭だった。 「ごめんね、驚いた?」 「そりゃ、まあ」 「どうも寝ちゃってたみたいだ」 ははは、と苦笑を浮かべながら体に付いた汚れを手で払いながら○○は家の中に戻ってくる。 ○○に怪我がなかった事にほっとしつつ、霊夢は先程から気になっている事があった。 ぶち破ってしまった障子の修理も気になるが、それはひとまず置いておくことにする。 「あの、○○」 「ん、晩ご飯ならまだ作ってないから待ってて」 「ああ、そう。――――じゃなくて」 危うく流されかけるところだった。 霊夢は霊夢でマイペースな所はあるのだが、○○のそれは霊夢を遥かに超越するものなので気を付けていないといけない辺りが手強かったりした。 咳払いなどして気分を改めながら、霊夢は○○に問うた。 「何で膝枕なんかしてたのよ」 台所に行きかけていた○○の足がピタリと止まり、霊夢の方に向き直った。 その時霊夢が見た○○の表情は何とも言えないもので、そこから何かしらの感情を読み取ることは困難を極めた。 しばらくお互いに何も言わない時間が過ぎる。 相変わらず○○は微妙な表情をしたままで、霊夢は炬燵に入ってないのでいい加減体が冷えてきた。 やっとのことで○○が口を開いたのは、霊夢がもう炬燵に入っちゃおうかしらなどと考えた時の事だった。 「霊夢」 「ん」 少し、表情が分かりやすいものになった。 そこから垣間見えた感情は、労り。 「――――晩ご飯、宴会の残りでもいいかな?」 「……ええ、構わないわ」 言いたくないことがあるならそれでいいだろう。 無理に聞きだす必要もないし、またそんな事をする気も起こらなかった。 炬燵に足を入れて天板に顔を乗っける。 ひんやりと冷たい感触が霊夢の頬に返ってきた。 やっぱり枕にするなら○○にしてもらおうか、と霊夢は思った。 やがて、○○がいくつかの料理を持って帰ってきた。 残り物と言えど、盛大な宴会の後だったのでそのメニューは中々に豪華だった。 「もう調子は大丈夫?」 「万全とは言えないわね。あー、あの二人め、無理やり飲ませるんだから」 体の不調を訴えつつも、ひょいひょいと料理を口に運ぶ霊夢。 どうやら腹はどんな状態であっても減るものらしい。 ○○はそんな霊夢の姿を微笑みながら見ていた。 「あ、そうだ。霊夢」 「んー?」 何か思い出したように○○が上を向いた。 霊夢は口をもごもごさせながら声だけ返して、もう箸は次の獲物に伸びていた。 「メリークリスマス」 霊夢の箸の動きが止まった。 幾分呆気に取られながら霊夢は○○の方へ視線を向ける。 そこには相変わらずにこにこと笑みを浮かべる○○の姿があった。 やがて霊夢も顔を弛緩させて。 「ええ、メリークリスマスね」 こんなクリスマスも悪くないかな、と思った。 夕餉後のおまけとか 「ご馳走様」 「まあ僕が作ったわけじゃないけど、お粗末様」 「で、○○」 「うん?」 「私はまだプレゼントを貰ってないわ」 「僕もあげた覚えが無いな」 「まだ今日中なら受け付けてるわよ」 「それは良かった。もう受理してもらえないかと思ったよ」 「え、あるの?」 「自分から催促しておいて何言ってるかな。 (ガサゴソ)はい」 「……何、これ」 「ストール」 「って何かしら」 「肩に掛けて使うんだよ。ほら、霊夢見るからに寒そうだからさ」 「こんなもの、何処に売ってたの?」 「作ったんだよ、無かったからさ」 「え」 「うわ、何その意外そうな顔」 「だって、そんなの見かけたこと無い」 「そりゃ気付かれないようにやってたしね」 「何でよ?」 「ばれちゃ面白くないだろ? 善行は気付かれないようにやれってね」 「ふーん……ありがと」 「どういたしまして」 「………」 「………」 「何も言わないのね」 「言って欲しいかい?」 「意地悪」 「霊夢ほどじゃないな」 「どうだかね。 ま、私はあなたの思っている通り何も用意してないわけで」 「言わなくてもいいのに」 「うっさい。こっちにも面子があんのよ」 「はいはい、それで?」 「だからあなたが何か私に要求があったら聞いてあげる券を今ここで発行します。今日限定で」 「聞くだけ?」 「場合によっては履行も可」 「随分と限定的だね」 「いちいち水を差さない。で、どうするの?」 「うーん……特に思いつかないし、いいや」 「何それ」 「いやぁ、してもらいたい事はいつもやってもらってるから満足だし」 「それじゃあ私の立場ってもんが無いのよ。 いいから言いなさい。言うの。言え」 「最早脅迫だね」 「あーもー、埒が明かない! こうなったら私がしたいと思う事をしまーす」 「主旨変わってない?」 「あんたが悪いのよ、何も言い出さないから。 ほら、こっち」 「全く強引だなぁ。 っと――――――んぅ」 「――――――――っは」 「…………………」 「…………………何よ」 「照れるくらいならやらなきゃいいのに」 「うるっさい!大体なんであんたはそんなに平気なのよ! あー、何か腹立ってきた!もう今夜は寝かせてあげないんだからね!!」 「何気に爆弾発言だね」 そんな聖夜の一日後。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 366 「愛してる」 会話が途切れた時、物は試しと言ってみた。 「そう。ありがと」 彼女は素っ気ない返事をよこしてからさっさと席を外してしまった。 あっさり躱されたなぁ。 なにか面白くなくて、話し相手もいないので手持ち無沙汰に湯飲みを啜った。 お待たせと声がかかり、ぼーっとしていた僕のすぐ隣に彼女が腰を下ろす。 「あのさ――」 ――さっきのは冗談なんだけど。 「何?」 いつもより嬉しそうに湯飲みを覗き込む顔に、続きを言い出せなくなる。 彼女はまごつく僕を見て柔らかく微笑んだ。 「冗談でもね、言われると嬉しい言葉ってあるのよ」 「そうかな」 「そうなの」 とん、と肩に寄せられた僅かな重みと赤いリボン。 なんだか無性に恥ずかしくなってきて、逃げ場も失った僕は遠くに広がる自然の彩りに集中した。 きっと夜になっても終わらない、神社の紅葉観賞会。 辺りの木々は朱に染まり、日々近づいてくる冬の足音。 触れ合う肩から伝わってくる温もりに、僕は大きな欠伸をした。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 915 ○○:僕。人間。怠け癖全開の人。イチャつくよりは一緒にゴロ寝。 甲斐性? きっとそれなりには。 霊夢の一応旦那様。 霊夢:ご存じ博麗の巫女。紅白。腋がたまらん。 怒ると おんみょうだま が さくれつ するぞ! ○○の一応嫁。 「嗚呼……炬燵が温い。しあわせ♪」 博麗神社の一室。 "博麗神社の眠れるナマケモノ"こと僕は、炬燵に潜りこんでその温かさを噛み締めていた。 本当なら料理の仕込みとか、やらなくちゃいけないんだけど、 手早くしてしまえば本当に数分で仕上がってしまうのだ。 ……ズボラ料理? 上等じゃないか。 お腹が膨れればいいんだよ、膨れれば。 そういう理由から、僕はギリギリまで炬燵から動くつもりはない。 そんな言い訳(?)を考えているうちに、縁側に続く戸が開いた。 「……またここにいたのね、○○。 台所にいないからもしやと思ったら……」 「やあ、霊夢」 「やあ、じゃないでしょう、やあ、じゃ。 貴方にも仕事を与えているのだから、ちゃんとして貰わないと」 ――追い出すわよ? と視線で語られる。言葉にされるよりもちょっと怖い。 「まき割りも済んだし、里への買出しも終わってるよ。ご心配なくー」 「……ご飯は?」 「ちゃっちゃと作る予定。それよりも霊夢も炬燵で温まらないかい? そんな格好じゃ寒いだろう」 冬の真っ盛り、雪だって積もっているにも関わらず、彼女はいつも同じ格好のままだった。 去年、見ている方が寒いと僕がプレゼントしたマフラーはきっちりとまいていたけど。 「あんたね……」 「ほらほらー、あたたかいよー? ぬくぬくだよー?」 ぽふぽふと自分のスペースの隣を叩いて誘う。 「……仕方ないわね。しばらく付き合ってあげるけど、それが終わったら○○もちゃんと仕事しなさいよ?」 「了解ー」 やれやれ、とジェスチャーまじりに霊夢は溜息一つ。 すたすたと僕の真向いに座る。 「なっ……」 「ど、どうしたの?」 「霊夢が、隣に座ってくれない……」 「はい?」 「仮にも僕は、君の旦那様なのにっ」 「……」 「嗚呼、これが噂に聞く倦怠期ってやつか! ……よよよ」 「違うわよっ! ……ただ、ちょっと、恥ずかしくて」 顔を赤くしてそこだけは否定する霊夢。 大袈裟に拗ねてみただけなんだけど、まさか本気で対応されるとは。 「恥じらうことなんてないじゃないか。僕達は曲がりなりにも夫婦だよ? そっちから来てくれないなら……」 「何?」 「こっちからいくまでさ! 必殺、トンネルドライブ!」 炬燵の中へ体を潜らせ、一気に向こう側へと突き進む。 布団を突き破った先は、霊夢の真横。 驚きと呆れの混じった表情を眺めつつ、彼女の身体を捕える。 「捕まえたー」 「ちょっ……あんたドコ触ってんのよ! 離しなさい!」 「嫌♪」 顔を真っ赤に染めながら抵抗する霊夢。 それがかえって嗜虐心を煽ることに彼女は気づいていないのだろうか。 「ここか、ここがええのんかー」 「あっ、ちょっとそこはだめだってば! ……んっ」 「ふふふ」 「いい加減に……ふぁっ……しなさ、いよ……」 そろそろ止めないと霊夢が怒りだしそうだ。ぴくぴくしてるし。 霊夢をいじっていた手をぱっと放す。 「……○○、あんたね……」 息をちょっと荒くしながら拳を震わせる霊夢。 そんな姿さえも僕にとっては愛おしく見える。 恐らくそのまま放っておけば放たれるであろう鉄拳ごと、彼女を抱きしめた。 「っ!?」 僕の突然の行動の連続にとうとう対応仕切れなくなったのか、彼女は緊張した猫のように身体を固くする。 「れいむー?」 「……な……何よ」 「いつも御苦労様です」 えらいえらい、と彼女の頭を優しく撫でる。指も使ってさらさらと髪の感触を楽しむ。 あまり抵抗しないのは緊張してるから、かな? 「でもね、最近色々と頑張り過ぎだと思うんだ。たまにはこうやって休まないと、ね?」 彼女はこの幻想郷を守る博麗大結界を管理している。 それだけでも大変だと思うのに、連日のように妖怪退治したり、神様にケンカ売ったり、宴会開いたり。 そうやって頑張る姿が好きだからこそ、一緒になっているのだけれど…… たまに疲れた顔をしているのを見て、それを僕に気付かせまいとしているのを知って……黙っているほど野暮じゃない。 「○、○……」 先程いじり倒したせいか、それとも別の理由からか、彼女の眼尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。 それを指先で拭いつつ、言葉を続ける。 「せめて今だけは、他の事を忘れて。僕だけを見て、僕の事だけを考えて」 今までやってきたこと、今もしていること。 偉業とも呼べる数々を成し遂げたくせに、硝子のように細い体をそっと抱き締めて。 精一杯の口付けを交わす。 「っ、んぅ……ぷは……○○……」 拙いながらも必死に応えてくれる霊夢。 この一時が永遠に続けばいいのに。 「……続きはベッドで……と、霊夢?」 長いキスも終わり、しばらく抱き締め合っている内に、霊夢は腕の中で眠ってしまっていた。 そろそろ晩御飯の支度にかからないといけないのだけれど、 炬燵の中な上に服の裾を彼女に掴まれている。 (……起こすのは、無粋だよね) そっと霊夢の髪を指で梳きながら、安心しきった寝顔を眺める。 (晩御飯は……一緒に作れば、いいか) きっと僕一人では彼女の足元にも及ばない。仕事の手伝いなんて以ての外だろう。 でも、心の負担くらいは、受け入れてあげたい。 彼女には、笑っている顔が、よく似合うのだから。 いつ彼女がここへ帰ってきてもいいように、笑顔でいられるように。 僕はここで出来ることしようかな、と思った。 「これからもずっと、一緒にいようね、霊夢」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 22 「ねぇ、○○」 「何?」 「……なんでもない」 誰かから聞いた事がある。 雨は誰かの代わりで泣いているからあんなに冷たいのだと。 そうだとしたら今降っている雨は誰の代わりに泣いているのだろう。 さわさわと縁側で囁く雨。朝からずっとこの調子だ。 昨日はからからに晴れて冬とは思えないくらい暖かかったのに。 今は少し着込まないと寒いくらいだ。 こたつの上に置いてあるみかんの入れ物に手を伸ばして中の一つを手元に持ってくる。 橙の皮を向くと、特有の柑橘の匂いがした。 お昼を食べたとはいえ、やはりこたつにみかんは付き物である。そう一人で考えて皮を向いていく。 だるそうに背中を丸めてみかんの皮を向く俺とは対照的に、正座をしてこたつに入ってくる彼女。 食器洗いが終わったのだろう。ふぅとため息をついてお茶を淹れるように指示してくる。 言われた通りに彼女のお気に入りの湯のみにお茶を注ぐ。香りと共に湯気が立つ。 「よく降るわねぇ、洗濯物が出来ないわ」 少し熱いのだろう、ちびりちびりと飲みながら霊夢はお茶を啜っている。 こたつに入っている俺の横で、同じくこたつに入りながら彼女はぼんやりと外を見ている。 俺とは反対方向の縁側を、どこか鬱陶しそうに。 俺はみかんを食べ続けながら、霊夢に言葉を返す。 「まぁ仕方ないんじゃないのか? 降る時は降る」 何処か適当に返事をしながらお茶を飲む霊夢を見る。 夜の闇のような髪。動きに合わせながら肩からさらりと零れていく。 真っ白い肌に少し赤味が差した頬。少女特有の、いや、女の子特有の柔らかい輪郭。 何処か切なげに影を落とす長い睫。俺とは全然違う、生き物。 どちらも喋らない。外から降る雨の音が部屋を満たしていく。 雨と縁側を背景に見る霊夢は何処となく儚い気がして、思わず視線を逸らした。 なんとなく、雰囲気がいつもと違う。雨のせいか。 それとも、この沈黙のせいだろうか。よくわからない。 鼓動が、早い。けれど、嫌なものじゃない。 それでもなんとなく癪だったのでみかんを一気に口に放り込む。 甘いような酸味が口に広がる。いつも食べるみかんより少し酸っぱい気もする。 「ねぇ、○○」 ふいに霊夢が呼びかける。か細い声。 少しビックリしてしまって、咀嚼しかけたみかんが変なところに入りそうになる。 なんとか胃に押し込んで返事をした。 「何?」 唇に柔らかい感触。閉じた瞼。長い睫。 さらりとした髪が俺の頬に触れる。 不自然なほど近い距離で、瞼を閉じた綺麗な顔が見える。 ふわりと漂う、霊夢の、匂い。 ゆっくり彼女が離れる。ほんの少しだけ紅潮した頬と、潤んだ瞳。 小さい、声で。それこそ聞き取れないような声で。 「……なんでもない」 そう言うと、飲んでいた湯のみも放っておいて何処かへと姿を消してしまった。 少し急いたような彼女の足音はもう聞こえない。 時間が、止まっている。部屋を包む雨の音が少し大きくなった気がする。 なんなんだ。よくわからない。どうして。 ぐるぐると自問自答しながら、ゆっくりと自分の唇に触れる。 先ほどとは全然違う感触。全てが違う。 身体が熱くなった。指ではない、柔らかな感触を思い出す。 霊夢のふんわりとした仕草、風のように目の前に来て。 キス、された。そう思う。 初めてだ。生まれて初めて。 それこそ、身体が熱くなるような感じも。初めてだった。 紅白の衣装を着た彼女の家に住み始めたのはもう随分前の事。 それまではお互い何も意識はしてないし、むしろ他人のように接していたつもりだった。 外の世界から来た俺に特に興味を示す訳でもなく、ただ住処を与えてくれた。 衣食住には困らなかったし、俺も霊夢に干渉するつもりもなかった。 数日前、新しい家が決まった俺に、やっぱり特に何も聞かずに良かったわねと声をかけてきた。 引越しまでまだある。だから今日も特になにもしないで二人でこたつに入っていた。 「なんなんだよ…、一体…」 誤魔化すように自分の頭を掻く。 霊夢と全然違う、少し固い髪。 彼女を思い出している自分に気付いて、見惚れていた理由も、何処となく速い鼓動も、いつも感じる安心感も、納得がいって。 あぁ、そうか、と一人で呟いた。 しばらく、引越しを見送ろう。そして霊夢に聞こう。色々。 誰よりも不器用な彼女は表に出せないだけで、誰よりも寂しかったのかもしれない。 彼女の部屋の前にきて、すすり泣く声が聞こえた時、そう思った。 今日の雨は、一段と冷たかった。さわさわと音を立てて、幻想郷を濡らしていた。 end. ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 64 「ねぇ○○、抱きついてもいい?」 昼飯も食べ終えて何をするわけでもなく居間で炬燵に入りながらボーっとしていた俺に霊夢が突然聞いてきた 「何だよ突然」 「いいじゃない、ね?いいでしょ?」 「ああ、いいよ」 ギュゥ 「……んん、○○の匂いがする 昔どこかで嗅いだことがあるような匂いでそれで安心する匂いがする…」 霊夢が俺の首に手を回し抱きついてくる それと同時に女の子特有の甘い香りが鼻腔の奥にまで漂ってきた 「○○が居てくれるなら私は他の何もいらない だから…だからずっと一緒に居て」 「ああ、約束だ俺は霊夢と一緒にいるよ」 「嬉しい……」 最近の霊夢はよく俺に甘えたがる まるで甘えることで自分がここにいることを確認するかのように 霊夢は弱くなった、それは力の方ではなくて心のほうがだ 誰も深く干渉させなかった霊夢が俺という存在を引き入れた結果 心にスキマが出来てしまったからだ それは博麗の巫女としては駄目なことかもしれない 紫にも 『貴方といれば霊夢は弱くなる、それは幻想郷にとっては害以外のなんでもないわ』 と言われた でも、それでも俺はそれがいくら悪いことでも 『お願い…お願いだから私と一緒にいて、○○が一緒なら私は頑張れるから』 俺に縋り付いて泣きながら告白する霊夢を突き放すことなんて出来なかった だから、だから俺は強くなると決意した 霊夢が弱くなったのなら代わりに俺が強くなればいい どこまで出来るかわからないけどそれでも俺は霊夢の為ならどんなことでもしてみせる ガバッ 「なにボーッしてるの?」 「ああ、霊夢のことを考えてたんだよ」 思案していると突然霊夢に押し倒された 考え事をしてたため俺の体はろくな抵抗を出来ず畳の上に転がった 「そうなんだ…嬉しい」 「霊夢は何考えてたんだ?」 「そんなの勿論○○のことに決まってるじゃない」 「そっか」 「ねえ、それより……しよ?」 「おいおい、昼間からか?」 「○○と愛し合うのに時間と場所なんて選ぶ必要なんて無いわよ」 「せめて場所は選んでくれ…」 求められるのは嬉しいけどいつか宴会の途中で求めてきそうで怖いな… どっちにしろ俺には霊夢を拒むことなんてできはしない それに俺だって霊夢と愛し合うのは好きだ 「いいよ、霊夢、しよっか」 「うん、愛してるわよ○○……ん…たくさん、しよ?」 「ああ、俺も愛してる」 そして俺たちは今日も愛し合う これが罪だと言うのなら受け入れよう 霊夢と一緒なら地獄に堕ちるのも悪くない ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 77 寒空の下、お茶を飲みながら縁側に腰掛けて・・・寒い。 「なぁ、霊夢」 そこにいた紅白の人物に語りかけてみた。 「何よ」 お決まりの台詞だな。だがそれがいい。 だから俺は、その素っ気無い態度を崩したくなったんだな。うん。 「好きだ」 そう、一言だけ告げた 「・・・」 あれ?やばい俺滑っt 穴があったら入りたい。 沈黙は続く。逃げちゃダメだッ! 「あの・・・霊夢・・・さん?」 「・・・なによ」 返答が変わってない。怖い。俺、どうする。 そこで思考がストップした。 唇になんだか暖かい感触がしたが、一瞬だけだった。 「・・・私も」 「それだけじゃ判らん。ちゃんとした文章で頼む。」 俺はもちろん判った上で、そう言った。 「・・・何よ。意地悪」 俺もそう思う。だから俺は行動で示すことにした。 「霊夢。これからも、よろしくな。」 そう言って、今度は自分から、深く、口付けた。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 536 ホーホーホー 「いい夜ね、こんな夜は静かにお酒を飲むに限るわ 藍、貴女も飲むでしょ?」 「はい、ご相伴に預かります」 ホーホーホー 「宴会の席で飲む騒がしいお酒もいいけどこうして静かに飲むお酒もまた格別ね」 「そうですね、紫様」 「今はこの静かな酒宴を楽しみまsy「うわあぁぁーーーん!!ゆがりぃーーー!!」……短い酒宴だったわね」 「……そうですね」 「どうしたのよ霊夢、こんな夜分遅くに」 「うぅ…ひっく、うえぇ、○○が」 「○○がどうかしたの?」 「きょ、今日初めて○○とすることになってそれで、その……」 「なに?はっきり言ってくれないと分からないわよ、なにか変な性癖でもあった?それともイ○ポ?」 「違うわよ!!ちょっと…色々あっただけよ」 ~時を戻すこと一時間前~ 「……霊夢、いいか?」 「わ、私は○○となら……」 「ありがと」 チュッ 「んぅ……はぁっ!……はぁはぁ」 「もしかして霊夢、キスするの初めて?」 「○○以外にされたくないわよ」 (やべっ、興奮してきた)「じゃあそっちの方も」 「そ、そうよ、初めてよ、だからちょっと不安で……」 「そっか、大丈夫、俺も初めてみたいなものだし」 「……初めてみたいなもの?じゃあ○○は私以外の女の人とやったことあるんだ」 「え?あ、その……他の女性とはやったことあるような無いような……」 「こぉんの浮気者!!!」 神霊 夢想封印 「うぎゃー筋肉マーン!!」 ~そして時間は現在に~ 「と、言うわけなのよ、酷いと思わない?」 「……あのね、霊夢、○○も男性なんだから女性経験の一つや二つはあるわよ」 「でも!」 「デモもストもないわよ、いいじゃない、リードしてもらえるんだし 第一今は霊夢が○○の恋人なのよ、○○が経験あってもそれは過去の女 別に浮気してるわけじゃないんだしいいじゃない」 「……それも、そうだけど」 「それに霊夢貴方○○に夢想封印してそのままほったらかしでしょ? 帰らなくていいの?」 「あ!!わ、私帰るわね!!」 「はいはい、あんまり痴話喧嘩を飛び火させちゃだめよー」 「はぁ、慌しい事で」 「お疲れ様です、紫様」 「なんか他人ののろけを聞いてたらムカムカしてきたわね 藍、朝まで飲むわよ」 「じゃあおつまみを作ってきますね なにがいいですか?」 「貴女に任せるわ」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 995 霊夢、俺と結婚しよう。嫌とは言わせない ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/toho_tactics/pages/22.html
霊夢 + 目次 特徴スペック 説明 長所 短所 技はたく 妖怪バスター 結界 立ち回り戦法 サバイバル キング チーム考察 キャラ対 特徴 スペック 体力 ディレイ 移動量 100 2 2 説明 生粋のサポート要員。 相手の技を封じる「妖怪バスター」や、攻撃を無効化する「結界」など防御寄りの性能の技を持つ。 特に「妖怪バスター」が優秀。10SPと低コストなのでSPを溜める気がなければ毎ターンばら撒くことも可能。もし当て続けられれば相手1体の戦力を無くすことが出来る。 ディレイがそこそこな「結界」を上手く使えば、魔理沙の「マスタースパーク」などのディレイが遅い大技も防ぐことが出来る。 ただし火力は全キャラ中最低火力。 最大ダメージの技で10ダメージしかないため、敵を倒すのには滅法向いていない。 「妖怪バスター」を毎回撒いたとしても、大抵どこかで外れて反撃を喰らい、ゆくゆくはダメージレースで負けてしまう。 あくまでサポートとして、相手に行動をさせないポジションとして頑張ろう。 長所 相手の行動を封じることが出来る 大ダメージから一時的に逃れられる 移動量と「結界」のおかげで攻め・逃げのどちらにも徹しやすい 主力である技のコスパがいい 短所 火力が全くない 範囲技を持たないため多人数に攻められるとキツイ(主に上海) 技 はたく 威力 ディレイ SP 段差 10 1 5 × 近接技。 「妖怪バスター」を当てた後なら、相手から近接技をカウンターされる心配がなくなる。 妖怪バスター 威力 ディレイ SP 段差 10 2 5 × 当たった相手は2ターンの間技を出せなくなる。 コスパが良くガンガン振っていける。 ターン数はターンが終わったタイミングにカウントされる。 結界 威力 ディレイ SP 段差 0 2 40 × 3ターンの間、技を喰らわなくなる。 「結界」を貼ったと同時に攻撃を喰らった場合でも防げる。 選べるのは一体のみ。自分に選択することも可能。 ターン数の数え方は「妖怪バスター」と同じ。 立ち回り 戦法 根っからの前衛向き。 基本的には技が強い&避けられにくいキャラが多い移動速度が少ないキャラに対して積極的に「妖怪バスター」を振っていく。 「妖怪バスター」は毎回撃てるためガンガン振っていける。 しかし、ある程度SPを溜めておかないと、いざというときに「結界」が貼れなくなる。 大技を持っている魔理沙・咲夜・パチュリー・レミリアのSPが溜まりつつあったら、SPを40まで溜めておくのが良い。 また、ディレイの遅い技に対しては「妖怪バスター」で封じる&「結界」で防げるので、ディレイの遅い大技を使う「魔理沙」「パチュリー」などには強気に立ち回れる。 とは言っても2ターン程の一時しのぎにしかならないため、危ないと感じたらすぐさま逃げるのも大事。 「結界」は基本的に自分に貼る。 他のキャラに貼る場合、どうしても隣接しないといけないため「マスタースパーク」などの大技の巻き添えを喰らいやすい。 サバイバル 説明 キング チーム考察 キャラ名 キャラ対 霊夢 説明 魔理沙 とっとと近づいて封じたい アリス 全ての攻撃を当て、上海人形を倒したタイミングで上海人形を生成される 1対1だとほぼ間違いなく倒せない相手 レミリア 「妖怪バスター」で「グングニル」を封じれば、味方のレミリアの「グングニル」を安全に撃てるようになる。 咲夜 にとり 説明 パチュリー パチュリーの移動より先に「妖怪バスター」が撃てるため、相手するには非常に楽。 天子 攻撃範囲 ヤマメ 「結界」でターンを消費できるので糸から逃れやすい。 そうでなくても「ウェブ」を当てた後は突っ込んでくる場合が多いので「妖怪バスター」を当てるチャンス。 「妖怪バスター」を当てられた場合でもターン消費は出来る。 上記の対応をとれば「ウェブ」+「熱病」コンボから逃れやすく、ダメージレースにも負けにくくなる。 紫 強力な技を持っているため出来れば封じたい相手
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/499.html
霊夢29 霊夢悲恋救済ルート改良案(うpろだ1379) 序 各場面に流れるであろうBGMは自己補完でお願いいたします。 元ネタとなった作品とはかなりの違いが見られますが、ご了承 ください。 序終 ――霊夢悲恋救済ルート改良案――。 分からない。今の僕には、どうすればいいのか。 私はまだ、諦めてないからな! 魔理沙が去り際に残していった言葉。それが何を意味しているか は分からない。彼女は僕のために何かと頑張ってくれたが、それを 諦めない、という意味なのだろうか。 何も思いつかない。母親に見捨てられた子犬の気持ちって、丁度 こんな気分なのかもしれないな。 廃屋の中でどのくらい呆然としていたのか。日が沈み、月が顔を 覗かせて夜になったことさえ気がつかなかった。 幻想郷の夜、人が里の外を歩く事はほとんどない。夜は妖怪達の 跋扈する時間、抗う力を持たない人間は成すすべなく喰われる。 早く戻らなければと慌てて廃屋を飛び出したが、そこから先に 進むことはできなかった。 狼のような姿形をした妖怪が絶好の獲物を見つけたとばかりに 息を荒げて待ち構えていたのだから! まずい、と思った瞬間にそいつは並の人間―つまり、僕だ―なら 反応できないような速度で飛び掛ってきた。一気に間合いを詰められ、 直後に巨大な杭でも打ち込まれたかのような鈍い衝撃が腹部へ走る。 休む間も無く今度は背中全体に激痛が走った。吹き飛んで廃屋に 叩きつけられたのだと分かった瞬間、体の奥から逆流してくる何かを 堪えられずに咳き込んで吐き出してしまう。 血、だ。 内臓をどれかやられたのか。どこか骨が折れて刺さったんだ。 妖怪はそんな僕をなぶるように腕を、肩を、足を、抵抗する力を 僅かも残さぬとばかりに爪を立て、時には殴打し、傷を作る。爪が 皮膚に食い込み引き裂くたびに鮮血が飛び散り、奴の顔を汚した。 もっともこの妖怪にとっては、食事の前の運動の途中でできた 血化粧のようなものなのかもしれないが。 視界がうねり、時に渦巻き、かと思えばゆっくりと元に戻り、 そしてまたうねり出す。意識が朦朧として、体に力が入らない。 このままでは、僕は、こいつに、喰い殺される。逃げようにも 逃げられない。逃げたところで、すぐに追いつかれるのがおちだ。 ここまでなのか。こんな形で僕は死ぬのか。彼女を苦しめて、 悲しませて、魔理沙まで同じ目に遭わせ、妖怪に喰い殺される。 我ながら惨め過ぎるなと思う。 一方でもうどうなってもいい、とも思っている。こんなに惨め ならば、別にここで終わったって構わない。 妖怪の顔が近づいてくる。いよいよだ。 地獄で閻魔様に思いっきり怒られよう。そして転生する機会も 与えられずに消滅させられても、何も文句はない。 ごめん霊夢、ごめん魔理沙、それと、さようなら。 それだけを思い、目を閉じた。 「やめてぇぇ!!」 「やめろぉぉ!!」 聞き覚えのある二人分の絶叫とともに、目を閉じていても分かる ほどの眩い光がよぎる。 直後、変な悲鳴とともに妖怪の気配が消えた。吹き飛んだのか。 一つ言える事は、妖怪に喰い殺されなくなった、ということだ。 誰が近づいてくる気配がする。それが誰なのかは、残念ながら 見ることも知ることもできそうにない。瞼を開けるほどの力さえ、 今の僕には残っていないのだから。 あの聞き覚えのある二人分の声だけが耳に入ってくる。物凄く 焦ったような、悲しみに満ちたような、そんな声だ。 「…さ…!…ん!」 「起…ろ!死…な!」 駄目だ。これ以上は、意識が保たない。声が遠ざかり聞こえなく なっていく。そうして体中の感覚が少しずつ消えて。 闇に全てが遮られた。 ぼやけた視界がゆっくりと輪郭を取り戻していく。薄暗いけれど 完全な闇ではない。状況を把握しようと首だけ動かして分かったのは 今の僕は布団に寝かされ仰向けになった状態だということ。 そしてここは野外ではなく、どこかの人工的な建物だということだ。 木製の天井、格式ある雰囲気。人里の守護者であり賢人の慧音さんの 庵か、または天才薬師永琳さんのいる永遠亭か。 起き上がろうとすると、体全体が軋むように痛んだ。どのくらい あいつにやられたのかはっきりしないけど、少なくとも体を動かす のは難しいことがわかる。 そこにからっと襖が開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。 ! いや、誰かなんて曖昧な表現など必要ない。なぜなら入ってきた 人は僕がよく知っている彼女だったから。どんなに薄暗い場所でも 彼女の紅白衣装は目立つので、すぐわかった。 「博麗、さん?」 僕の第一声を聞いた霊夢は何も言わず、いや言えずに立ちつくす。 薄暗いこの部屋の中では表情をうかがい知ることは難しいが、多分 今ここで起こったことが信じられないと言うような表情だろう。 何とか痛みを堪え、上半身だけを起こし彼女に問う。大丈夫だよと 伝えるように。 「ねぇ、そこにいるの博麗さんだよね?」 二度目の問いの後、霊夢はゆっくりとした足取りで僕に近づき、 すぐ隣に立ったあたりで静かに膝を着く。漸く拝むことができた 彼女の表情は、安堵感に溢れていた。 「よかった……目が覚めたんだ」 「ねぇ、一つ聞いてもいいかな」 彼女はうん、と頷いて答える。 「あの時、助けに来てくれたのは博麗さん?」 魔理沙もいたわよ、と霊夢。そうか、二人分の声がしたのは 魔理沙も一緒だったからなんだ。彼女達の力だったら生半かな 実力の妖怪程度、軽く吹き飛ばせるだろう。 「今更かもしれないけどごめんね、心配させてしまって。それと」 ありがとう。 あの時、本当に死んでも構わないと思っていた。これ以上生きる ことに何の意味があるんだ、と半ばヤケクソで。 でも彼女達は、彼女は、そんな僕を助けてくれた。護ってくれた。 そのことが単純に嬉しい。 ●●さん、彼のことを想っているという事実を差し引いても、だ。 「いいの、お礼なんていらない」 妖怪退治は博麗の巫女の仕事だもの。当然のこと、と言うように 答えて彼女の告白は続く。 「それに、謝らなくちゃいけないのは私だから」 「博麗さんが?どうして?」 彼女が僕に謝ることなんて、どこにあるんだろう?謝らなければ いけないようなことばかりしたのは僕なのに。 「最初に本当のこと、言うわね。私が好きな人は●●、ううん、 ●●さんじゃないの……あなたよ。私が、好きな人」 「僕?」 そうよ。わたしはあなたが、○○さんがすき。 彼女のこの言葉が、僕の思考を一瞬で埋め尽くす。確かに彼女は 僕のことを好きだと言った。一瞬夢じゃないかとも思ったが、体に 走っている痛みが皮肉にも現実だと伝えてくれている。 そして、彼女の告白は続けられた。 「それともう一つ、話しておきたいことがあるの」 霊夢から聞かされた話。それは、●●さんと付き合ったのは全て 僕の気を引こうとした彼女の稚拙な作戦。 彼との仲を深めるための相談を持ちかけたのも、前の宴会で彼と 自分の仲が良いことをアピールするため叫んだことも、僕の様子を 伺うためにやったことだと彼女は語った。 「正直言うとね、怖かった。あなたに告白して振られてしまったら どうしようって。そう思うといつも何も出来なかったから、彼に、 ●●さんに無理を言って付き合わせていたの」 それは僕も同じ。あと一歩踏み込みたかったけど、最悪の結果に なったらと思うとどうしても、どうしても一歩先に進めなくて。 怖かったんだ。 「相談を持ちかけた日、あなたは私に告白しようとしてたでしょ? それも今日決めた、じゃなくてずっと前から機会を伺っていたんだと 思うの」 「うん……あんな結果になったのは流石にショックだったけど」 「その時からすれ違っていたのね、私達。今日あなたに告白された時 凄く吃驚しちゃった。知らなかったの、私のことを想っていてくれた なんて、その時は全然」 その時答えられず逃げるように去ったのは、嘘とは言え●●さんと 付き合っていることと、そのことをどう説明したらいいのか、そして 実際僕に告白されたらどう返していいか分からなかったからだろう。 分かるような気はする。あの時のあんな状態で霊夢に本当のことを いきなり語られたら、僕もうまく答えられるかどうか。 傷だらけの僕の体を労わるように、彼女の手が僕の手に添えられる。 「あなたのこと独りにして逃げちゃったせいで、心だけじゃなくて 体までこんなにぼろぼろに……」 「あ、いや、これは僕の無用心だから。自業自得だよ」 それは嘘じゃなかったから。心はともかく、この大怪我は幻想郷の 夜がどれだけ危険であるかを分かっていながら、油断した僕に責任が ある。彼女は悪くない。 だけど彼女は続ける。自分を責めるように、罰するように。 「違うの!私が、私がちゃんと本当のことを話さなかったから…っ! 私、が、ぁっ……!」 言葉が喉に詰まってうまく語れない、そんな表現が当てはまる。 さっきまでちゃんと会話できていたのが、嘘のようだ。 …嘘だって?いや、逆じゃないのか? 霊夢は、ここまで何とかしてほんの僅かなきっかけで粉々に砕け 散りそうな平静を保っていたんじゃないか? その平静を砕こうとしているものは何だ? 罪悪感、だ。僕を苦しめ、傷つけてしまったことへの。 僕の手を握る彼女の小さな手。僅かに痛みを感じる、それ以上に 彼女の自責の念に苛まれた表情が見ていて痛々しい。 普段の暢気な、時に強気なところを見せる普段の彼女からは想像 出来ない、弱々しい表情。 「わ、私っ、あなたが、しっ、死んじゃったらどうしよう、って、 永琳、が、ここにき、来てっ、治療してる間も、すごく不安で、 だ、大丈、ぶ、だ、って聞かされて、も、安心っ、できなくて…!」 大きな赤い瞳に少しずつ涙が溜まる。彼女の理性が限界を訴えて 悲鳴をあげているようにも見えた。 「怖、かったの、っ!あなたが、い、いなくなっちゃうのが、っ!」 必死で搾り出すように彼女は言葉を繋ぐ。爆発寸前の感情を一生 懸命押し留めて。目に溢れた涙が今にも零れ落ちそうになっていた。 「お、願いだか、らっ、死のう、な、んて、思わないで……っ! も、うこ、れ以上っ、自分のこと、い、苛めな、いで……っ!」 ここから先は言葉にならなかった。霊夢の我慢が限界に達して 目から大粒の涙が零れ、彼女の頬を伝い落ちていく。 その瞬間。 体に衝撃が走り、後ろに倒れそうになるのを何とか堪えてその 原因を調べると、霊夢が僕の胸元にすがりつき顔をうずめていた。 「ごめん、なさい……ごめんなさ、い……っ!」 傷つけちゃって、本当にごめんなさい。 後はもう言葉にならなかった。残り全ての理性を搾り出すように 謝罪の言葉を言い終え、僕の胸の中ですすり泣く霊夢。 霊夢。君をまた泣かせちゃったね。 肩にそっと手を添え、髪を撫でて宥めながら彼女が泣き止むのを 待つことしか、僕に出来ることはなかった。 彼女が泣き止んだのはいつだったか。実際数分と経っていないと 思うが、霊夢の嗚咽が止むまで何時間もかかったような気がする。 「博麗さん、今度は僕の話も聞いてくれる?」 今度は僕の番。もう一度自分の気持ちを、想いを伝えよう。 「正直に話してくれてありがとう。でも僕の気持ちは変わりません。 前にも言った通り僕は君のことが、博麗霊夢さんが好きです」 「どう、して?私、あなたに凄く酷いことをしたのに。嘘をついて 傷つけたのに。それでも私のこと、許してくれるの?」 でも、それは過ぎ去ったこと、終わったことだから。 「どこかで聞いたことがあるんだ。池に小石が投げ込まれて小波が 立っても、終わってしまえば静かなものだって。だから」 もう泣かないで。可愛い顔が台無しになっちゃうから。 「昔の事は気にしません」 これまで辛いことばかりで泣きたくなった、いや実際泣いた。 でも、全てが丸く収まったと思う。終わりよければ全てよし、と 言ったのは誰なのか。いい事を言ったものだと思う。 「ありがとう……」 今度は目に涙が浮かんでいても、表情は確かに笑っていた。 ――それから数日後の博麗神社。 両腕の骨折、あばら骨3本にヒビと多量出血。頭は強打された ものの、脳に異常はなし。 永琳さんの残していった書類に記載されている診療結果をみて よく生きていたなぁと思わされる。 境内を掃き掃除する霊夢の手はほとんど動いていない。僕が来る さっきまでは掃除をしていたんだろう。 「完治まであとどのくらいなの?」 3ヶ月だよと答える。まだ両腕が不自由なのは困りものだけど、 2本の足で歩く事はできるのが幸いだ。こうやって、神社でまた 彼女に会うことが出来るから。 しかし両腕が不自由なことがこんなに辛いものだなんて思った ことはなかった。御飯を食べたり服を着替えたりする当たり前の ことが、他人の助けを借りなければ満足に出来ないなんて。 霊夢が腕が痛むのと聞いてくる。そんなに痛そうな表情だった ろうか。確かに今のままでは物を持ったり掴んだりなど問題外だ。 「ぶつけたり素早く動かしたりすると、危ないかな」 「それじゃあ……」 霊夢が僕に抱きついてくる。 「っ!?」 「こうしても、痛む?」 「う、ん。大丈夫、かな」 「じゃあ、もうちょっと……」 ぎゅっと腕に力を入れる霊夢。そしてその直後。 「……大好き」 ささやくような声が耳に入る。できる限りで霊夢をしっかりと 抱きしめ、僕も彼女に伝えた。 「僕も…博麗さ、いや、霊夢のこと、大好きだよ」 まだちょっとぎこちないわね、えい。 う、ま、待って、やっぱり痛いです。 だーめ。もっと自然に霊夢、って呼ばないと許さないから。 傍から見れば只の惚気にしか見えないような光景だけど、僕と 霊夢は抱擁を交わしながら語り合った。今まで足りなかった分を 埋め合わせていくように。 晴れた幻想郷の午前の空はどこまでも蒼く、白い雲がいつもの ように流れる。 今日も幻想郷は概ね平和です、と言うように。 終わり ~ふすまの裏 夜も深まった稗田邸。 「これで全部丸く収まりましたね」 御阿礼の娘九代目にあたる少女阿求は、魔理沙と共にこっそりと 二人の様子を伺っていた。今夜はもう紅茶は飲まないことにしよう。 いつもの三割増の甘さだろうから。 まさかこんな展開になるとはな、とため息をつきながらひとり ごちる魔理沙。微糖入りコーヒーを何杯となく目の前に出される 気分とは、こんなものなのかもしれない。 霊夢が傷だらけの○○を背負い、血相変えて一部屋貸してほしい と言われた時は流石の阿求も驚いた。しかし怪我人、それも重体と なれば一刻を争う状況である。 速やかに部屋と布団を一式用意し、応急処置を可能な限り施した ところに竹林の薬師永琳を魔理沙が文字通り「引っ張って」現れた。 ところどころ衣服が破れていたのは、それほど急いでいたのだろう。 並の医者では助けられないほどの危険な状態の彼を救うためには、 永琳の助力を借りる必要があった。しかし、彼女のいる永遠亭へ 向かうには妖怪がいるあの竹林を抜けなければならない。 連れて行くには彼の体が時間・移動両方の負担に耐えられない。 竹林は妖怪の危険だけではなく、只の人間が入ると迷ってしまう 厄介な場所で、霊夢達でも迷わない保証はない。 霊夢は応急処置を施すために手近な家、つまり稗田邸へ向かい、 魔理沙は永遠亭へ急行し永琳に手短に状況を説明し、連れて来る。 二人が短時間の間に導き出した結論がこれだった。 幸い、魔理沙は迷わずに済んだようだ。 後は言うまでもないだろう。月の天才に不可能はないのだ。 おめでとうさんだぜ、二人とも。 それは、魔理沙が彼のことを少なからず想っていたこともある からこそ使えた静かな祝福の言葉。ここで出るは野暮と言うもの、 お邪魔虫は静かにしていよう。 「阿求、今夜は泊まるから私が包まるための布団出してくれよ。 それと、朝御飯も頼んだぜ」 「むっ、魔理沙さんは泥棒家業に飽き足らず他人の家でも我が家の ように振舞う趣味があるんですか。茣蓙程度なら用意できますが」 少々むくれたように返す阿求。皮肉どころか毒舌である。 「ひどいぜ」 そうは言うものの、少しも悪びれないのが魔理沙だ。紅魔館や 博麗神社でもずかずかと上がり込んでいくのだ、この程度のこと では堪えないだろう。 ……ならば。 「それでも布団が欲しいと仰るのならこの立ち居振る舞い一部始終を 幻想郷縁起に加筆させてもらいますが、構いませんか?」 「わかった、悪かったからそれだけは勘弁してくれ…以前のように 余計な一言で私の誤解が広まったら堪らん」 流石にこれには降参するしかないだろう、以前阿求は魔理沙から 何か一つ項目に追加して欲しい、と言われ幻想郷縁起に泥棒家業の ことを追加した逸話がある。 「冗談ですよ、今から用意します」 遅れましたが、私からもおめでとうございます。どうかお幸せに。 こうして稗田邸でのそれぞれの一夜は更けていくのだった。 ~ふすまの裏、終わり ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ157 「はぁ…ようやく終わった…」 5人分の洗い物を終え、俺はようやく一息ついた。 幻想郷に迷い込んでから数ヶ月、今はここ博麗神社にお世話になっている。 家主の霊夢とは…その、コイビトドウシ、だ。 幻想郷に迷い込んだ日、妖怪に食われそうになっている俺を助けてくれた、紅白の巫女。 強くて、可愛くて、ふわふわとした霊夢に惹かれるのにそんなに時間は掛からず… ヘタレの俺は幻想郷住民の協力を得て、霊夢と恋仲になった。一ヶ月くらい前の話か… あの恥ずかしい告白は思い出しただけでスキマに逃げたくなる。 閑話休題。 幻想郷にも冬の訪れが近く、昼間とはいえ水仕事は中々に辛い。 しかも今回は昼食にお呼ばれ(+勝手に来た)した魔理沙・萃香・アリス含めた 5人分の洗い物、更にあのロリ鬼のおかげで半ば宴会状態になってしまい、 ごちゃごちゃになった居間の片付けもしたので、大分時間が掛かってしまった。 「すぅ…」 霊夢は縁側で静かな寝息を立てていた。傍らには飲みかけのお茶。…ほんとにお茶好きだな。 太陽は出ているが寒空の下、腋巫女服で眠る少女は見ているだけでこっちまで寒くなってくる。 当の霊夢は太陽の光を浴びてすやすやと眠っているが… 時折吹く木枯らしが霊夢のさらさらの髪を撫で、わずかに揺れる。 「すぅすぅ…」 …あー…可愛いなぁ… 「…ん…○○…?」 あ、起きた。目をごしごしするれいむかわいいよれいむ。 「片付け、終わったの?」 まだ眠たそうな霊夢が残っていたお茶に手を取りながら俺に言う。 「起きて第一声がそれかよ…さっき終わったよ」 「ん、じゃ次洗濯物取り込んどいてね」 「…コキ使うなー…」 今は博麗神社に霊夢と二人で暮らしているが、その、なんだ。 俺は現在特に仕事がないので家事全般は俺が行っている。 …NEETじゃないよ?てか霊夢も何もしてない気g(ry 「居候なんだからそれくらいするものよ。にーと、だっけ?にーとなんだから。」 「なッ…!」 違う!俺は…NEETじゃない!どこぞの蓬莱NEETじゃない! 仕事が…仕事が見つからないだけなんだ!! 「にっ、NEETじゃねーよ!いいかぁ!?俺はs「はやくやりなさい」…はい…」 居候は家主に逆らえないZE☆ 「…ったく、毎日がこんなだと外に帰りたくなるなー」 「え…」 霊夢に背を向けて何気なく、でも霊夢に聞こえる様に言った、何気ない一言。 いつも通りのジョークで、いつもなら霊夢に軽ーく流されたりするんだが。 ぎゅっ… 「れい、む?」 「…だめ……」 後ろから霊夢に抱きつかれていた。背中に霊夢の鼓動をモロに感じてしまう。 「…いか…ないで……お願い…」 消えてしまいそうな、小さな声。微かに震えているのが分かった。 さっきまでとは別人…と思ってしまうような、俺にしがみ付いている霊夢。 「どう、した?霊夢」 予想外の事に混乱する頭からようやく上擦りながらも言葉が出た。 「…夢を、見たの」 「夢…?さっき寝てた時?」 「うん…○○が、私を置いて…外に…帰っちゃう…夢…」 涙を堪えながら話しているのが、分かった。 俺の体は、考える前に動いていた。 「霊夢っ」 「○○…?んぅっ!?」 霊夢を正面から抱きしめ、その唇を奪う。 いきなりの出来事に霊夢の瞳が大きく見開かれているのが分かった。 「んんっ…はぁっ…あむ…」 しかしすぐに霊夢もキスに没頭する。 互いに、相手の温度を、愛情を、存在を確かめるように唇を奪い合った。 「ぷはぁ…」 先に唇を離したのは俺の方だった。 霊夢を見る目と顔が赤い。…やっぱり泣いてたのか…。 「はぁ、はぁ…霊夢…っ!俺が、霊夢を置いて何処かに行くわけないだろ…っ」 「ふぅ、ふぅ…○○…だって…」 霊夢の目にまた涙が溜まっていく。 「ずっと、霊夢の傍にいる。約束する。」 「○○…」 霊夢の細い体をぎゅっと抱きしめる。 もう離さない、と言わんばかりに。言葉にした「約束」を体言するように。 「うん…ずっと…傍にいて…○○…」 目は真っ赤だったが、霊夢はやっと笑ってくれた。 「ね…キス…」 「ん…霊夢が不安ならいくらでもするぞ」 「不安じゃないとだめなの?」 「勿論いつでもOKだ」 「ふふっ…んっ…」 俺と霊夢は再び唇を重ねた。 翌日以降、霊夢はすっかり元の霊夢に戻っていた。 相変わらず俺をこき使っているが、それがニュートラルみたいなものなので、安心した。 変わったことと言えば、そう…キスをおねだりするようになったこと…か。 今までの霊夢はそんなことなかったので、ちょっと驚きだ。 「○○」 「ん、霊夢か。掃除は今終わったぞ」 「ありがと…ねえ…?」 ああ、ほらきましたよ。こんな感じですよ皆さん。 目とか潤ませちゃって、もう辛抱堪らないんですよ! 「キスしたいんだよなー…?」 「う、うn…んんっ…」 言い終わる前にその鮮やかな唇を塞いでしまう。 こうなったらもう10分は終わらない。 「ん…霊夢…愛してるぜ」 「ぷはっ…○○、私も…愛してる…ちゅっ…」 ああ、幸せだぜ、俺達… ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ186 今年も終わりに近づいた師走。 幻想郷の博麗神社では早めの大掃除が行われていた。 裏手にある蔵では○○と霊夢が物を退かしながら埃をはたいていた。 「しかしいろんなものがあるな」 「使わないものばっかだけどね」 「ねぇこれ何?」 「ああそれは……」 物珍しいものばかりで逐一○○が霊夢に説明を求めるので一向に作業が進まない。 結局夕暮れになっても半分も片付いていないのである。 「あーもう、○○が説明ばっか求めるから掃除が進まなかったじゃない!」 「ごめん。でもさ、あるよね。捨てようと思った本を読み始めてしまって結局捨てられないことって」 「まあ確かにあるけどね……あれ」 「どうしたの?」 「扉が閉まってる……」 霊夢が扉を開けようと力を入れて押しても扉はピクリともしない。 ○○が代わりに押したり引いたりしても変わらない。 「うそ……閉じ込められた? 何でー!」 「うわぁ……何かベタな展開だなー」 焦る霊夢にのんびりしている○○。 「ずいぶんと余裕ね」 「だって霊夢扉開けたままでしょ?」 「ええ、閉めた覚えはないわ」 「じゃあ外から誰かが閉めた。そうとしか考えられない。で、そういう悪戯をする人は山ほどいるでしょ?」 「……あんたも十分この世界に馴染んできたわね」 「じゃないとやってられませんから」 ○○は奥に戻り毛布を見つけてきた。少しほこり臭いが文句は言えない。 一枚を床に引いてポケットに入っていた食べかけのチョコレートを半分ずつにして夕食代わりにした。 完全に日も落ちて明かりとりの窓から月の光が差し込んでいる中、二人は毛布に包まって寒さをしのいでいた。 身を切るような寒さで床に引いた毛布ごしに熱を奪われていく。 ○○も寒いだろうが彼は霊夢を気遣っていた。 「霊夢、寒くない?」 「寒い……」 「じゃもっとこっち来なよ」 「……変なことしない?」 「何さ変なことって」 「そうね、○○にそんな度胸ないわよね」 「酷い言われようだなぁ」 寄り添ってきた霊夢は体を震わせていた。 ○○は彼女を抱きしめるとお互いを毛布でくるみそのまま横になった。 「きゃっ!?」 「こうすれば暖かいよ」 「ん……」 スキマ風が入らぬようぴったりと体をくっつける。 ○○の身体の熱がゆっくりと霊夢に馴染んでいく。 それによって体の震えも治まってきている。 「○○、体温高いのね」 「んー、普通は女性の方が高めだけどね」 「そうなんだ……。ねぇ○○はさ、こうやって誰かと眠ったことはある?」 「女性は母さんを除けば霊夢が初めてかな」 「私は今回が初めて。今まで一緒に眠るなんてことなかったから」 「そうか。でどうだい? 誰かと眠るのは」 「何だか満たされる。○○の温かさが感じられて」 「……もっと強く抱きしめてもいい?」 「うん」 とくんとくんと互いの鼓動が相手に伝わる。 暖かな吐息が心地よい。 ぽかぽかと体が温まるにつれて眠気がやってくる。 「……霊夢の身体、温かくて柔らかくて気持ちいい……」 「なにいいだすのよぉ、えっちぃ……」 「そんなつもりはないよ……ただ本当のことを言っただけだよ……」 「そう……なら……信じる……」 夢うつつの中だんだんと会話が途切れ、瞼が降りてきて二人はお互いの温かさに包まれて眠りについた。 次の日、○○は窓から差し込む光によって目が覚めた。 冬の朝の冷たい空気を吸い込み、頭の中をはっきりさせる。 まだ霊夢は○○の腕の中で眠りについている。 優しく霊夢の身体をゆすると目を擦りながら彼女は目を覚ました。 「……うにゅ、おはよぅ……」 「おはよう」 「……寒い」 「ちょっと、れ、霊夢?」 「……うにゅう、あったかぁい……○○のにおいだぁ……」 寝ぼけているのか○○に身体を押し付け安心したようにまた眠ってしまう霊夢。 結局ちゃんと目を覚ますのにしばらく時間がかかってしまった。 ちょっとした失態を見せてしまった霊夢は若干頬が桜色に染まっている。 相変わらず扉は閉まったままで霊夢はため息をついた。 「しょうがないわね。○○危ないから離れていて」 ○○が扉から十分距離を離したのを確認すると一枚のカードを取り出した。 「夢想封印!!」 いくつもの光球が扉に着弾して轟音と共に扉が吹き飛んだ。 「……何で昨日そうやって開けなかったのさ」 「誰が扉を直すのよ。最終手段として使ったの。はぁ……修理にどれ位かかるかしら……」 憂鬱な表情を浮かべる霊夢を伴い蔵から出るとそこにはすっごく不満げな顔をした紫がいた。 何故蔵の前でそんな顔をしているのか分からないので○○は彼女に話しかけた。 「えーと、紫さん? 何故ここに?」 「……つまらない」 「はぁ?」 いきなり脈絡のないことを言われて○○は呆けた顔になる。 「なによなによ! せっかく蔵の中に閉じ込めて二人が若さに任せていやーんあはーんなことすると思ったらただ抱きしめて眠っただけ!? どんだけ紳士なの!? ヘタレ!? それとも不能なの!? ○○のチキン! 朴念仁! ED!」 「なっ!? やっぱりアンタだったのね! 勝手に蔵の扉閉めたの!」 「霊夢も霊夢よ! その巫女服は何のためにあるのよ! ○○を欲情させなさいよ! その腋で○○を誘惑しなさいよ! 襲いかかる位の解消見せなさいよ! この貧乏巫女!!」 「あ、あんたねぇ……っ!」 「ふーんだ! 仲良く掃除なんかしているんじゃないわよー! ばーかばーか!!」 言いたいことを言いきるとさっさとスキマの中に消えて行ってしまった。 あっけにとられている二人に落ち着いた、しかしどこか疲れている声がかけられた。 「すまないな。紫様が勝手なことして……」 そこには彼女の式である八雲藍がいた。 「いえ、確かに今日の紫はあまりにアグレッシブでしたけど……何かあったんですか?」 「昨日、マヨヒガの大掃除をしていたんだが紫様に邪魔だからどこか遊びに行っていてくれって言ってしまって、すっかりヘソを曲げてしまってな」 「まったく、それで人のところまで来て嫌がらせって……」 「本当にすまない……お詫びと言ってはなんだが朝食と風呂を沸かしておいた。どちらを先に使ってもかまわないのでゆっくり疲れを落としてくれ。 私は蔵の扉の修理をしているから」 「ありがとう。藍さん」 「後で紫に覚えておくようにって伝えておいて」 神社にあがり○○は霊夢に声をかけた。 「で、先にどっちにする?」 「そうね……ご飯もいいけど先にお風呂入りたいわ」 「そう、じゃ……よっと」 「きゃっ!? な、何するの!?」 ○○は霊夢を抱き上げ落とさないようしっかりと腕に力を込める。 「さっき紫にボロクソに言われたから、決して不能じゃないことを証明しようと」 「えっ!? ええっ!? そ、そんないきなり……わ、私は気にしてないし」 「んー、ぶっちゃけると霊夢の身体柔らかすぎて抑えるのが精いっぱいだったんでこれから風呂でじっくり堪能しようかと」 「……そ、そう? ならいいわ、よ……」 首に腕を絡め全てを○○に預けた霊夢を○○は風呂場に運んでいった。 「くふふ……やっぱり抑えきれなかったのね。男の子ねー。じゃあさっそく出歯亀を……」 「紫様、いいかげんにしてください。さ、扉直すの手伝ってもらいますからね」 「いやー! 藍離しなさーい!! 二人の睦みを覗くのよー!!」 ───────────────────────────────────────────────────────────